男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

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8章 頼り切った者たち

8-5 災害級の魔物発生 ◆ソイファ視点◆

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◆ソイファ視点◆

「最強の盾とは一度じっくりと話をしたいと思っていたんだ」

「おお、そうなのか」

 俺は父の隣に座る。
 小さなテーブルに俺の分の紅茶が現れる。

『我らも』

 はいはい。
 テーブルの上に紅茶がさらに四つ増えた。
 大きなお菓子皿が置いてあると落下しそうなほど密集しているが、コイツらは暴れないし、器用だから平気だろう。

「最強の盾はソイ王国に入国して、何をしているんだ?」

「冒険者している。もう少ししたらこの国の王都にも行こうと思っている」

「、、、ここ、王都なのだが」

 王都の中心も中心、王城だ。

「お前のところは王城内にいきなり現れた者を不審者として捕まえずに外に出してくれるのか?」

「一本取られたな、ソイファ」

 父が笑顔だ。
 ソイ王国の各地をまわってくるつもりだろうか。めぼしい観光名所などないこの国で。
 別に王城の北の塔から出なくとも、空間転移魔法を使えば王都にもすぐに来れると思うのだが。外にもわらわらと魔法の盾がいるはずだ。

「最強の盾、、、お前に常識を語られるとは思ってもみなかった」

「俺は魔物や盗賊を討伐しながら進んでいるよ。ソイ王国は冒険者も金になる」

 冒険者に依頼が多いのは、この国がそれだけ危険だということだ。

 ソイ王国の南側では常に戦争状態。
 国は他の場所を放置している。領主が独自に動いている。領主が動かないのなら、領民がどうにかしないと自分たちの命が脅かされる。ならば、冒険者ギルドを誘致して依頼する。

 けれど、強い冒険者は王都や戦地に駆り出される。
 ソイ王国の冒険者は傭兵だと言われる所以である。他国の冒険者からは人気がない国である。

 戦争で稼ぎたい者は普通に兵士になる。

「ソイ王国でできるだけ稼いでくれたらありがたいよ」

 魔物を討伐していってくれるのなら、本当にありがたいことだ。
 大物ならば国からも多少の褒賞金を出すこともある。

「なるほど。ならば、災害級の魔物がこの国の西の方で暴れているのだが、それも始末していいのか?」

 ひゅっと息を飲んだ。
 世界各地で偶発的に発生する災害級の魔物。
 まだ報告には上がって来ていない。

「災害級?」

「放置していたら、大都市が軽く瓦礫と化するってレベルの魔物だが」

 それは説明せんでもわかる。
 災害級というのは大地震や噴火等のレベルの災害と同レベルの被害をもたらす魔物だということだ。
 国によっては壊滅の危機にさえ直面する。

 非常事態で誰もが慌てふためくレベルの案件をこの二人は平然と会話していたのかっ。
 顔色ぐらい変えてくれ。父は父でいつものことだが。

「私はいくらでも討伐してくれてかまわないと言ったのだが」

 父がのほほーんと答える。
 そりゃ、討伐してもらえるなら討伐してもらいたいが、わざわざここに来たというのは国にお伺いを立てるためだろう。

「国によって対処は様々だ。騎士団や軍が出るとこもあるし、国外の人間には討伐させないところもある」

 国外の人間に討伐させないというのは、災害級の魔物というのは素材が希少で高額だ。できるだけ自国、というか自分が抱える人間で何とかしたい国も多い。
 だが、人材が揃わない国は他国や冒険者ギルド頼みである。
 災害級は素早く対処しなければ、被害も甚大になる。数か国が被害に遭うこともある。

「ちなみにウィト王国では?」

「従来ならば最強の盾が討伐する。王都に近ければ、たまに最強の剣が出て来ることもある」

「一人で災害級に対処するのか?」

「他の人間がいる方が討伐の邪魔になるからな。他のヤツらは後で魔物を回収に来るぐらいだ」

「最強の盾殿は災害級の魔物を討伐したことがあるのか?」

 父も興味があるようで尋ねてくれた。
 まるで、災害級の魔物を一人で討伐したことがあるかのように答えたからだ。
 歴代の最強の盾の話ではないのか。
 ウィト王国での災害級の魔物の被害は聞いたことがないが。

「ああ、バーレイ侯爵の命令で何度か。冒険者として討伐したら報酬がもらえるのに、最強の盾として討伐すると何もないというのもおかしな話だ」

 無報酬で災害級の魔物を討伐する人間がウィト王国にはいるのかっ。
 ものすごく羨ましい。
 被害が出る前に討伐されるなら、統治者には天国そのものだ。

 その最強の盾はものすごく不本意な顔をしているが。

 それもそうだ。
 ウィト国からの国を守る報酬というのは、本来は侯爵位と伯爵位の領地から得られるものが最強の剣であるバーレイ侯爵と最強の盾であるバーレイ伯爵に与えられているのだろう。この二つの領地は当主自ら管理しなくてもいいくらいの優れた領地であり、税制面でも優遇されている。
 コレは次期の最強の剣が侯爵の、次期の最強の盾が伯爵の跡継ぎになる場合、将来の報酬を約束されているという意味があり、まだ継いでいない今は無報酬であるというだけの意味である。

 オルト・バーレイのように将来がまったく確約されていない状態での無報酬はあり得ない。
 だから、ウィト王国は逃げ出されるのだ。このように。

 オルト・バーレイは伯爵位を継ぐよりも冒険者として稼ぐ方が絶対に稼げる。
 全世界がそう確信している。
 各国とも最強の盾に指名依頼ができるのならしたいと考えていることだろう。
 彼はS級冒険者である。
 原則ならば他国からの指名依頼は可能だ。

 だが、できない。

 最強の盾は次期だろうと、ウィト王国は絶対に国外へと出さないからだ。
 冒険者ギルドもわかっているから受けない。
 最強の盾は地域限定のS級冒険者である。
 国が囲ってしまうS級冒険者というのは少なくないけど。

 というか、歴代の最強の盾で冒険者に登録していた前例はない。最強の剣も然り。
 
 オルト・バーレイは生活するお金がなさすぎて、騎士学校入学時に冒険者となったのだ。
 この子は本当に世界を泣かせるぜ。

「、、、もしかして、今なら冒険者ギルドに指名依頼が可能?」

「んー、そうすると、依頼がウィト王国の冒険者ギルドに行っちゃうから、微妙だよなあ」

「ああ、ウィト王国の王都が活動本拠地だからか。って、今も魔物やら盗賊やら冒険者ギルドに買い取ってもらっているんだよねえ?」

 となると、実際の活動本拠地は移っていると冒険者ギルドに判断されないのか?

「俺は別に級を上げなくてもいいから、団体名で買い取ってもらって報酬を配分してもらっているよ」

 あー、冒険者の一団のどこかに入り込んでいるのか。
 それは調べなくても、もう見当はついているけど。だって、つい最近ウィト王国からソイ王国入国時にヤバい薬を持ち込んだんじゃないかと騒がれた一団がいたからね。。。
 オルト・バーレイの入国直後に。

 貴族学校の闘技大会の後って、オルト・バーレイは綺麗に消えていたからどんな経緯があったのか、どこの諜報員でもわからないようだ。
 冒険者ギルドが関わっている部分、そこまでは追えたが、その後がわからない。
 彼の銀髪とシャツが王都近郊に残された理由はわからないままだ。

 元気そうなので、最強の剣の言っていた通り確かに無事なのだけど。
 けど、国外に出ているじゃないかとアイツに言ってやりたい。

 ソイ王国の冒険者の一団と、急に出入国管理事務所に現れたのだから、あまり触れない方がいい。
 知ってしまうと対処しなければ責任を問われる危険性も高くなる。
 俺はこの国の王太子だから。
 知らなければ、何も知らない。何も対処しない。それでいい。
 この空間でしか最強の盾とは会っていないのだから、周囲には接触が一切バレていないはずだ。
 
 団体に紛れた方がウィト王国の冒険者ギルドにもバレないし、最強の盾に助けを求めたい国々にもわからない。
 災害級の魔物は出ないときは全然出没しないが、なぜか嫌がらせのように出るときは同時多発的に各国に出る。

 我が国で出てしまったということは、運が悪い他の国々でも出る可能性が高まったということだ。

「その災害級の魔物って、今はどれくらいの被害を出している?」

「今は西の地方の山々を崩している程度だ。人口のわりに広い国土だから人的被害が少なくて羨ましいな。ただ、進行方向的に明日の朝にはほどほど大きい街にぶつかる。その前に対応した方がいい」

 山々を崩している?
 それってけっこうな被害じゃないのかな?
 人的被害が少ないのは何よりだけど。

「ねえ、討伐してくれたら、キミがいる一団にこれくらいの褒賞金を払うけど、どう?」

 その一団だけで災害級の魔物を討伐したら、その魔物の代金は丸々その一団が手に入れることだし、悪くない話だと思うけど。
 災害復興は領主にやらせよう。人的被害は少ないわけだし。
 被害総額も災害級が大都市で本気で暴れられたわけではないので微々たるものだ。
 このぐらいの金額で済むなら大手柄だ。

 いやあ、俺も運が良いね。
 最強の盾が我が国にいるときに災害級の魔物が発生するなんて。
 普通なら泣くに泣けない事態に陥っているよ。
 戦争で人を割かれているのに、どうやって人員配置するか悩んでいたよ。しかも、早急に決定しなければならないから地獄だよ。

「了解した。では、後日、成果を報告に来る」

 最強の盾が嬉しそうにして、部屋から出て行ってしまった。
 災害級なのに討伐できないなんて一切言わない最強の盾。なんて頼もしい。惚れちゃうぜっ。
 やっぱりソイ王国に欲しいよな。

「あっ、まだ話したいことが山ほどあったのに」

「本当に自分の家のように出ていったなあ」

 父が感慨深げに見送っていた。
 夢幻回廊内に彼の気配はすでにない。
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