その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社

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2章 帝国の呪い

2-9 治療魔法と薬

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 薬の調合する時間が節約できたので、帝城をさっさと出発する。
 真夏の日差しが降り注ぐ広場は暑い。
 観光客もちらほらとしか見えないし、いても木陰に集中している。
 屋台の準備もいつもより少ないように思えるし、冷たいジュースや果物、カキ氷等手軽に冷たいものが味わえる屋台が増えているように思う。

「元気そうで良かった」

 ルッツ副隊長が小さく呟いた。
 正しくは、元気になって良かった、だと思うが。
 第四王子と会うどころか、見る機会も今までなかったので、無事な姿を見て安心したのだろうか。

「クロウは治療魔法をあまり使わないが、何か理由があるのか」

 セリムが尋ねた。

「理由?」

「クロウの魔力量なら治療魔法に魔力が大量に消費されるとしても問題はないだろ。それなのに、材料を仕入れなければならない薬を手間暇かけて作るよりも、有り余る魔力で治療魔法の方が手っ取り早いと思うけど」

「ああ、最初は枷を常時されていたから、魔法が使えないと装っていたからだったが、現在、治療魔法には懸念されている点がある」

「懸念が?」

 二人は不思議そうに俺を見る。

「俺も帝国で知ったが、治療魔法を使う魔導士に魔力が足りない場合でも、治療ができてしまうことがある」

「治るなら良いことじゃないのか?」

「その足りない魔力がどこから補充されているかが問題で、魔導士ではなく被治療者の生命力を変換している危険性が高くなっている」

「それは怪我や病気している者の寿命を削っているということか」

 セリムと銀ワンコが思案顔。そっくり。

「そう、魔石などで魔力を補充していない限り、危険を伴う」

「けれど、クロウの治療魔法は危なくないだろう」

 ルッツ副隊長が慌てて聞いてきた。

「俺は専門の治療魔導士ではないし、専門の治療魔導士でも治療魔法は高価だから、そうそう魔導士の魔力が枯渇するまでの患者が来ることは少ないだろう。だが、戦争や災害、伝染病等で治療魔法が過剰に必要なときにはあり得る」

「けれど、死んでしまったらすべてが終わる。生きていてこそというときは仕方ないことだと思うが」

「ああ、仕方ないときは仕方ない。だが、治療魔導士が知っていてやっているのなら外道だという話だ」

 そう、平時に。
 自分の魔力を使わず、他者の力を使っておきながら、多額の金を要求し続けているとしたら。
 それは悪徳商法と何ら変わらないだろう。

 寿命を削っているのは本人なのに。

 治療魔導士の中には普段怪我や病気を治せていても、治せない場合が出てくることがある。
 それは、被治療者の生命力を差し出しても全然足りないから。
 つまり、そういう治療魔導士には治療魔法を使わせてはいけない。

 魔導士自身の魔力で治療しているわけではないから。
 治療魔法を常時使うには魔力量が少なすぎる魔導士なのだ。

 緊急時でもないのに、魔力量が少ない治療魔導士が他者の力を使って治療するのは単なる金儲けでしかない。
 まだ、魔石を購入して治療魔法を使うのならわかるが、国ならまだしも個人経営の治療魔導士であるならば全然儲からなくなる。

「帝国では治療魔法を専門に扱う治療魔導士も許可制にする話が出ているそうだ」

「治療魔法は使えればいい、という話ではないわけか」

「治療魔法は高価だからな。値段に見合った治療でなければならない。だからこそ、医師も薬師も帝国では必要とされているわけだ」

 そして。
 この大教会には治療魔法を使える神官はいないが、教会こそが治療魔法もまた神聖魔法だとして声高に叫んでいた一つである。
 囲い込みに失敗し、神官以外にも扱える者が多かったために、遠い昔に神聖魔法ではないとされてしまったが、まだまだ寄付金集めに治療魔法を柱としている教会は多い。

 教会こそが実力を伴わない治療魔導士を大量に生み出してしまった元凶とも言える。




 さて。
 正気に戻る。
 ついつい大教会に通うのが日課になってしまっているため、ゴートナー文官を忘れて来てしまった。
 帝城の門番にも止められず、あっさり通されてしまった。
 捕虜三人だけだったのに。

 信頼と実績の証だと良いな。

 夕方に謝ろう。
 大教会に迎えに来てくれるのだろうし。

 彼の存在を大教会に着いてからようやく思い出した。
 はて?何かが足りないとは思っていたんだが。

「クロウ様、意外と早かったな」

 もう、様、つけなくてもいいんじゃない?
 すでに敬語じゃないのだから。
 後ろにはいつもの従者エトノアがついてきている。

「シエルド様、今日はこちらに来られる予定でしたか」

 予定表を見てみるが、特段の記載が何もない。
 シエルドが来るときはラウトリス神官が瞳を輝かせて待っているくらいだが、それもないようだ。

「ああ、今日は薬師殿に用事があってきた」

「薬師殿?」

 へえー。

「そこで横向いて去ろうとしないでくださいよ、クロウ様」

 なぜ俺の袖を引っ張る。
 セリムが睨んでいるぞ。睨んでるだけじゃなく手に魔槍を持ったぞ。銀ワンコも協力するんじゃない。
 シエルド氏も素手で手を握らないだけ良しとしろ、とか目で会話するんじゃない。

「俺、薬師じゃないし」

「、、、え?」

「俺は薬師じゃありませんので」

「これだけ高い効能の薬を作っておいて?」

 信じられなーい、という顔作るのをやめてください。
 演技臭すぎてこちらが困る。

「シエルド様にとって、俺が魔導士の方が都合がよろしいのでは?」

「私は金を生み出してくれるのなら、魔導士でも薬師でもクロウ様でも肩書は何でもかまいませんが」

 クロウ様は肩書なのかい?

「けど、俺は帝国の薬師ではないので、アッシェン大商会に薬は卸せませんよ」

「アッシェン大商会は他国の薬も取り扱っているので、リンク王国の薬師として活動されても何ら問題はありませんよ」

 うっわー、逃げ道を潰しに来る。

「作る時間も場所もありませんよ」

「大教会の地上部探検も地下ほど手間はかからないでしょう?ただ、大教会の建物自体、彫刻が多すぎて修繕作業は時間がかかりますが、クロウ様にはもしものときのためにいてもらわなければなりません」

「探検して対処終了後は俺、ここに必要ないと思うけどなあ」

「クロウ様にはもしものときのためにいてもらわなければなりません」

 それ、確定なのかい?
 そっくりそのまま同じ文章を繰り返したぞ。笑顔で。

 地下部分は細かい作業がなかったので早々と終わったが、大教会の地上部分は外部も内部も彫刻やら装飾が細かいので、数年単位での大修繕作業計画である。
 数年は大教会に通えと?

「で、呼び出しのない暇な時間、薬でも作ってろ、って?」

「まあ、そこまで大教会内の探索も急ぐ話ではございませんし、これから一日数時間ほどお薬を作っていただいたらとご提案しているわけです。大教会も場所を提供してくださるとおっしゃってますし」

 すでに根回し済みかいっ。

「皇帝陛下ももしものときのために大教会修繕完了までクロウ様を拘束していいとご快諾済みですし」

 依頼主まですでに手を伸ばしていた。

「、、、皇帝陛下が?」

「ええ、皇帝陛下が」

「皇后殿下も?」

「おや、クロウ様には隠し事が一切できませんねえ。知ってましたけど」

 知っていながら挑戦する無謀な挑戦者、シエルド。

「薬の材料もこちらで手配いたします」

「薬の材料ねえ、、、」

 シエルド氏が持っていた分厚い書類を奪い取る。
 パラパラパラパラパラパラパラ、以下、永遠に続く。

 ???

「これ、俺は何の薬を作らされるの?」

 材料表だけじゃわからんなあ。
 そもそも、俺が作れる薬なのか?

「え?通常、腰痛とか痔の薬とか美容薬とかとかとか、帝国でクロウ様が作った実績のある薬ですが」

 どこから、そんな情報が洩れてる?お前の双子の弟か?
 材料は教えてないからなあ。
 いや、それよりも。

「、、、普通はこれらの材料が入っているのか?」

「え?」

 シエルド氏が素で不思議そうな視線を返した。
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