その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社

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1章 敵国の牢獄

1-78 自分の首を絞める行動

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「クロウ、彼らを六十層で放置する気か?」

 憂いた顔でナーズ隊長が聞いてきた。
 この人、本当に顔で得しているよなー。しみじみ。

「放置し続けたら危ないんだろ」

「工事関係者の指示に従わずに、アホが危険性さえも調査し終わっていない空間や階段を崩壊させて生き埋めになりました、めでたしめでたし、じゃいけないのか」

「私ならそれでも良いんだけど、」

 頷いて同意したのはシエルド氏。
 うんうん、そうだよね。
 臭いものにはフタしちゃえばいいよね。そのままの意味で。

「おそらく代表はそれ以上を期待しております」

 コレを言ったのはシエルド氏の従者エトノア。
 アッシェン大商会の代表にはコイツから情報が筒抜けなのであろう。

「それ、俺には関係ないですよね」

 営業スマイルを浮かべてやろう。
 ナーズ隊長とリーウセンはエトノアに対して何を言っているんだという目で見ている。
 救助にそれ以上もクソもあるか、と。

「クロウ様、この工事の総責任者はシエルド様です。シエルド様の指示にはしたが」

「エトノア、それ以上言うな」

 エトノアの言葉をとめたのはシエルド氏。
 そう、確かにこの修繕工事の総責任者はシエルド氏。

 だが、俺に依頼したのは皇弟という形をとっており、アッシェン大商会は依頼主ではない。
 アッシェン大商会の下にいるわけではなく、協力体制と言った方が正しい。
 目的は一緒で大教会地下の修繕工事完遂だが、取り得る手段がまったく違う。

 エトノアはシエルド氏のそばにいて状況を把握しているはずなのだが。


 何かが噛み合っていない?


「クロウ様、我が従者に不適切な発言を許してしまい申し訳ありません」

 深々と頭を下げるシエルド氏。
 他人のために頭を下げることができる彼は、堂々と人の上に立てる人物なのだが、本人は地でやっているわけではない。
 苦労して積み上げてきたものでもなく、単なる演技。
 その謝罪に感情も熱も何もない。
 だから、容易く謝罪できる。

 彼にとって本当はアッシェン大商会も自分のメンツもどうでもいいものなのかもしれない。
 彼がアッシェン大商会を支えるのは、双子の弟が戻って来たときのために。
 ただそれだけの気がする。

 それは今、考えることではないか。

「いいえ、シエルド様、顔を上げてください。わかっている者がわかっていれば良いのですから」

「そう言っていただけると幸いです」

「狸の化かし合い」

 リーウセンよ、どんなに小さく言ったつもりでも呟き声が聞こえているぞ、シエルド氏にも。
 けれど、実際そうなのだろう。
 お互い謝罪なんてどうでもいいのだから。

「おいおい、救助は一刻を争う。このまま話していて本当に生き埋めになっていたらどうするんだ?」

「ふーむ、リンク王国第四王子直属部隊の隊長殿は意外と人命に対して尊いお考えがあるようだ」

 薄い笑いとともに放たれたシエルド氏のコレは完全に嫌味だ。
 部隊全員の命を捨てに来た特攻隊の隊長のクセに、と言外に込めている。

 ナーズ隊長が一人生き残っていたら、それは本来なら一生背負うことになるはずだった業だ。

 それをグリグリと攻撃して心を抉っている。
 シエルド氏にとって弟以外はどうでもいい気がする。
 シエルド氏が自分の本音に気づくかどうかは、俺にとってはどうでもいいことでもあるが。

「では、ナーズ隊長のために、そろそろ下に参りましょうか」

「クロウ、私のためって。視察の人たちのために行くのではないのか」

 ごにょごにょ言ったところで、ヤツらが進入禁止の場所に入り込んだのが悪い。
 とりあえず俺たちは上まで来てくれた作業員を連れて地下一層の部屋に向かう。

「シエルド様、貴方の叔父ということはかなりの魔力量をお持ちで?」

「ああ、私や父ほどではないが、血縁関係の者ならほどほどの魔力量を持っている。叔父は自分の息子たちや魔法を使える者たちを視察団として連れて来たのだろう」

「そうでなければ、本当に生き埋めになっちゃいますからね」

「あっ、クロウっ」

 わかっているなら何で教えてくれなかった、という顔をナーズ隊長が後ろでしてそうだけど、足早に階下へ行ってしまおう。

 彼らだって命は惜しいはず。
 アッシェン大商会の実権を得るために小細工しているのに、自分が死んでしまったら本末転倒だ。

 けれど、まあ、ラウトリス神官のように予期していないことは多々起こる。
 彼らは可愛い少年のような好奇心で動いているわけではなく、私利私欲で動いているのは確かだ。

 だから、助ける義理もまったくないのだが。

 大教会の地下を血塗られた歴史で飾りたいのか、と問われれば、すでにこの地下は大量の人の血がしみ込んだ後である。後の祭りでしかない。
 大教会建設当初から血生臭い工事現場だったようだ。

「なぜ立入禁止だと伝えていた場所に入ったっ」

「視察なのだから、様々な場所を見る必要があるだろう」

「修繕工事には危険が伴うから現場での指示に従うと、お前たちはこの通りサインしているじゃないかっ」

 現場監督補佐が大声で、残った視察団の者たちに抗議している。
 へー、そんな書類のサインがあるのかー。
 それは、それは。

 抗議したところで始めから計画されていたことだろう。
 ここに残る者たちはのらりくらりと時間稼ぎをする役割。

「拘束」

「へ?」

 俺が発動させた魔法の縄が視察団の者たちを狙って拘束した。
 解除するまで外れることはない。俺より強い魔導士なら簡単に外れるかもしれないが。

 うん、もがけばもがくほど強力になっていくから気をつけてー、と。
 俺が注意を親切に口にするわけもなく、数人が無様にコロコロと床に転がった。
 まるで紐に巻かれたハムのよう。おいしそうには全然思えないが。
 笑える。

 何でこの視察団のメンバー、体型まで似ているんだ?
 全員が親戚なわけでもないだろ。
 地下に魔法陣で降りた者たちもそうなのかな?

「何をするっ」

 コロコロハムさんの一人が大声を上げた。
 わー、怒鳴っても全然怖くない。シエルド氏のように成金丸出しで、宝飾品ジャラジャラの状態では縄との間に挟まって肉に食い込んでさぞ痛いでしょう。
 ゴージャスさも体型だけでここまで他人に与える印象が変わるとはすごいの一言だ。
 さすがに、リンク王国の貴族にはここまでの成金趣味を見かけることはなかった。俺が見てないだけなのか。

「現場の指示に従わない者たちの自由を奪うのは当然だ。非常時には視察は中断するとその書類にも書いてあるようだが」

 俺の言葉に、こくこくと現場監督補佐が頷く。

「非常時かどうかまだわからないじゃないかっ」

「作業員以外の危険を充分に理解していない者が、高額な空間転移魔法を勝手に無断使用して侵入したんだ。なぜ非常事態じゃないと言える。視察団が巻き起こしたものだ。とめなかったお前たちも同罪だ。それ相応の罰を受けるのを覚悟しておけ」

 宣言するだけ宣言しておけば、罰はアッシェン大商会の方で決めるだろう。
 法外な空間転移魔法の十一人分の損害額を請求してもいいんじゃないか?
 ああ、帰りは歩いて階段を上がらせるのも良いか。

「それでは、ナーズ隊長、セリム、リーウセンさん、行きましょうか」

「あ、私たちも」

 私たち→シエルド、エトノア。

「はい、却下ー」

 あ、口に出していた。

「邪魔、じゃなくて、我々にお任せください。彼らを即座に鎮圧して来ますので」

「下に行ったのは、精鋭たちだっ。お前たちごときが敵うと思うのかっ」

 誰だ、このハム。
 口にも縄が必要かな。ぎゅむむ、っと。

「私たちの実力が足りないことはわかった。下のことは任せる」

「はい、シエルド様、お任せを」

 恭しくお辞儀をして、俺たちは魔法陣の上に足を運んだ。
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