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第四章:母になる、その途中で(2)
遭遇
しおりを挟むあゆみがすばると街を歩いていると、どこからか声が聞こえた。
「如月!」
振り返ると、大学の友人であるかずきが、少し驚いたような顔をして立っていた。あゆみは一瞬戸惑ったが、すぐに微笑みながら挨拶を返した。
「あ、かずき君。こんにちは。」
すばるもその場で足を止め、軽く頭を下げた。
「あゆみのお友達かな。こんにちは、星宮すばるです。」
すばるの穏やかな声に、かずきは少し緊張した様子で頷いた。
「あ、どうも。如月と同じ大学のかずきです。」
その名乗りに、すばるは柔らかく微笑んだ。
「そうなんだ。いつもあゆみがお世話になってます。」
そのやり取りを見ていたあゆみは、二人の初対面に少し気まずさを感じながらも、何となく安心感を覚えていた。
少し雑談が続いた後、かずきがふと口を開いた。
「実は……如月のこと、好きだったんです。」
その言葉に、あゆみは驚き、目を見開いた。
「え……?」
「でも、告白する前に振られましたよ。」
かずきは軽く肩をすくめて苦笑いを浮かべる。その様子を見て、あゆみは何も言えず、ただ戸惑うばかりだった。
「支えたい人がいるんだって、如月に言われてさ。まあ、その強い言葉を聞いたら、俺が入る余地なんてないんだなって思った。」
すばるはその話を静かに聞き、少しだけ驚いたような表情を浮かべた後、柔らかな笑顔で口を開いた。
「そうだったんですね。でも……かずきさんがそう思うのも自然だと思います。あゆみは、それだけ魅力的な人ですから。」
すばるの言葉に、かずきは少し驚いたように目を見開いた。
「でもね、僕だけが特別に思っているわけじゃないんです。あゆみは誰から見ても魅力的だと思います。よく売れている商品と同じで、みんなから見て魅力的なんです。」
すばるは少し考え込むようにしてから、穏やかな声で続けた。
「だから、かずきさんの気持ちも、すごく嬉しい。あゆみが誰かにそう思ってもらえるのは、僕にとっても喜ばしいことです。商品が誰の手にあるかで価値が決まるわけじゃなくて、どれだけの人に必要とされているかでその価値が決まると僕は思います。魅力ってそういうものでしょう。僕だけにしか魅力的に映らないということはあり得ない。僕が魅力的だと感じた人は誰かにとっても魅力的な人のはずです。それが分かっただけでもあゆみの魅力を少し自慢したい気分ですよ。」
その言葉に、かずきは一瞬黙り込み、そして苦笑いを浮かべながらぽつりと呟いた。
「……あなたには勝てないですね。」
かずきは立ち上がり、少し気恥ずかしそうに笑った。
「如月、かっこいい彼氏で良かったな。」
その言葉に、あゆみは目を丸くし、すぐに幸せそうな笑顔を浮かべた。
「でしょ!自慢なんだ!」
あゆみのその言葉に、かずきは一瞬驚いたような顔をした後、少し寂しそうに笑った。
「確かに、自慢できる彼氏だな。」
そう言って軽く手を振りながらその場を去った。その背中には、どこか清々しい空気が漂っていた。
「ありがとう、かずき君。」
あゆみは小さく呟きながら、すばるの方を振り返った。
すばるはそんなやり取りを見て、優しく微笑んだ。
「あゆみ、君は本当に魅力的だよ。だから、僕だけじゃなくて、誰が見ても素敵に映る。そういう君が、僕を選んでくれたことが何よりも嬉しい。」
その言葉に、あゆみは胸の中に少しだけ自信を感じた。
「これでいいんだ。この人と一緒にいることが、私の選んだ道なんだ。」
心の中でそう呟きながら、あゆみはすばると並んで歩き出した。
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