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第四章:母になる、その途中で(2)
迷いと影
しおりを挟むその夜、あゆみは一人で部屋のベッドに横になりながら、暗い天井をじっと見つめていた。かずきの言葉やすばるの提案、そして今の自分の状況が頭の中をぐるぐると渦巻いていた。
「私が本当に望んでいることって……なんだろう。」
小さく呟いた言葉は、自分自身に問いかけるように空気に消えていった。
---
ふと、あゆみの脳裏に浮かんだのは姉のことだった。
「こんなとき、優秀な姉ならどうするんだろう……。」
あゆみの姉は、両親にとって誇りだった。成績は常にトップで、学校の行事や部活動でも中心的な存在。家族の中で注目されるのはいつも姉で、あゆみはその影に隠れるように生きてきた。
「もし姉だったら……許されたのかな?」
自嘲気味に呟いた言葉が、胸の奥に鈍い痛みを残した。
両親の期待を裏切らない「普通」の道を歩む姉なら、すばるさんのような人と恋愛することはないだろう。結婚を考えるとしたら、誰もが羨むような、もっと「相応しい」相手を選ぶはずだ。
---
「あの頃から、ずっと変わらない……。」
あゆみは幼いころの記憶を思い出していた。家族で食卓を囲んでいるとき、いつも話題の中心にいるのは姉だった。成績や活動の成果が褒められるたび、あゆみは隣で笑顔を作りながら、心の中で小さな孤独を抱えていた。
「私は、姉の残りカスみたいなものなのかな。」
その思いが、自然と口をついて出た。
どれだけ頑張っても、姉には敵わない。そんな意識が、いつも自分を縛り付けていた。そして、次第に自分の存在価値さえ疑うようになっていった。
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「両親からの愛を独り占めにしていた姉なら、こんなときどうするんだろう……。」
姉があゆみの立場にいたら、もっと上手くやっていただろうか。れんやりおにも自然に愛情を注ぎ、すばるの隣で自信を持って生きていただろうか。
「姉なら許されたかもしれない……でも、私は……。」
その考えにふけるたび、自分が選んだ道に自信が持てなくなる。それでも、今さら後戻りできないことも分かっていた。
---
ふと、思い出したのは高校時代のすばるの言葉だった。
「行動を起こすことができたっていうこと自体が、如月さんの頑張りだよ。」
その言葉に、どれほど救われたか。あのとき、自分にも価値があると初めて感じられた瞬間だった。
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「あの頃の私には、あの言葉が必要だった……。でも、今の私は?」
れんやりおの無邪気な笑顔を思い浮かべた。遊んでほしいと駆け寄ってくる二人の姿。あゆみが迷っている間も、彼らは真っ直ぐに自分を頼ってくれている。
「私には……彼らを支える力があるのかな。」
両親に否定され続けた自分。姉と比べられてきた自分。けれど、すばると子どもたちは、そんな自分を必要としてくれている――そのことが、あゆみの心を少しだけ温めてくれた。
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「もう少しだけ考えよう。」
布団を被りながら、小さな決意が心の奥に芽生えていた。
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