闇堕勇者と偽物勇者

ぼっち・ちぇりー

文字の大きさ
51 / 104
呪いを解くため

解呪

しおりを挟む
「フォース起きて!! 」
 少年に起こされて、私は意識を現実に戻された。
 床が柔らかい。
 マットレスとは違う感覚。
 人肌の温もり、そして肉感……
「貴方は? 」
「わらわはスカサア、この国の長だ。」
 私はスカサアという名前を聞き、ハッと我に返ってから、彼女から起きあがろうとした。
 だが、体がいうことを聞かない。
 どうやら私が眠っていたのは、ここ二、三日では無かったようである。
「無理をしなくて良い。」
「あ、ありがとうございます。」
「礼なら、彼らに言うといい。」
 私はアスィールとアスピを見た。
 心なしか、少し大人になったような気がする。
 いや、彼女たちは大人になったのであろう。
 成長とは、毛や爪が伸びるのと似ている。
 日々伸び続けているものではあるが、その変化を裸眼で追うのは難しい。
「ありがとう二人とも。手間をかけた。」
 そしては私は脳に突っかかっていた一つの問題について、彼らに訊くことにした。
「僕たちが殺しました。」
  彼らは口を揃えてそう答える。
 幻術よし
 どうやら、ここは現実だし、この子たちが、暗示を受けた形跡もない。
「どうやら夢を見ているわけでも見せられている訳でもないらしい。」
 身体にだいぶ力が入るようになったので、貴婦人の身体から起き上がる。
「あっ、もう良いのか?」
「いつまでも貴方のお膝をお借りする訳にはいけません。」
「曲者め!! 」
「何事か!! ここは玉間であるぞ。」
 気がつくと、執事らしき男が、兵士に奥襟を掴まれている。
「どうやら女王様に、この国の情勢はうまく伝えられたようだな。」
「よく喋るな!! 」
 老人は勝ち誇った顔で、鼻を鳴らした。
「ワシはナーンも喋っとらん。貴様らとの約束はちゃんと守ったぞ。」
 もう一人の兵士が、私たちに、一枚のスクロールを差し出した。
「勇者を名乗る卑き奴隷、アスィール。貴様を、逃亡罪及び、国家転覆罪で拘束させてもらう。」
「待て!! なんの権利があって、お前のような一兵卒にそのような権利が。」
 後ろからゾロゾロと鈍色に光る鎧たちが姿を現す。
「勇者の加護が途切れた貴方に、何ができますかね。閣下、邪魔をされるというのなら、貴方も拘束します。」
「貴様っ。」
 アスィールは困った顔をすると、手に取ったアペシュの兜を被り、立ち上がった。
「女王様、必ず三国の国王たちに働きかけ、この国を変えてみせます。」
「ぼくのやり方で。」
 せめて、アスィールが逃げる時間を……
 くっ身体が動かない。
---飛鷹ヒヨウ---
 刹那、視界が兵士たちの間を突っ切り、ガラス張りの壁をぶち破ると、城の上空へ。
 重力の理にガッチリ掴まれると、身体が自由落下を始める。
「アスィール、お前!! 」
 気がつくと私は、アスィールに担がれていて、アスピと共に城の外へと放り出されていた。
「人間は殺さない。そうだろアスピ。」
「だとしても、普通に犯罪だと思うけど。逃亡を幇助した罪で、私もお尋ね者ね。」


「奴隷が逃げたぞ。」


 奴隷? アスィールが? 
 そういえば、王宮に集められたマスター・リーの継承者たちは、みな孤児だと。
「フォースには、聞かれたく無かったかな。」
「女王様のところに行く前に、備品の補充をしておいて良かった。」
「まぁ、最初からこうなることは分かっていたからさ。アスピ!! 魔導船まで走るよ。」
「言われなくとも!! 」
 このままでは私の監督者としての威厳が……
「アスィール。私の武器はあるか? 」
「ごめんフォース。十字架みたいな銃は置いてきちゃった。アレ、重くてさぁ。」
 代わりにナイフを受け取る。
 やはりこの十字架のグリップは手に馴染む。
 私は受け取るや否や、それを、店の看板へと投げつけた。
 看板が、兵士の一人の後頭部に落ちてきて、怯む。
 それに突っかかった兵士が次々とドミノ倒しに倒れていく。
「コラァーうちの自慢の標識、うわーなんじゃアンタら。」
アスィールが乾いた笑い声を上げる。
「器物損壊罪どころか殺人未遂だよ。」
「アレぐらいで死ぬのなら、国なんて守れないさ。心配するな。すぐにメイジが奴らを回復させるだろう。」
 屋根を見た。
「何が来てるぞ。」
「知ってるよ。さっきから僕らと並走して、僕らの出方を伺っている。」
「気に食わないわね。いつでも捕まえられるってことかしら。」
 私はアスィールに言われる前に、ナイフを黒フードの男へと投げつけた。
 彼は、投げつけられた私のナイフをササっと避ける。
 ナイフが黒を切り裂き、中から煌びやかな装飾武具が姿を現した。
「何? あの重装備は。」
 おそらく30キロ近くもある重装備をつけなから、身体強化をしているアスィールたちと互角のスピードで走っている。
 コイツは手練だろう。
「フハハハ。バレてしまったのならしょうがない。」
「私は王宮騎士騎士長…あっ、ちょっと待て。」
 待てと言われて待つ方がお人好しだろう。
「待てって言っているだろ!! 」
 私は騎士の垂直斬り下ろしを、教会のナイフでしっかり受け止める。
 数週間、触れていなかったこの短剣にも、教会の加護がキッチリ宿っていることを確認できた。
「ほう、貴様は聖職者か。貴様のような高貴な人間が、なぜ犯罪の片棒を担ぐのか。知りたくなった。」
「こちとら知られたくないけどね。」
 アスィールとアスピは高く跳躍すると、今度は自分たちが、街の屋根へと飛び乗った。
「おおっと。」
 雪国は屋根の角度が急だ。
「落っこちても助けてあげないわよ。」
「そう言いながら、僕が捕まったら助けてくれるんだろ? 」
「なんか、ムカつく。」
「ハハハハ、最近の若者は活きが良いな。」
「アスィール。スピード落ちているわよ。」
「無茶言わないでよ。人を担いでいるんだから。」
 そうだ。身体もだいぶ調子を戻してきた。
「おろせ。少年。」
「フォース。まだ動いちゃダメだよ。」
「もう走れる。」
 アスィールから抜け出すと、両手に短剣を構えた。
「フハハハ。ブランクを感じさせない走りだ。流石、使。」
 素性が割れている。
 まずい。
 私たちは、王都の門前のアーケードへと駆け込んだ。
 人混みをかき分けながら、婦人の買い物籠を吹き飛ばしたり、老人のカツラを走行風で攫っていく。
「ヘヤッ。」
 騎士の横からの攻撃を右手の探検で上に受け流す。
 衝撃で騎士が跳ね上がった。
「ナイス、フォース。」
「ありがとよ。俗物がよく見えるぜ。」
 アーケードの屋根を勢い良く蹴り飛ばすと、急降下して、再び接近してくる。
 急な上昇と降下。常人なら失神する速さだ。
 ソレをなんの身体強化も無しに。
「もうっ!! しつこいな!! 」
 アスィールは、そのエネルギーをドゥルガの盾で弾き飛ばした。
 反動で、騎士は青果店へと突っ込む。
「このドアホ。また騒ぎ起こしとんかいな!! 」
 あの騎士様には悪いが、コレも日頃の行いってやつだろう。
 この後も、ノースランドの港町までの深い森を抜けるまで奴は私たちを追ってきた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜

水戸直樹
ファンタジー
王太子との婚約――それは、彼に恋したからでも、権力のためでもなかった。 魔王乱立の時代。 王も公爵も外征に出ている王都で、公爵令嬢メイリーンは“地味な婚約者”として王城に現れる。 だが、王太子は初顔合わせに現れなかった。 にもかかわらず、記録に残ったのは「公爵令嬢の欠席」。 抗議はしない。 訂正もしない。 ただ一つ、欠席という事実だけを積み上げていく。 ――それが、誰にとっての不合格なのか。 まだ、誰も気づいていない。 欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。

妹のために愛の無い結婚をすることになりました

バンブー竹田
恋愛
「エミリー、君との婚約は破棄することに決まった」 愛するラルフからの唐突な通告に私は言葉を失ってしまった。 婚約が破棄されたことはもちろんショックだけど、それだけじゃない。 私とラルフの結婚は妹のシエルの命がかかったものでもあったから・・・。 落ちこむ私のもとに『アレン』という大金持ちの平民からの縁談が舞い込んできた。 思い悩んだ末、私は会ったこともない殿方と結婚することに決めた。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。

ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。 彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。 婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。 そして迎えた学園卒業パーティー。 ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。 ガッツポーズを決めるリリアンヌ。 そのままアレックスに飛び込むかと思いきや―― 彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。

処理中です...