解放の砦

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7章 愚者は踊る

7-30 魔の森での校外学習

 魔法学園一学年の合同校外学習。
 一年一組のA級魔導士の魔法を見せるとともに、魔の森を体験してもらうというツアーらしい。

 玄関の前にそれぞれの組が集合している。
 魔法実技の教師と一年一組の担任が先頭になって引き連れていく。
 一年一組のA級魔導士が先に並び、B級魔導士と続く。
 その後に二組、三組の学生が続くのだが、その二組と三組は見学である。

「なあ、バージ、これは何か意味があるのか?」

「、、、リアムには意味がないだろうね。すでに魔の森に行きまくっているし」 

「俺、サボっていいか?」

「真面目な顔をして私に問うな。ダメと言うしかないだろう」

 午前中、遠足だそうだ。
 魔の森に午前中行くぐらいなら、魔物討伐させてよ。
 この時間でどれだけ魔物を倒せることか。
 悲しい。

「私は三組の先頭にいなければならないが、リアム、逃げるんじゃないぞ」

 クラス委員のバージに念を押されてしまった。

 ふっ。

 そうか、逃げるという選択もあるのか。
 ありがとう、バージ、教えてくれて。

 俺は三組の列の最後にいておこう。そして、機会を伺いこっそりと列から離れ、魔物討伐をする。見学終了頃に戻って来て合流するプランでどうだ?
 と思っていたら、列の最後には教師がいた。確かコイツは魔法理論の教師じゃなかったっけ?
 見学組は自由に並んでいるので、中央後ろ寄りぐらいに並んでおけば良かったか。

 魔法学園の門から東の門まではさほど遠くない。
 それなのに、徒歩で移動することに関して文句を言う声が聞こえる。

 このお貴族様がっ。
 ご近所でも馬車で移動するクソガキどもめが。
 だから、歩きやすい格好で来いとプリントに書いてあっただろう。
 魔の森をこれから歩くというのに、どれだけ甘えているんだっ。
 絶対に口にはしないけど。。。


 生温かく重い風が流れた。
 奇妙な風に、ふと前を見る。
 東の門も周囲の壁も堅牢な造りだ。
 けれど、いつもと違う気がした。
 そうだ。
 門の開き方が違う。
 人が一人か二人ようやく通れる程度の隙間しか開いていない。
 いつもなら、ある程度開いている。
 コレはいつでも門を閉められるようにしているとしか思えない。

 東の門に近づくにつれ、さらに空気が重くなっていくのを感じる。
 ふと、旗が目に入った。
 旗の色が赤くなっている。

「おい、リアム・メルクイーン。足を止めるな。置いていかれるぞ」

 後ろから歩いていた教師に声をかけられた。
 すでに他の学生は門の中に入った後だ。

「門番っ、いつから赤い旗を出している?」

「え?ああ、今朝からだ」

「では、この先頭の教師たちはそのことを知っているんだな」

「ああ、俺も差し出がましいとは思ったが、E級とF級冒険者は入れない赤い旗になっていることを伝えている。だが、問題ないと魔の森に入っていった」

「あの馬鹿どもがっ」

 俺は舌打ちをして、魔法学園のマントを外して収納鞄に入れる。
 親切な門番さんがせっかく教えてくれているのに。
 引き返せよ。
 赤い旗は飾りではない。
 この空気はどうも大物がこのご近所をうろついている。

「おい、リアム・メルクイーン、なぜマントを」

「こんなマントを羽織って魔物を倒せるかっ。この見学会は中止にしろ。貴族の令息令嬢を全員魔物に殺されたくないのなら」

「はあっ?何を言っている」

 魔法理論の教師はまだ事の重大さをわかっていない。

「、、、リアム、東の門に魔物が近づいたら、王都を守るために閉じる。もし、魔の森で魔物を引き連れて逃げて来られても門を開けることはできない。それが国王であってもだ」

「何を言っているっ」

 門番に教師が声を上げたが、それでも意味はわかっていないようだ。

「ご忠告、感謝する」

「それが仕事だ」

 門番さん、いい仕事をしてやがるぜっ。
 砦には門番という仕事はないのでスカウトはしないが。

 一応、魔の大平原への出入口には重厚な扉は存在するが、それが閉じられたことはない。
 そこを閉じるということは、魔の大平原に出ている冒険者が全滅しているということだ。
 砦の建物だけでは魔物は防ぎきれない。
 守る冒険者がいるからこそ、砦は砦なのである。

 爆音が響いた。
 時間はない。

 俺が門番と話している間に、一組はすでに魔物と遭遇し、戦闘を開始してしまっているようだ。
 当たり前だ。
 餌がこんなにもたくさん並んでいたら、この辺りにうろついている一番強い魔物を引き寄せるに決まっている。
 しかも、彼らはかなりの香水をつけている者もいた。見つけてくださいと言わんばかりだ。

 冒険者は無臭が基本だ。魔物に見つかる前に魔物を見つけなければ、餌になってしまう確率が上がってしまう。先制攻撃した者が有利なのはこの魔の森でも変わらない。

 俺は音が響いた方向へ走る。
 頭がない遺体が転がっている。学生の制服のマントではない。

 学生たちは泣き叫ぶ者、立ちすくむ者、座り込む者、様々だ。
 一組のA級魔導士は隊列を組み、魔法の詠唱をしている。
 最初から予定されていたものだろう。そうするしか方法もないからだろうが。

「ゾーイっ、現状を報告っ」

「リアムっ、魔法実技と一組の担任が魔物にやられたっ。A級魔導士は詠唱を時間差でしている」

「A級魔導士は一旦詠唱をやめろ。俺の指示に従い、一斉に攻撃魔法を仕掛ける」

「はいっ」

 ゾーイだけが良い返事だ。
 俺は拡声魔法を使う。

「ここから先、一人だけ逃げ出そうとこの場から背を向けるものがいれば、即座に魔物によって殺されると思え。ヤツはここから一人として逃す気はない。死ぬのが嫌なら、俺の指示に従え。二組、三組の学生は一組の後ろで待機。声を上げるな、ただひたすら固まっていろっ」

 俺の言葉に異を唱えようとする者がいる。
 死にたいのか、コイツら。

「ラーラ、二組の学生を抑えろ。バージは三組の学生を頼む。一組B級魔導士はA級魔導士の補佐をしろ。もう一度言う。死にたくないのなら、俺の指示に従え。動く者はこの魔物の標的になる。少しでも動くというのなら、俺はお前たちを守らないからな」

 俺の言葉には余裕がない。
 二組と三組の担任はすでに戦意を喪失して顔面蒼白だ。膝をついて祈ってしまっている。
 神の奇跡などどこにもありはしないのに。
 その行為はこの魔物の強さをわかっている証拠だが。
 一番遠くにいる後ろの魔法理論の教師は木に隠れている。実際はそこも安全ではないが、逃げようとしなければ狙われないだろう。

 俺は双剣を握る。
 俺が今、対峙しているのはS級魔物だ。
 あまりにも巨大な図体、凶悪な顔立ち。知性は感じられないのでS級魔物としてはまだまだ成長する途中だ。

 この魔物がS級魔物であるという事実をここで告げると阿鼻叫喚となり、統率がまったく取れなくなる。それは自分の身も危険に晒す。

 けれど、コイツはまだ砦に来たS級魔物よりも弱い。
 それでも、助かったと思うにはまだ早い。
 コイツもS級魔物である。
 ただ、俺でもやりようによっては対応が可能な気がする。

 レッドラインの向こうにいたS級魔物は動くのさえ、剣に触れるのでさえ不可能であった。

「A級魔導士はド派手な攻撃魔法を詠唱開始。一斉にヤツの目を狙え。多少の目くらましぐらいにはなるっ」

 一瞬でも視界を覆えれば上出来だ。
 残念ながら、どんなに強大な攻撃魔法でも、魔の森にいるこの魔物にはきかない。
 独自の進化は本当に厄介だ。

「一斉に攻撃っ」

 俺の合図とともに、A級魔導士の魔法が魔物の顔に放たれた。
 後ろの学生はその派手さに、ほんの少し期待をしたようだが。。。

 俺は魔物に向けて走り出す。

 S級魔物が咆哮する。
 あまりにも強大な声で。
 それは凍えた土地から直接響く。

 学生には泣くだけでなく、嘔吐や失禁する者も出た。
 彼らはそこから動けない。
 彼らは逃げようとしても立つのがやっとだろう。全速力で東の門まで走れと言ったところで、背中を魔物に見せてしまえば皆殺しになるだろう。

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