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第7章 光ある文化祭 ─優しさと後悔の罪─

103時間目 後悔と決意の文化祭

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 色々なことを考え、決意をした。

 僕らの演奏がいよいよまもなくというところでMCの煽りが炸裂さくれつ

 ちなみに、この煽り文の原案は僕で、バンドメンバーと共に改稿をした。

「頑張ろうね」

 ボーイッシュなクラスメイトが、かなり緊張した声色で皆に伝えるように言った。

「──うん」

「最高のライブにしてやろうぜ!」

「頑張るよ」

 学年一位の友人、いつも一緒に下校をしている友人、僕の順に己の意思を伝えるように答えると、彼女は少し強ばっていた表情を緩め、フッと王子様のような笑みを見せた。

 やるしかない。

 後悔して立ち止まっていたって時間の無駄だろ。僕に必要なのはうじうじといつまでも立ち止まっている時間じゃなくて、明日の自分が今日の自分よりよいと思える、そんな時間が必要だ。

 あの三年間は無駄じゃない。

 あの日々がなければ、僕はきっと、こんな立派な人間になれなかった。

 別になにも成し遂げたり、すごいことをしているわけじゃない──でも、今を本気で楽しんで過去に辛いことがあったけどそれでも腐らずに生きているそんな自分がとても誇らしく思えるのは、自意識過剰というやつだろうか。

 でも、いいか。

 今日は年に一度の文化祭。

 せっかくのお祭り気分だ。

 味わえなかった三年分の青春をギュッと凝縮して今日でぜんぶ味わい尽くしてやろう。

 反省はしている。だけど、もう、後悔はしていない。

 これは、後悔と決意から始まる最高の文化祭せいしゅんの物語だ。

 ──

 MCの煽り文が、終わったとき、僕らの世界一輝いているステージが幕を開ける。

「うおおぉぉぉぉぉ!」

 四人で一斉に飛び出し、僕と学年一位の友人は、エレキギターとエレキベースを思いっきりかき鳴らす。

 途中から、友人のドラムが投入され、音に最高の幕開けといえる始まりを知らす。

 ステージからは、ライトの逆光で観客の顔は見えない。

 逆に言えば、僕にとってはとても都合のいい状態だった。

 もう、あの子やアイツ、彼の影を探さなくてすむから。

 一通り、観客を煽ると、ボーイッシュなクラスメイトが挨拶をした。

「皆さん、こんにちは! 【ZERO RESTARTゼロリスタート】です!」

 中性的な響きがいい声で彼女は挨拶すると、ファンだろうか女子の黄色い声援が聴こえてきた。

 あれ、山内先輩と同じくらいモテていない? この子。

「私たちは、とあるバンドが大好きでこのメンバーで組みました。ではさっそく聞いてください! 私たちが愛してやまないバンド! BLUE ENCOUNTで『もっと光を』!」

 この曲は、ボーイッシュなクラスメイトがおすすめした曲で、かなり難解なコードが揃う曲だ。

 しかし、元々の基礎能力があってか弾けないコードも練習を重ねていく間に弾けるようになった。

 ボーカルの静かな語り風の歌詞とそれを引き立てるギター。

 いきなりサビに突入すると、全ての楽器が希望のはじまりと言わんばかりに音を奏でる。

 Aメロ、Bメロもギターは難解なコードが続き、そして、もう一度、サビに突入。

 イントロ後とは違い、ギターの活躍は少なめ。

 だが、このあとはギターソロが待ち受ける。

 指が八本生えたかのように弦をどこまでも走る。

 指が少し痛むが関係ない。

 ギターソロが一番楽しくて、ギタリストの生きがいだから。

 ギターソロが終わり、再び語り風の歌詞に戻り、ギターは静かに身を潜める。

 そして、ラストのサビに突入。

「ずっと僕が君を照らすから!」

 ボーイッシュなクラスメイトのその歌詞を最後、僕らの一曲目は終了した。
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