その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社

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1章 敵国の牢獄

1-85 戦いの火蓋は切って落とされた

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 爆炎が上がる。

 ポシュが大きい爆発を魔法で起こした。
 それを俺が魔法障壁で防いで戦闘開始だ。

「リーウセンさん、隊長とセリムに対して身体強化に追加の補助魔法を。今までの連携通りにかけてください」

「了解っ」

「やっぱり、私じゃなくルッツ副隊長がこの場にいれば、、、」

 今さらブツブツと念仏のようなものを唱えても、何も生み出されませんよ、ナーズ隊長。
 広々とした空間にしてくれたので、セリムは槍を構え、ナーズ隊長は渋々と腰の剣を握る。

 しかし、このタイミングで帝国が介入してくるとは。
 せめて五百層攻略の時点であれば、対策も立てられたのに。。。

 そういや、今がちょうど五百層攻略のときでもあったか。
 急遽予定を変更して五百層へと交渉に来てしまったからな。
 五百層に来たのが悪かったのか。

 それとも、今まで皇帝の介入がなく平和に化け物退治ができてしまったことが奇跡なのか?
 この件を知ったならば、あの皇帝がおとなしくしているはずはないから、秘密裏に素早く行動していたのだが。

 皇弟からバレたのだろうか?
 シエルドからか?
 修繕工事を請け負う業者からか?

 いつかはバレるとは思っていたが。
 どの時点でバレるのが一番良かったのかというと、最後までバレなかった方が一番良かったに決まっている。
 墓に埋めるくらいがちょうどいい。

 皇帝にさえバレなければ、この世界は平和だったのに。
 皇帝以外こんなものを利用しようと思うバカはいな、、、いや、どこかの宗教団体か、秘密結社的組織しか他にはいない。

 意外と思った以上にこの世にはバカがいそうだな。

「、、、サザーラン皇帝陛下は戦わないのか?」

 俺は疑問を口にした。

 三人の軍人が前に出たまま構えの姿勢をとっている。
 皇帝は後ろで腕を組んだままだ。

「とりあえず三人でヤってみたいんだってよ。俺も戦いたいが」

「皇帝陛下はもしものときのために体力を温存しておいてくださいっ」

 ポシュが叫んだ。そう、ポシュが。
 魂の叫びだ。
 帝国一番の戦力なのだが、表には出したくない気持ちはわかる。
 皇帝が戦いに出たら、おそらくこの場は荒れる。荒れまくる。

「もしもがあっても、全力なんか出さないでくださいっ。絶対に七割以下に抑えてくださいっ」

 ポシュの表情にも声にも鬼気迫る感じがある。
 いつも痛い目に遭わされているんだろうな、この皇帝に。
 あー、でも、この結界、強度に難ある感じかなー。

 俺ももしものために備えておこう。
 備えていたら、リーウセンが俺の手元を見た。

「、、、クロウ、魔導士の杖を使ったこと今まで見たことがなかったような」

「ああ、この杖、戦闘で使うのは初めてかな」

「はははっ、何だ、その木の枝っ。ひょろいなんてもんじゃねえぞっ。木剣の方が役に立つんじゃないかっ」

 大剣の男が大きな口で笑った。
 その足を思いっきり踏んづけたのは、魔導士ポシュである。
 頑丈なのは靴なのか足なのかわからないが、痛がる様子はまったくない。

 俺が持っているのは、魔導士以外が見たら、いや、魔導士が見てもただの木の枝にしか見えない棒だ。
 装飾は何一つついていないので、本当に一本の枝を持っているようにしか見えないだろう。

「メーデ、貴方は何を言っているんですかっ。あの禍々しい魔力を感じないんですかっ」

 へー、あの大男、メーデという名なのか。
 確かセリムをお気に入りとして牢獄に通っている軍人である。

「いや、俺に魔力について語らせようとするな。わかるわけがないだろ」

 どう見ても魔導士じゃなさそうですよねー。
 第四王子部隊の騎士たちと同じニオイがしてますからね。

「クロウ、ちなみにその杖って、この世界で最も有名な木から作られていたりして?」

「世界樹の枝って言っていたな。宮廷魔導士団の上級魔導士が全然使えないから捨てろっ、って言ったのでもらった」

「に、にこやかに恐ろしい事実を」

 リーウセンが言うと。

「せ、世界樹の枝を手に入れることができるなんて、ものすごい高額な上に偽物も多いのに。しかも、使えないから捨てろって、お、恐ろしい魔導士だ」

 何が一番恐ろしいと思っているんだろう、このポシュは。

「その上級魔導士は一回握ってほんの少し魔力を込めただけで、この杖を使うのをやめたんだ。使用用途が違ったらしい」

「使用用途って、まさか」

 リーウセンが信じられないという顔で、予想した答えを待っている。

「その魔導士は魔法の力を増幅させる機能が欲しかったらしい」

「ぐうっ、十六班の上級魔導士って怖いっ。世界樹の枝で作られた杖は強大な魔力を保持し、相当な魔法を使えるはずなのに」

「どうやら保持していた魔力を消費した後のものを購入したらしい。基本的に世界樹のこんなささやかな枝でもかなりの魔力量を蓄えることができる。まあ、魔力を充填できる魔石の上位版みたいなものだな」

「知らないの、怖いっ。すぐに捨てようとするあいつらが怖いっ」

 えー、俺は廃棄してくれた方がもらえるから嬉しいんだけど。
 気に入らなければ、何でもポイポイと捨てる十六班の上級魔導士は大変ありがたい存在だった。
 絶対に俺には手に入らないから。

「では、まったく使えなかった杖が、今はそんな恐ろしい量の魔力が詰まっているのは?」

「帝国の捕虜になってから魔法障壁や魔道具に魔力を充填しなくてよくなって、俺の魔力を使わないのも非常にもったいないから残っている魔力を毎日寝る前に注いでいた」

「ああ、それはもったいないよな。クロウの魔力を無駄にするなんて」

 全肯定型セリムが俺に頷いてくれた。

「うんうん、貴族や上級階級の奴らは貧乏性とか庶民根性とか言いそうだが、せっかくの魔力なんだから使わなきゃ損だよな」

「それであんな恐ろしい武器を作られるくらいなら、何か充填させておいた方が良かったんじゃないですか、皇帝陛下」

「いや、普通、世界樹の杖なんてお伽噺クラスのブツ持っているわけがねえだろ。世界樹自体が世界で見つかったことがねえんだから、帝国内どこを探してもねえよ、そんなの」

「対策の失敗だ」

 ボソッと、無口だった男が呟いた。

「別に魔力充填ではなくとも、毎日訓練と称して魔法を使わせれば良かっただけだ」

「後からだったら何とでも言えるさーっ、このフロレンスがーーーっ」

 ポシュがキレた。
 ま、意見を後出しされてもムカつくだけだ。
 だったら最初から言っておけという話。事が起きる前に言わなければ、最後まで黙っておけ。

 この人たち仲悪いのかな?
 ポシュが能天気二人組、、、いや三人組に常日頃キレまくっている構図が目に浮かぶのだが。
 皇帝は能天気というよりも実力があるからこその言動だとも言えるが、勝手気ままな行動は周囲の人たちをキレさせてはいるだろうと思う。

 このフロレンスは手首から前腕部に目立つガントレットをしている。
 魔法陣に魔石が埋め込まれているので、破壊力は相当なものに違いない。

「クロウ、一応聞くが、この三人をお前一人だけでも対処できたりしちゃう?」

「何を今さら、」

 返答によってはこのニヤリ皇帝がすぐに戦闘に参加するということだろうか。
 それはそれで面倒。

「どう答えれば正解だ?」

「それ、今ここで問う質問じゃないことは確かだ」

「隊長が珍しく常識的なことを言いますね」

「悪かったなっ」

「一つ言い忘れてました」

 ポシュが大声で俺たちに向かって宣言した。
 仲間に文句を言いたいわけではなく、俺たちに言い忘れていたことがあったらしい。

「何でしょう」

「帝城にはリンク王国の捕虜がいることをお忘れなく」

「脅しかっ」

 ナーズ隊長が吠えた。
 ふむ。

「ならば、こう返しましょう。オルド帝国内には帝国民がいますよね」

「それが?」

「細かい細かい超繊細な作業より、すべてを焦土と化す方が俺には楽だということです」

「あーあ、火縄銃は火蓋を切って落とすと使いものにならなくなるんだぞー。やれやれ」

 皇帝、何を言っているんでしょうか?
 ポシュの花火で戦いの火蓋は切られたはずなのに。

 ちなみに、この世界でも銃器はほどほどに発達しているが、魔法の方が便利なのでそこまで重要視されてない。
 魔法が使えない者や使えないときに有効ではないかと思うかもしれないが、ここは魔法至上主義の世界。魔法の地位が脅かされる存在はことごとく使えない存在として貶められる。つまり、主要都市において銃器の効果は無効化されるような魔法がどこでも蔓延しているのである。
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