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第四章:母になる、その途中で(2)
家族として生きる決意
しおりを挟む夜のリビングには、穏やかな照明が灯り、子どもたちの寝息だけが遠くから微かに聞こえていた。あゆみは、手元のマグカップに視線を落としながら、深呼吸を繰り返していた。
「すばるさん、少しお話ししたいことがあるんです。」
ソファに座って書類を広げていたすばるは、顔を上げた。
「どうしたの?こんな時間に改まって。」
その柔らかい声に、あゆみの胸が少しだけ軽くなる。
---
「あの……私、最近ずっと考えてたんです。」
テーブルにカップを置きながら、彼女は言葉を選びつつ話し始めた。
「この数ヶ月、一緒に暮らして、楽しいこともたくさんありました。でも……それと同じくらい、何度も家を出ていこうかと思ったんです。」
その言葉に、表情を崩さず静かに頷いた。
母になる、その途中であゆみがひどく摩耗していく姿を、すばるは知っていた。
この言葉は当然のものだ。
すばるは続く言葉を待っていた。
「れんくんやりおちゃんのこと、可愛いって思う反面、邪魔だって感じてしまうこともあって……自分が嫌になったり、家族にふさわしくないんじゃないかって思うことばかりでした。」
彼女の声は震え始め、涙が頬を伝い始める。
「私がこの家にいることで、逆にみんなに迷惑をかけてるんじゃないかって……何度も考えました。でも……。」
彼女は顔を上げ、すばるを見つめた。
「それでも私は、この家族と一緒にいたいんです。すばるさんと、れんくんと、りおちゃんと――一緒に歩いていきたい。」
その言葉が途切れた瞬間、あゆみの中に押し込めていた感情が溢れ出し、涙となって頬を濡らした。
すばるはしばらく彼女を見つめた後、静かに書類を片付け、椅子を少し引いて正面を向いた。そして、あゆみの手をそっと包み込むように握った。
「ありがとう、あゆみちゃん。」
その一言に、あゆみの涙は止まらなかった。
「君がそう思ってくれることが、僕にとってどれだけ救いになるか……本当にありがとう。」
すばるの瞳には、深い感情が宿っているのがわかった。彼もまた、言葉を選びながら慎重に続ける。
「君と一緒に暮らし始めて、僕も色んなことを考えてきた。君が本当に幸せになれるのか、この家族に馴染めるのか……不安もあったけど、それ以上に君がいてくれることで、僕も子どもたちもどれだけ救われているか、わかったんだ。」
その言葉に、あゆみは少しだけ笑みを浮かべた。
「すばるさん……ありがとうございます。」
すばるは立ち上がり、リビングの棚から小さな箱を取り出した。戻ってきた彼は、少し照れくさそうに微笑みながら、あゆみに向き直る。
「実は、ずっと渡したいものがあったんだ。」
彼が箱を開けると、シンプルで上品な指輪が見えた。
「これを渡すべきタイミングをずっと探してた。君が本当にこの家族に馴染めるのか、君にとってこの道が正しいのか……そんな不安ばかりだった。でも、今日君の言葉を聞いて、僕も覚悟を決めたよ。」
すばるは小さく息を吸い込み、言葉を続けた。
「君と一緒に、家族として生きていきたい。だから、これからも一緒にいてくれないか?」
その言葉に、あゆみは目を大きく見開いたが、すぐに涙と笑顔が入り混じった表情で頷いた。
「はい、お願いします。」
すばるは微笑みながら指輪を彼女の指にはめた。その瞬間、あゆみの胸に広がったのは、安心感と新たな決意だった。
その夜、二人はリビングのソファで肩を寄せ合いながら、未来について語り合った。
「これからもいろんなことがあると思う。でも、君がいれば大丈夫だよ。」
すばるのその言葉に、あゆみは小さく笑った。
「私も、すばるさんと一緒ならどんなことでも乗り越えられる気がします。」
窓の外には、柔らかな月の光が差し込んでいた。
あゆみは、今この瞬間が自分にとっての新しいスタートだと感じていた。
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