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第4章 1年の締めくくりと次のステップ ~青い1日と温かな雪~

49・5時間目 これから

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少し泣きやんだ。
子供じゃないのに泣いて恥ずかしい。

「おう、山内。起きたか。今から少し話聞きたいンだがいいか?」
「大丈夫ですよ」
「ン、そーか。まぁ、無理なら無理に話さなくていい。大体分かっているからなァ」
大体分かっている。
そうか、事情聴衆ということだろう。
「ンじゃ、ついてきてくれ」
僕は黒沢さんに続く。後ろには薔薇さんもついてきている。
「大丈夫だよ。山内君」
この人は人を安心させる力がある。
人の心に寄り添えられる人間だなと思った。
「ありがとうございます」
黒沢さんについていくと、そこは僕らがライブをする際に使用した練習場。
そこはきちんと閉めれば防音だったはず。
夜の練習の際には使用していた機能だ。
なるほど、そこで誰にも聞かれないようにするわけか。
「とりあえず、座ってくれ。緊張しなくていい」
黒沢さんは椅子に座るように促した。
「まぁ、これからについてだ」
これからか。
「まず、この件は学校に連絡がいく。それはどうしようもないことだ。そこで避けたいのが取り巻きやただ噂を聞いたヤツの嘘や冷やかし。取り巻き共には事実を説明する必要はない。お前はとりあえず動揺せずいつも通りで学校生活を送ってほしい」
「そして、現状、敦志も大事に至ってねェ。神谷さんが手当てしてくれている。三石は無事だ。安心しろ」
そこまで話終えた黒沢さんはなにか質問はないかと聞いた。
そんなの聞くのはこれしか無かった。
「その……カナは、宮浦加奈はどうなるのですか?」
重い空気になった。
黒沢さんがこれから話そうとしていることがなんとなく理解できた。
「宮浦についてだがァ、アイツはあれからもう意識がある。お前が殺さずに上手く頭から狙ってくれたおかげでな。今は孝木達と取り調べを受けている。学校生活に関しては俺はなんとも言えねェ。過去の事、あぁ、お前が行っていた中学の件もあるしなァ。停学で終わるかも知れねェし、退学それから転校になるかも知れねェし、退学だけかも知れねェ。その処分は俺達がどうこうする立場じゃねェから分からない。だけど、裕太。お前は宮浦をどうしたい? 俺達はお前が会いたくなきゃ会わなくていいと思っている」
僕はどうすればいいのだろうか。
カナは可哀想な人だ。
与えられていないから、自分が持った好意に振り回されて。
でも、僕は傷付いた。
親友が傷付いた。
だから。
彼女と、これからを歩みたくはない。
自分の大切な物を傷付ける人とは居たくない。
「黒沢さん」
黒沢さんと薔薇さんが同時に僕を見る。
「ン? なんだァ」
「僕は」
その先が言えない。
少し、怖い。
これでいいのだろうか。
でも、カナはやはり人を傷付けた。
その事実は、拭えない。
だから。
「僕は、カナと居たくありません」
「彼女を殴った時、後悔しましたけど、それでも僕は自分を認めてくれる親友のためなら、なんだって出来ます」
「それが、たとえ自分の幼少期に華をくれた人だとしても」
「そうか」
黒沢さんが僕を見る。
どんな答えになるか、もう分かった。
「なら、俺はお前の意見を尊重する。少しでもその意見が届くように孝木に伝えておく」
「これで終わりだ。よかったよちゃんとお前が話してくれて。ンじゃあ、もう孝木の所に行かなきゃなンねェからもう行ってくる。桃花、後の事は菫と神谷さんとで頼んだ」
「うん。任せてよ。いってらっしゃい」
黒沢さんはスタスタと下の階に降りていった。
これから。
これからどうしたらよいのか。
後悔に囚われそうな心を黒沢さんや皆が守ってくれている。
本当にありがたい事だと思った。
僕は少しお茶を飲んだ。
苦い緑茶が今は苦くなかった。
そんなお茶を飲んで落ち着こうとしている僕を薔薇さんは待っていてくれた。
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