その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社

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1章 敵国の牢獄

1-66 鬼のいぬ間の雑談?

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「さすがは、クロウ」

 規格外すぎる。
 どうして、あの十六班の上級魔導士どもはこんなクロウの成果を知らないままでいられたのか、不思議すぎる、謎すぎる。

「お茶どうぞ。クロウ様はどちらに?」

 ラウトリス神官が直々にいれてくれたお茶というのは貴重品である。どんな高価な茶葉でいれたお茶も敵わない。
 大教会の奥にある、信者には見えないスペースで、お茶菓子とともにテーブルに並べてくれた。

「クロウならトイレに行きました」

 立ったままのセリムが無表情で答える。
 あまりにもぶっきらぼうだが、あのラウトリス神官の美しさがわからないとは。
 コイツがライバルにならない方がありがたいが、クロウに向ける表情の柔らかさから、捕虜になって人間が丸くなったな、という考察は完全な間違いだったようだ。

「、、、護衛ならトイレにもついていかなくても良いのか」

 一応、素朴な疑問を私は尋ねておく。

「(銀ワンコがついていっているから何かあればわかるし)クロウに勝る戦力はどこにも存在しませんよ。クロウに護衛が必要なときというのは、人手が必要なときです」

「ああ、そう。なあ、セリム、お前はリンク王国の魔法障壁がクロウ一人の力によって成立していたと知っていたか?」

「、、、捕虜になってから聞きました」

「一人の力でリンク王国の魔法障壁が維持されていたとは、さすがは大魔導士クロウ様。すごいですねえ」

 教会長がお茶を飲みながら、うんうん頷いている。

「クロウ様がこの帝国の捕虜となってから、リンク王国はその魔法障壁を維持できていないようですね。本当に真実味が増します。各国の教会からの便りを読んでいると、相手が帝国でなければ、という動きが大きいと聞きます」

「て、帝国でなければ、というのは具体的にはどういうことなのですか?」

「もちろん自国にスカウトしたいという動きです。たった一人であの規模の魔法障壁を維持できる魔力量を持つ魔導士なんて、私も他を知りません」

「はは、、、スカウトが成功したら、リンク王国の二の舞になりそうですね」

 クロウに王宮の大部分の魔力充填を任せていたリンク王国のように、彼がいなくなれば途端に機能不全に陥る。
 ただ、リンク王国の場合、彼を手放したのはリンク王国自身が決めたこと。奪われたわけでも何でもない。
 愚かにも、彼が何をしていたか正確に知ったのはすべて終わった後である。今でもなお事実を捻じ曲げようとする輩も少なくないが、今の王宮の惨状がすべてを物語っているのに彼らの目には見えていないのだろうか。

 そして、リンク王国は第四王子直属部隊はたった一人を除いて全員が死亡したと思い込んでいる。
 元気で全員捕虜として生きていると知ったときには驚く、というだけでは済まされない驚き方を彼らもすることになるだろう。

「ふふ、さすがに他の国々はリンク王国と同じ轍は踏みませんよ。オルド帝国も捕虜のクロウ様一人に何もかも任せようとはしていないでしょう。けれど、国内外に抑止力になる魔導士は、自国に存在してくれるだけで充分な国は少なくないのですよ」

「ただいるだけでは非常にもったいない、と思ってしまうのは私が貧乏性だからでしょうか」

 身分が保証されない他国に自ら選択して来たというのに。
 それだけ、リンク王国での魔力充填作業がトラウマになっているのか。
 宮廷魔導士団の上級魔導士全員の魔力をもってしても、王宮の魔道具だけでさえ充分に満足させられない。
 本来なら国防に最重要な魔法障壁が後回しにされたのは、王族の優雅な生活を維持させるためだけだ。
 そのために犠牲にされたのは、リンク王国の将来だ。
 あの国が本当に泥船だったことを、他国にいることで悲しいほどに自覚する。

「リーウセン様、もったいないと思うのは、クロウ様が今まで魔法障壁や魔道具に使っていた魔力を無為にしていると思っているからでは?今でも、クロウ様は大教会の修繕作業に尽力されておりますよ。(聞かれない限り、白ワンコのことは黙っておきますが)」

「それはそうですけど、クロウの魔力量はあまりにあまりまくっている気がするんですよね。売れば一財産になりそうなのに」

 セリムへの視線が全然合わないなあ。
 何か知っていそうな気がするけど。

 私のその視線に気づいたラウトリス神官が。

「セリム様もお茶をいかがですか」

 羨ましいっ。ラウトリス神官からお茶を勧められるなんて。私も飲むのを待っていれば良かったかな。

「いえ、お気遣いなく。クロウがこちらに戻り次第いただきます」

 ブレないなっ。
 せっかくラウトリス神官が勧めてくれたのにっ。

「クロウにいろいろ聞きたいのにっ」

「何を?」

 セリムが氷点下の視線をくれた。

「いや、だってさー、私だって書類上でしかクロウの実力は確認できてないからさー。クロウの魔法も実際に見たいーっ」

「見てるじゃないか」

「見たのはごく一部ね、ごくごく一部だけ。全属性扱える魔導士がいるなら、様々な研究を試してみたいーっ」

「お前の知識欲を満たすためにクロウはいるんじゃねえよ」

 寒々。ここは極寒地か?お前、実は魔法使ってないか?
 言葉遣いも私だけを対象にすると、ものすごく悪くなってないか?

「ここをリンク王国と同じだと思うな。今のお前がクロウに命令できることは何一つない」

「そりゃ、今は直属の上司扱いだから私からは命令できないけど、いつかはお願いしてみたい」

 大教会の修繕工事の間の私の実務は、クロウの管理下にある。
 本当の上司は帝城にいるけど。

「お願い?」

「そうっ、俺の補助魔法でクロウの魔法がどれだけの威力になるのかの実験を、、、あ、クロウ、お戻りで。ラウトリス神官がお茶いれてくれたよ」

 後ろを振り返ったら、笑顔のクロウがいた。
 この笑顔は完全に営業スマイル。
 私には怖いと思える表情。

 セリムに向けるのが真実の笑顔。いつもというわけじゃないが、クロウもセリムも二人で会話しているときは表情が柔らかい。
 敵国で信頼できる者同士、苦難を乗り越えて来たのか。
 私が仲間に入れるのはいつのことになるのやら。

「あの、おそらく」

「何ですか、教会長」

「その実験は帝国では許可されないと思いますね」

「ええっ、何でですかっ」

 うおっ、素直に聞いたら、教会長にまで営業スマイルを浮かべられた。

「危険だからですよ」

「、、、まあ、そりゃそうですけど」

 魔力量が半端ないクロウだから、それにさらに威力を増大させたら、ものすごいことになりそうだとは誰でも予測できることだけど。

「教会長、リンク王国の上級魔導士は大概こんな方ばかりですよ。危険や倫理は二の次、やりたい実験が決まるとまっしぐら。付き合わされる下級魔導士はどうにか軟着陸させようと努めると」

「クロウ様、非常に苦労されたんですねえ。実力もまったく評価しない国から脱出できて良かったですねえ」

 教会長が目頭をハンカチでそっと押さえる。
 この人、意外と情報通だよな。

「それでも、帝国の捕虜なのだから、あまり待遇改善してないじゃないか」

「いえいえ、リーウセン様、全然違いますよ。リンク王国の平民が貴族からどれほどの扱いをされていたか知らないからのお言葉でしょうが、今の捕虜待遇の方が俺は良い暮らししてますよ」

 本人からダメ出しを食らった挙句、また、様になった。様で呼ばれるとクロウに線引きどころか、高い壁を作られている気がする。

「ラウトリス神官、お茶、ありがとうございます。さわやかな風味で美味しいですね」

 ラウトリス神官をサラリと褒めるクロウ。
 なぜか頬を赤らめるラウトリス神官。
 褒められて嬉しいだけだっ、絶対に。

「そういや、結局、光の祝福魔法はどうするんだ?」

「ああ、そうですね。別の手段を考えましょう」

 クロウ自身が教えるという手段は即座に廃棄処分したようだ。

「別の手段?」

「講師役が他にいないか探すとか、それとも、信仰心のかさ上げとか」

 信仰心のかさ上げって何?

「え、クロウ様が教えてくださらないのですか?」

「、、、ラウトリス神官が努力と根性について来られるなら別ですが?」

 クロウからラウトリス神官では無理じゃないかな、という推測が透けて見えるが。
 私もクロウから直に教わるのはやめておいた方が良いと思います、ラウトリス神官。
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