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第16話 →道後温泉
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菜穂はバイクを走らせながら高速道路に乗るか、それとも下道を行くか迷っている。
高速道路を選べば時間は大幅に短縮できるがせっかく四国を旅しているのだから、景色を楽しみながらゆっくりと進みたい気持ちもある。
そんなことを考えていると、ふと、ガソリンスタンドの看板が目に入る。燃料計を見ると針はすでに半分を切っている。道後温泉まではまだ距離がある。
菜穂はガソリンスタンドに立ち寄ることにする。給油を終え、バイクから降りて一息ついていると、隣の給油機に一台のバイクが停まった。
目をやるとそれは見慣れない、しかしどこか懐かしい雰囲気の漂う古いバイクだった。深緑色の車体に使い込まれた革のシート。細部にまで手入れが行き届いているのがわかる。
バイクの持ち主は、白髪交じりの年配の男性だった。日焼けした顔には深い皺が刻まれ、その目は穏やかでどこか遠くを見つめているようだった。
男性は菜穂に気づくとにっこりと微笑みかけた。「いいバイクに乗ってるね」と、優しい声で話しかけてきた。
「ありがとうございます。そちらのバイクもとても素敵ですね」と答える。
「これは古いバイクでね。もう何十年も一緒に旅をしているんだ」
菜穂は興味津々で男性のバイクの話に耳を傾ける。
男性はまるで親友のように自分の愛車について熱く語り始めた。バイクとの出会い共に過ごした時間、数々の思い出。その言葉の一つ一つにバイクへの深い愛情が込められていた。
「これも英国の古いバイクでね。ノートンES2と言うんだ。若い頃から憧れて、やっと手に入れたんだ。日本中、色々な所をこれで回ったよ」
なは男性の言葉に引き込まれるよう、バイクを隅々まで見始める。古いながらも丁寧に磨き上げられたその姿は、まるで生きているかのようだ。
「このバイクは、ただの機械じゃないんだ。私の相棒で、私の人生そのものなんだよ」
男性の言葉に深く共感する。菜穂にとってのトライアンフも、単なる移動手段ではない。亡き祖父との思い出が詰まった大切な存在なのだ。
「あなたもバイクが好きで旅をしているのかい?」
「はい、祖父から譲り受けたバイクで、四国を一周しているんです」
「それは素晴らしい。バイクは人生を豊かにしてくれる最高の相棒だからね。もしかして道後温泉に向かう途中ですか?」
「ええ、そうです。お湯に浸かって疲れを癒したいと思っています」
「もしよかったら、私の知り合いがやっている温泉宿を紹介しようか?道後温泉からは少し離れているけど、静かでゆっくりできるいい所だよ」
菜穂は少し迷う。道後温泉は有名な観光地であり一度は訪れてみたいと思っていた。しかし、男性の紹介する温泉宿も静かでゆっくりできるという点に魅力を感じる。
「その温泉宿は、どんな所なんですか?」
男性は嬉しそうに温泉宿について語り始めた。
男性は目を輝かせながら、「そこはね、山奥にある小さな温泉宿でね。湯治場として昔から地元の人々に愛されてきたんだ。
建物は古いけど、清潔に保たれていて、何よりもお湯がいいんだよ。源泉かけ流しで、湯の花がたっぷり。肌がすべすべになるんだ」と熱心に語る。
さらに
「食事も美味しいよ。地元の食材を使った手作りの料理でね。山の幸、川の幸がふんだんに使われているんだ。特にイノシシ鍋は絶品だよ。冬になるとこれを食べにくる客もいるくらいだ」と付け加えた。
男性の話を聞きながら想像力を掻き立てられる。
賑やかな道後温泉も魅力的だが、静かな山奥の温泉宿も捨てがたい。
(道後温泉もいいけど、たまには、そういう静かな場所でゆっくりするのもいいかもしれないな)と菜穂は心の中で呟く。
「もし、興味があれば宿の主人に連絡してみるよ。きっと歓迎してくれるはずだ」
「ありがとうございます。ぜひ、お願いできますか?」
男性の温かい人柄に惹かれその提案を受け入れることにした。
男性は嬉しそうに頷き、携帯電話を取り出した。「すぐに連絡してみるよ」と言い、温泉宿の主人に電話をかけ始めた。
電話が終わると、男性は菜穂に笑顔で向き直り、「宿の主人も、あなたが来るのを心待ちにしているよ。いつでも、都合のいい時に行ってくれればいいと言っていた」と伝えた。
「本当に、ありがとうございます」
「気にしないで。旅は出会いだ。素敵な出会いがあなたの旅をさらに豊かなものにしてくれるだろう」
菜穂は男性と別れ、再びバイクに跨り山奥の温泉宿へ向かう。
これからも新たな出会いと発見が菜穂を待っているだろう。
つづく。
高速道路を選べば時間は大幅に短縮できるがせっかく四国を旅しているのだから、景色を楽しみながらゆっくりと進みたい気持ちもある。
そんなことを考えていると、ふと、ガソリンスタンドの看板が目に入る。燃料計を見ると針はすでに半分を切っている。道後温泉まではまだ距離がある。
菜穂はガソリンスタンドに立ち寄ることにする。給油を終え、バイクから降りて一息ついていると、隣の給油機に一台のバイクが停まった。
目をやるとそれは見慣れない、しかしどこか懐かしい雰囲気の漂う古いバイクだった。深緑色の車体に使い込まれた革のシート。細部にまで手入れが行き届いているのがわかる。
バイクの持ち主は、白髪交じりの年配の男性だった。日焼けした顔には深い皺が刻まれ、その目は穏やかでどこか遠くを見つめているようだった。
男性は菜穂に気づくとにっこりと微笑みかけた。「いいバイクに乗ってるね」と、優しい声で話しかけてきた。
「ありがとうございます。そちらのバイクもとても素敵ですね」と答える。
「これは古いバイクでね。もう何十年も一緒に旅をしているんだ」
菜穂は興味津々で男性のバイクの話に耳を傾ける。
男性はまるで親友のように自分の愛車について熱く語り始めた。バイクとの出会い共に過ごした時間、数々の思い出。その言葉の一つ一つにバイクへの深い愛情が込められていた。
「これも英国の古いバイクでね。ノートンES2と言うんだ。若い頃から憧れて、やっと手に入れたんだ。日本中、色々な所をこれで回ったよ」
なは男性の言葉に引き込まれるよう、バイクを隅々まで見始める。古いながらも丁寧に磨き上げられたその姿は、まるで生きているかのようだ。
「このバイクは、ただの機械じゃないんだ。私の相棒で、私の人生そのものなんだよ」
男性の言葉に深く共感する。菜穂にとってのトライアンフも、単なる移動手段ではない。亡き祖父との思い出が詰まった大切な存在なのだ。
「あなたもバイクが好きで旅をしているのかい?」
「はい、祖父から譲り受けたバイクで、四国を一周しているんです」
「それは素晴らしい。バイクは人生を豊かにしてくれる最高の相棒だからね。もしかして道後温泉に向かう途中ですか?」
「ええ、そうです。お湯に浸かって疲れを癒したいと思っています」
「もしよかったら、私の知り合いがやっている温泉宿を紹介しようか?道後温泉からは少し離れているけど、静かでゆっくりできるいい所だよ」
菜穂は少し迷う。道後温泉は有名な観光地であり一度は訪れてみたいと思っていた。しかし、男性の紹介する温泉宿も静かでゆっくりできるという点に魅力を感じる。
「その温泉宿は、どんな所なんですか?」
男性は嬉しそうに温泉宿について語り始めた。
男性は目を輝かせながら、「そこはね、山奥にある小さな温泉宿でね。湯治場として昔から地元の人々に愛されてきたんだ。
建物は古いけど、清潔に保たれていて、何よりもお湯がいいんだよ。源泉かけ流しで、湯の花がたっぷり。肌がすべすべになるんだ」と熱心に語る。
さらに
「食事も美味しいよ。地元の食材を使った手作りの料理でね。山の幸、川の幸がふんだんに使われているんだ。特にイノシシ鍋は絶品だよ。冬になるとこれを食べにくる客もいるくらいだ」と付け加えた。
男性の話を聞きながら想像力を掻き立てられる。
賑やかな道後温泉も魅力的だが、静かな山奥の温泉宿も捨てがたい。
(道後温泉もいいけど、たまには、そういう静かな場所でゆっくりするのもいいかもしれないな)と菜穂は心の中で呟く。
「もし、興味があれば宿の主人に連絡してみるよ。きっと歓迎してくれるはずだ」
「ありがとうございます。ぜひ、お願いできますか?」
男性の温かい人柄に惹かれその提案を受け入れることにした。
男性は嬉しそうに頷き、携帯電話を取り出した。「すぐに連絡してみるよ」と言い、温泉宿の主人に電話をかけ始めた。
電話が終わると、男性は菜穂に笑顔で向き直り、「宿の主人も、あなたが来るのを心待ちにしているよ。いつでも、都合のいい時に行ってくれればいいと言っていた」と伝えた。
「本当に、ありがとうございます」
「気にしないで。旅は出会いだ。素敵な出会いがあなたの旅をさらに豊かなものにしてくれるだろう」
菜穂は男性と別れ、再びバイクに跨り山奥の温泉宿へ向かう。
これからも新たな出会いと発見が菜穂を待っているだろう。
つづく。
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