解放の砦

さいはて旅行社

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5章 必要とされない者

5-15 疑念 ◆ナーヴァル視点◆

◆ナーヴァル視点◆

「いい上司じゃねえか」

 テッチャンが俺に言った。
 ラーメンを食べ終わり、片付けが終了して、商談が成立すると、坊ちゃんはさっさと砦長室に戻っていった。
 少し話していていいぞーと言い残して。

 坊ちゃんは塩辛いと言っていたが、自分の分の醤油と味噌もしっかりと買っていった。外国用のではなく、うちの国民用のを。

「うちの国に来たことあるのかしら?」

 テッチャンの奥さんが不思議そうにしている。

「あの坊ちゃんはこの街から出たことないぞ。俺は母親に抱っこされてここに連れて来られたときから知っているんだから」

「けど、ごくごく普通に箸を使って、当たり前のようにコショウを入れているのを見るとねえ。まるでうちの店のお客さんを見ているかのようだったわ」

「ああ、しかも奥さんに、良いですねえ、とんこつラーメン。俺も一番好きでしたよ、と言ったな。俺はこの街でも砦でもラーメンなんか見たことねえし、坊ちゃんにも話したこともねえよ」

「それって、、、」

 この三人が考えつくのは一つしかない。
 祖国でのただの伝承だと思っていたが、日本という異世界が存在しており、その国に関係する者たちが広めた文化がかなりあると。

「なあ、俺たち、どこの国の者かって言ってなかったよな」

「ええ、醤油と味噌を見て、ナーヴァルと同じ国の出だってすぐに」

「あの坊ちゃん、誰からも何も教わらなくても小さい頃からいろいろなことをすでに知っていてな」

「、、、それも伝承通りじゃねえか。転生者とか言ったっけ。うちの国に来てくれって言ったのか?」

 テッチャンから指摘されると、完全にその通りだ。すっかり忘れていた。
 他のヤツらは少なからず感づいているのだろうか。

「言うわけないだろ。坊ちゃんはここの領地、メルクイーン男爵家の三男だ。砦の管理者だって紹介されなかったか」

 坊ちゃんは基本的に自己紹介するときは砦の管理者と名前だけを言う。メルクイーン男爵家の三男とつけるのは、必要があるときだけだ。

「おっ、じゃあ、男爵を紹介してもらえないかな」

「テッチャン、それは無理だ。坊ちゃんは家族仲が悪い」

「でも、砦の管理者を任されるぐらいは認められているんだろ?」

「それは話すと長くなるんだが、亡くなった冒険者の母親の後を継いで砦の管理者をしている。男爵に実力を認められているからじゃない」

「極西の砦と言えば、他国でもかなり有名になってきているんだけどなあ。だから、俺たちもこんな西の端まで来たんだし。それに、三男なら跡継ぎでもないだろ。うちの国に来てもらえば良いじゃないか」

「メルクイーン男爵家の跡継ぎは冒険者だけだ。あの家の子供で冒険者として育っているのはリアムだけだ」

「おっとぉ、それじゃあ難しいか。けれど、日本からの転生者なら、うちの国じゃあ国賓待遇だ。家族仲が悪いなら、」

 テッチャンが話をとめた。
 俺も視線の先を見る。
 シロ様とクロ様がいる。

「へえー、転生者か。面白いねえ、その話」

「クロ様、坊ちゃんからそんな話を聞いたことは?」

「ないねえ」

 ニヨニヨニヨ。
 クロ様、多くを語らず。
 シロ様もしばし思案顔だったが、ツーンとそっぽを向いて走っていってしまった。




 街に数件ある居酒屋の個室。
 夜、久々にこの面子が揃った。テッチャンの奥さんは街の外れの保養地にあるホテルでのんびりしているそうだ。気を使わせてしまった。

「ナーヴァルもテッチャンも起こしてくれればいいのにー。せっかくラーメンを食べられるチャンスだったのに。必要なときだけ起こさないー」

「ずるいよなー、ナーヴァルだけー、久々に祖国の味を俺たちも味わいたかった」

 リージェンも仲間だった幼馴染み三人も文句を言いたい放題。
 いや、砦の商談だったんだって。

「それなら、砦の管理者が試しに夕食にラーメン定食を出すって言っていたから、いつか食べられるんじゃないか」

「いつかっていつだよー」

 ブーブー。幼い頃ならともかく、今のお前らがそんな顔をしても可愛くないなー。

「うちの嫁といろいろ調味料で話し合っていたみたいだし、砦の冒険者は人数多いからその人数分以上のラーメンが売れたって喜んでいたぞ」

 うちの冒険者はそれなりに食べるからな。
 あの奥さん、どれだけの数を収納鞄に在庫を入れているんだか。坊ちゃんはかなりの箱を購入していた。へー、遠くから来たのに安いねー、と言って。テッチャンたちは今回は普及するためにお安い価格設定にしていたらしい。
 けど、まだ在庫あるのか?

「それなら、俺たちも買いたいー。ラーメンよこせー」

「ラーメンの在庫は嫁の収納鞄だからなあ。明日だな、明日」

「お前らが帰る前に手に入れば、文句は言わないけどー」

「ラーメンは国外ではあまり売れないんだよ。まだまだ認知度が低くてな。それにこの辺りの国は薄味が主流だろ。試食してもあまり受け入れてもらえないことが多い。ただ、今回はラーメンを知っている砦の管理者がいたからなあ。料理人たちも彼をマネして食べていたから、意外と好評だったよ。具を工夫すれば、砦の皆にも受け入れられるんじゃないかって」

「そういや、チャーシューってしっかり言ってたな、坊ちゃん」

 完全にラーメンを知ってなきゃ言えないぞ。
 いつも何で知っているんだ、と思う言葉をポンポン発言していたよな。

「なあ、お前ら、坊ちゃんにラーメンのこと話したことあったか?」

 全員、首を横に振る。

「坊ちゃんが日本の転生者って聞いたら、どう思う?」

「あー、なんとなくそう思ってた。だって、俺たち一歳児に書類の書き方教わっていたんだぞ。そうでもなきゃ、おかしいだろ。リアムがうちの国で生まれていれば良かったのになー、って昔から思っていたよ」

「それなー、本人も言えないだろ。前世があるんだーってこの国で言ったら完全におかしい人の仲間入りだからなあ」

「そもそも、普通のお子ちゃまがあの魔物販売許可証の書類なんて書けるわけがないじゃないか」

 くっ、お前ら仲間だったんだから、思いついていたのなら話せよ。
 リージェンだけが横向いている。お前だけが俺の仲間だよ。

「じゃあさー、うちの国に迎えるのはー、どうなのー?」

 テッチャンが期待を込めて三人に聞いた。彼らが手伝うのなら、リアムをあの国に連れていくのは容易だろう。

「いや、俺たちはもう砦の冒険者だから」

「そうそう、親元を巣立った人間だ」

「リアムは砦に必要不可欠だ。譲れないなあ」

 お前ら。
 嬉しいぞっ。

「ナーヴァル、その気持ち悪い顔、やめろ」

 ひどっ。

「確かに砦に坊ちゃんは必要だな。砦の管理者としても、魔物販売許可責任者としても、とにかく俺たちには必要だ」

「けっどさー、うちの国に来た方が幸せに暮らせるんじゃない?家族仲も悪いのなら」

「それはない」

 テッチャンの言葉を遮ったのはリージェンだった。

「リアムは母親の意志を継いで、あの砦の管理者をしている。あの子にとって、母親だけが唯一の家族だ」

 しんみり。
 確かにそうだ。
 今はまったく言われないが、母上至上主義、極度のマザコンは彼の代名詞だったとも言える。

「まあ、リアムの会話はこの辺にしておこう。久々に会ったんだからテッチャンの話が聞きたいなあ。おい、テッチャン、どこの国を回ってきたんだ」

 リージェンが声の調子をガラリと変えた。

「醤油と味噌を売り歩いて来た道のりを聞いてくれっ。俺の魂をっ」

「うわっ、出たっ。醤油と味噌に命を捧げているテッチャンの話は長くなるっ」

 久々の飲み会。
 昔ながらの幼馴染み。
 居酒屋の店主もそれをわかっているのか、翌朝までやってくれた。

 だから、俺たちは知らなかった。翌日の来訪者を。

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