【完結】復讐のウェディング〜新郎新婦に忘れられない思い出を♪〜

第２話 祝福という名の復讐

side:田中愛咲美


結婚式は予定通り粛々と進んでいた。

司会者の軽妙なトーク、新郎新婦の誓いの言葉、祝福の言葉、 目の前には平和で幸福な光景が広がっている。

しかし、私の心は静かに高鳴っていた。  

その時、スマートフォンが振動した。イベント会社からの連絡のメールだ。『到着しました』という簡潔なメッセージ。 

間に合った！

 私はそっと会場を抜け出した。 

 裏口から外に出ると、そこには想像をはるかに超える光景が広がっていた。  

十数名もの美しく着飾った男女が立っている。  全員が完璧なヘアスタイル、洗練されたメイク、そして高級ブランドの洋服を身にまとっている。  

まるで映画のワンシーンのような華麗な集団だ。日本人だけでなく、アメリカ人やドイツ人と思われる顔立ちの人物もいる。 

 この豪華なメンバーを見れば、誰もがドラマの撮影でも始まったと勘違いするだろう。  彼らの凛とした佇まい、輝く笑顔、そして、醸し出される圧倒的なオーラ。

 これは、間違いなくプロの集団だ。  私は彼らに軽く会釈をし、計画の概要を簡単に素早く説明した。

  彼らの表情は真剣そのもの。すでにこのサプライズ演出の準備は万端のようだ。 

 彼らの存在感は、この結婚式場全体を支配し始めている。  これから始まる私の復讐劇の幕開けを予感させる、圧倒的な雰囲気に私は静かに息を呑んだ。  

そして私は彼らと共に再び会場へと向かう。 

 この華麗なる集団を従え私はこの結婚式を二度と忘れられないものにする。



イベント会社から派遣された華麗な面々を従え結婚式場へと戻ってきた。

事前に同僚たちと協力して結婚式場スタッフはすでに説得済みだ。スムーズな進行を期待できる。  

そっと会場の入り口から中を覗いてみる。幸運にも今は友人たちによる余興が行われている最中だった。  

新郎新婦、そしてゲストたちは、友人たちの出し物に笑顔で反応している。 

 これから私の復讐、いや、正確には、私たち７人の女性たちの復讐の始まりだ。

  この場で新郎新婦に私たち７人の怒りと悲しみをぶつける。あくまでも合法的に。

 華麗な面々は私の合図を待っている。  彼らの表情は真剣で、そしてどこか楽しげだ。  まるで舞台俳優が最高の演技をする瞬間を待っているかのようだ。 

 この会場全体が私たちの手に握られている。  私の計画は着々と進んでいく。  静かに、そして確実に。  この余興が終わる頃にはこの会場は、想像を絶する光景に変わっているだろう。  私は静かに次の行動へと移る。


同僚たちが合図を送る。

会場の照明がゆっくりと、そして確実に暗転していく。まるで劇場の幕が下りる前の静寂の瞬間のように。  私の心臓は高鳴る。  

今だ！

深呼吸をして、私は華麗な面々を先頭に会場へと足を踏み入れる。  

スポットライトが私達を照らし出す。  一瞬、会場は静まり返る。  そして次の瞬間。  割れんばかりの大歓声と、驚きと興奮が入り混じった歓声が会場を埋め尽くす。

計画通りだ。

スポットライトの眩しさの中、私は軽く頭を下げ、 ファッションショーが開始する。

  きらびやかな衣装を身につけたモデルたちは、プロの風格でランウェイを歩く。

  華やかな音楽が流れ、会場全体が興奮と熱気に包まれる。  隼人と美緒は驚きと困惑の表情を浮かべながら、  私達のパフォーマンスを見つめている。 

 彼らの顔には徐々に、驚きから別の感情が浮かび上がってくるのがわかる。  もしかしたら悔やんでいるのかもしれない。

ショーは予想以上に大きな成功を収めている。  会場の雰囲気は怒りや悲しみなど先程までの私の感情とは全く違う、高揚感と興奮で満たされている。  私の復讐計画、いや、私たち７人の女性の計画は思っていた以上にうまく行った。


ファッションショーはクライマックスを迎えた。

  モデルたちの華麗なパフォーマンスに、会場の視線は完全に釘付けだ。  隼人は最初は驚きを隠せない様子だったものの、今は拍手喝采している。  彼の顔には予想外の展開に戸惑いながらも、どこか楽しげな表情さえ浮かんでいる。

しかし、その様子とは対照的に、美緒は唇を噛みしめ、私達を鋭い視線で睨みつけている。  彼女の目は怒りに燃えている。  しかし、その怒りの中にほんの少しの動揺が混じっているようにも見える。

ショーが終わりに近づくと私はマイクを握る。  会場のざわめきが静かに収まっていく。

「隼人さん、美緒さん」と、私は静かに、しかしはっきりと告げる。「今日は御二人にとって、決して忘れられない素敵な日になる事を祈っています。  末永くお幸せに」

そう言って私はゆっくりとマイクを置く。 

 美緒の視線は私から離れない。  彼女の表情は、怒り、驚き、そしてもしかしたら、私への憎しみもあるのかもしれない。

 今日のこの出来事が彼女の人生にどのような影響を与えるのか。  それは私にもわからない。 

 しかし、少なくとも彼女が今日を忘れられない一日として記憶するだろうという事実は確かなものだ。  私の、いや、私たちの計画はこれで完了した。


会場の熱気は冷めやらぬまま、結婚式は予定通り終了した。

  余韻が残る中、記念撮影が始まる。 

 招待客たちは興奮冷めやらぬ様子で、次々と写真撮影をリクエストする。  そしてなんと、私の計画したファッションショーのモデルたちも記念撮影に加わることになった。

隼人はモデルの一人の女性を隣に並べ、鼻の下を伸ばして得意げな表情をしている。  一方の美緒は、引きつった笑顔でその様子を見つめている。  彼女の目は複雑な感情で揺れているのがはっきりとわかる。  

私は遠くからその様子を眺めている。  美緒の表情をしっかりと目に焼き付ける。

  美緒のあの引きつった笑顔。  その表情を見れただけで私は満足だ。 

 きっと、今の私は最高の笑顔をしているだろう。  復讐という名の計画は成功した。  そして、同時にある種の解放感にも似た感情が私を満たしていく。

短くも激しい私の復讐劇は静かに幕を閉じた。





つづく？