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魔王討伐
死闘
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魔王は亜空間から、紅イバラの装飾が施された毒々しい死色の槍を取り出す。
彼女が、ドレイク向けて突進しようとしているのを目で捉えると、ドゥルガを構えて、二人の間へと割り込んだ。
[ぐっ。]
凄まじい衝撃。
ソレよりも、今の感覚は、明らかに不味いモノがあった。
急いで、慧眼で、ドゥルガを視る。
「ヒビが。」
僕はドゥルガを背中にしまおうとした。
[構うなアスィール。僕は盾だ。敵の攻撃を受け止めるために僕は作られた。]
あの刺突を正面から受けるとヤバい。
「アスィール。アタイのことはええんや。」
「そうも行かないよ。」
「ホンマお節介やな。」
ドレイクは腰から古びた拳銃を抜くと、レボルバーをクルクルと回して、銃口を左掌に押し当てる。
そのまま左手を貫いた。
「パーンッ。」
乾いた音と共に、真紅の液体が飛び散り、ソレがブクブクと泡立つと、やがてドレイクの身体を包み込んだ。
[WAKE UP!! ]
ドレイクの身体の線に沿って、金色の鎧が張り付いていく。
鎧は、鎖骨の辺りで止まると、長く下ろされていたストレートの赤毛は、後ろで大きく結えられ、獲物のカットラスは、髪と同じ赤色に絵変色し、両刃の直剣へと形を変える。
最後に額の上にリボンが付くと、彼女は軽くウインクをした。
「アイ……フリード…… 」
エスカリーナは苦虫をすり潰す。
[お前、フェイブルの娘だな。]
「汝ら海賊団には、散々手を焼かされたと聞く。」
[そうだよ。俺だよ。四大陸を股にかけた大海賊。アイ・フリード様とは俺のことだ。]
[さぁお嬢、奴をやっちまいな。そんでもって、長きに渡る、海賊と魔族の因縁を断ち切るんだ。]
「アタイはそんなこと知らん。」
ドレイクは両手で胸の辺りを押さえると、腰を丸く曲げて、顔を赤らめている。
「だから嫌やったんや。この衣装は。」
「いつも恥ずかしい服着てるじゃん。」
「なんやテェ。」
彼女は、腰のロングソードを抜き取ると、僕へ向けて斬りかかってきた。
[ लुमा]
勇者が、斬り込んできたドレイクを、エスカリーナの元へと飛ばす。
エスカリーナは、彼女の斬り下ろしをクリーンヒットさせられ、地面から火柱が上がる。
火柱は、玉間の天井を貫くと、空から、明るい光が差し込んだ。
火柱は、魔大陸を覆っていた黒い雲を消し去り、宇宙まで届いたらしい。
黒焦げになった魔王は、両手で、自身の身体をくっ付けると、ポロポロと皮膚を剥離させて、元通りに再生する。
「その剣、対魔の能力があるな、厄介な武器だ。」
エスカリーナの反撃。
再び時空間魔術を使い、ドレイクと位置を入れ替える。
今度は乙姫で、彼女の槍を受け止めると、下に叩きつけた。
そのまま反動で宙に飛び上がり、オキュペティーで、加速させた脚力で、エスカリーナの顔を蹴る。
血飛沫が飛び散り、彼女は仰け反る。
フォースをエスカリーナの後ろにワープさせる。
フォースは十字の短剣で、彼女を刺そうとした。
彼女はソレに気がついたようだ。
彼女は、自分と、フォースの位置を入れ替えた。
フォースの攻撃を、ドゥルガで受けてしまう。
「悪い、アスィール。」
「ソレより、次、来るよ。」
僕の背後に回り込んでくる。
動揺を誘う為だ。
乙姫を地面に突き立てて、上に大きく跳躍する。
少し遅れて、黒い渦から姿を現した魔王が、槍を地面へと叩きつける。
「うるさい小蝿じゃ。」
「後ろ見とけハゲェぇぇぇ。」
ドレイクが、鞘に納めたロングソードを、引き抜くと共に、大きく前に踏み出した。
エスカリーナは、地面を凹ませると、そこから姿を消した。
時空間魔術ではない。
彼女自身の、素の身体能力。
[地獄炎]
地上から、無数の火の竜が溢れ出し、そこら一帯を喰らい尽くす魔術。
もちろん、この世界のモノではない。
「私に真似出来ないものは無い。学んだぞ。お前たちが使う魔術の本質をな。」
僕たちが別世界から引っ張り出した火属性の最上位魔術……
だけど、詠唱方法は完全にこの世界のモノだ。
僕はアスピを抱き抱えると、三人と共に火の竜を避けた。
[ブリリアント・ドミニオン]
振り向くと、ドレイクが、自身の剣を天へと掲げ、火の竜たちを全て吸い込んだ。
「ほう、やるではないか、海賊の末裔よ。」
「勇者、アスピを頼んだ。」
[分かった。]
彼女を勇者に預け、魔王へと斬りかかる。
「ギィん。」
重々しい金属音がぶつかり、あたりに衝撃波が飛ぶ。
乙姫の刃が溢れた。
メンテナンスを欠かせた事はない。
ここに来て、コレか。
[ごめんねアスィール。私ももうダメみたい。]
乙姫とはあまり良好な関係を築けなかった。
だけど、ここまで彼女は、こんな偽物にも力を貸してくれたのだ。
彼女の、この気持ちを無碍にするわけにはいかない。
「そんな弱きになるなよ。お前らしくないぞ乙姫。ノースランドの時にみたいに俺を煽ってみろよぉ。」
[ったく。]
[お前の扱いが悪いから、刃こぼれしたんだよざーこ。勇者様なら、もっと上手かったから。]
___カチンと来た。
[怒った? ]
「別に。」
大きくのけ反ったエスカリーナに、フォースのマシンガンが炸裂する。
数発が、彼女の心臓に当たり、彼女の身体に亀裂が入る。
「やっぱりな。」
フォースは、空になったカートリッジを排出すると、法衣の下から新しいカートリッジを放り投げて両手の十字架へと装着する。
「お前、心臓のところに、代わりの何かを仕込んでいるな。」
「おかしいと思った。いくら魔王でも、あの攻撃を受けて、無傷なはずがない。」
「だったらどうした人の子よ。まぁバレたならしょうがない。コレで出来るだけ体力を消耗させるつもりだったんだけどな。」
[フェニックス・ペネトレイト]
獄炎を纏った翼が、不死鳥となり、エスカリーナの心臓を穿った。
心臓が赫く光り、砕け散ったかと思うと、彼女の身体は灰となり、崩れ去る。
彼女は、黒い渦へと吸い込まれると、そのドス黒い液体と融合した。
[さっきの石が世のコアなら、もっと自分の心臓を庇った戦い方をするだろう? ]
[さっきよりも動きやすい。]
「がっ。」
フォースは、エスカリーナに串刺しにされて、その場に倒れる。
「フォース!! 」
さっきの地獄炎のせいで、足場が悪い。
彼のところまで上手く走れない。
彼女は人の状態に戻ると、フォースを回復体位へと変えた。
「安心しろ、急所は外してある。」
「なんで…… 」
ドレイクも同様に音もなく倒れた。
「なんで、なんで、なんで。」
「そんなに優しいのに、人を傷つけるんだぁぁぁぁぁ。」
「そりゃお前らが刃向かってくるからだろうがぁぁぁぁ。」
地面から黒い針が伸びる。ソレを跳躍して避ける。
「抵抗するな、平伏せよ。あのような忌々しい存在のために、お前たちが犠牲になることなんてないんだ。私の下に付いてくれ。頼むから、私だってこれ以上誰かを傷つけたいわけじゃない。」
今度は天井から。
不意を突かれて、背中を貫かれる。
「ああ、殺した。沢山。同類もお前ら人間も、父の息のかかった魔族は全員。」
「なんでこんな事をしなきゃ行けなかったんだ。父はクズだ。部下を虐げ、部下の娘に手を掛けようとするドクズだ。」
「だけど、ソレでも私の父なんだ。私のことを愛してくれた父なんだ。私に賢者の石をくれた父なんだ。庭の花畑で一緒に遊んでくれた父なんだ。私が不機嫌な時、訳のわからない人形を部下に仕入れさせた父なんだ。」
「ああするしか無かった。私は魔王だ。部下を守る責任がある。世界の未来を担う責任がある。本当は人間と、もっと仲良くしたかった。だって私が恋をした相手は人間だから。」
「私たちが人間と魔族の架け橋になれば、世界は平和になると。そう考えたら時期もあった。」
「だけど、世界は丸くない。丸くないんだよアスィールッ。」
一瞬の出来事だった。
全身を、エスカリーナに刺されて、身体のあちこちに穴が開く。
「姑獲ぅ。アペシュ。」
僕は粉々になった彼らを両手で必死に集める。
「そうだ。オキュペティー!! 乙姫っ!! 」
彼女たちはかろうじて形を保っているが………
「返事をしてくれ!! 」
そして、
[なんて顔してるんだよ。キミらしくないな。]
僕の一番付き合いの長い相棒。
皮肉屋だったけど、最後まで僕の味方でいてくれた。
最後まで僕の盾でいてくれた彼女は、真ん中にポッカリと大きな穴
最後に。
彼女にはコレだけは伝えておかなくては。
「ドゥルガ。ありがとう。一番最初に出会ったのがキミで良かった。キミには盾としてだけじゃない。友人……じゃないな相棒として、最後まで僕と一緒にいてくれてありがとう。キミは本当にいい奴だ。ずっと友達でいて欲しかった。」
[キミは何というか……ああもう。]
[僕たちは、コレからもずっと友達だぜ。]
両膝を付いて崩れ落ちる。
時空間魔術を使い、両手でフォースたちを掴むように操ろうとする。
ソレより先に、エスカリーナは彼らを自身の闇にしまってしまった。
「セブンスの魔眼に耐えた男だ。そうそう死ぬ事はない。ドレイクも伝説の海賊が取り憑いている。」
「平伏しろ。さすれば、コイツらの命は助けてやろう。」
「お前が牢に入ることを約束すれば、魔族たちを説得するために協力してくれるというのなら、人間たちに危害を加える事はやめてやろう。私が部下たちを止める。」
「だから、もう楽になれ。」
みんなの声が聞こえなくなった。
一緒に戦ってくれた武具たちも、僕と目的を共にした四人の仲間たちも。
そうだ!! 勇者。
キミなら!!
「魔力切れ……か。城を覆うほどの私に匹敵する強大な魔力がな。」
「私の時空間魔術は、性質上、魔力消費が少ない。最初からお前は詰んでいたんだ。」
「もう頼れる仲間は誰一人居ない。」
「諦めるな。」
「絶対に折れない心を持ったモノこそ本当の勇者だ。」
男は僕に向けて迸る稲妻を投げつける。
僕は無意識に、その稲妻の柄を受け止めた
僕はこの刀を知っている
銘は『雷斬』
英雄が心に宿す魔導剣
「英雄ならここに一本の剣を持て
もうお前のその意思はお前だけのものじゃないだろう。」
彼は自分の心臓へと親指を立てた。
心の剣、魔導剣。
そうだ。
僕はここにくるまでに、多くの人間から貰ってきた。
エスカリーナと同じだ。
彼女が犠牲にしてきたモノに、報いるように、僕も報いる。
雷斬から男の魔力が溢れてくる。
彼の英雄の魂が。
もう一度飛ばなきゃって。
背中を押されている。
---飛鷹---
神居より何百倍も遅い。
だけど、彼女と闘うのには十分すぎる。
彼女は何かを覚悟したように頷いた。
地面から生えた黒い針を、水平斬りで切り裂き、
壁から出現した飛矢を放電で弾き返す。
上から落ちてきたつららを回転しながら蹴飛ばし、跳躍してから天井を蹴飛ばすと、大きく振り被る。
ドレイクが開けた大穴から、雷が降り注ぐ。
雷は、雷斬に吸収され、威力が増す。
魔力がみなぎる。
身体が熱い。
「私を殺すと、後悔するぞアスィール。人類はまた、忌々しい封建制度に巻き戻りだ。」
「そんなモノ、僕が変えてみせる。魔王を倒した僕ならソレが出来る。」
「バケモノと罵られようとも、勇者と迫害されようとも。」
「みんなが幸せならソレでいい。だからみんなを幸せにするんだ。」
「あはは、バカかお前は、幸福を知らぬ子供の戯言よ。」
「ああ、僕はバカだよ。何か文句あんのかよ。」
---堕雷---
白く迸る僕の雷が、魔王を焼いた。
手応えはあった。
彼女は真っ二つになり、灰に還る。
黒い渦は効力を無くし、周囲の空間を吸い込みながら、やがて消滅した。
勇者は、何千年もあの空間に閉じ込められていた。
なら。
待っていてくれ、フォース、ドレイク。
「やれやれ終わったな。」
「早くメシにしようぜ千代。」
「もう、食べることばっかり。」
「じゃあないだろう。この仕事始めてから娯楽っていう娯楽がない訳だし。あの蝙蝠野郎、魔法使いに手を貸せど、直接干渉するなとかいうめんどくさいことを言いやがるんだからよ。」
あまりにも楽しそうなので、どう声を掛ければ良いか分からなかった。
せめてお礼だけはしないと。
彼らがいなければ、僕は魔王に勝てなかった。
「あの? 先ほどはありがとうございました。」
男は僕に気がつくと、こちらを向いた。
左の額の上には、大きな窪み、角でも生えていたのだろうか?
そして腰には、鎖のついた手裏剣のような武器を担いでいる。
「ああ、良いってことよ。お前も勇者だって知ってから、放っておけなくなってな。」
「ソレより、慎二、魔法使いのこと。」
「まぁせくなよ。いきなり魔王を倒した人間が世界から居なくなれば、ここは余計に混乱する。」
僕は彼らに訊いた。
「あの、慎二さんたちはもしかして? 」
「そのもしかして……だよ。お前の使っている魔術の世界の人間。」
「だけど、俺の知っているアスィールとは随分風貌が違うけどな。アイツがこんな風なら、双薔も、もっと政治が楽になるだろうにさ。」
「っとこっちの話。」
「とても不躾なお願いなのですが。」
「俺たちと一緒に俺たちの世界に来てくれませんか? 」
「え? あ、はい。」
なんか勢いで返事をしてしまった。
「そうか、じゃあな。また来るから。」
「また来るから じゃないでしょ。」
ポカっと慎二さんが叩かれる。
「どうしてお前はそうも強引なんだよ。ソレ、あんまり良くないぞ。俺たちだって同じような境遇なんだからさ。」
「そんなことを言って、蝠岡さんに言いつけられたこと、何一つできてないじゃない。」
「俺もアイツもお前も、時間は潤沢にあるんだ。せく必要はないさ。」
「ってことで頼むよ千代。次の世界へ。」
彼女はムスッとしながら、指を鳴らした。
指の音と共に彼らが消える。
きっとまた旅に出たのだろう。
次元を彷徨う放浪を。
[……だ私は諦めていないぞ。]
再び黒いウズが開き、身構える。
ディアスト、エシール、フォース、ドレイク、全てを吐き出し、そして黒い思念は、ディアストの中に入ろうとした。
[ああ、ディアスト。私と共に。]
考えるより先に足が動く。
まだ足に雷の感覚が残っている。
僕もディアストに触れた。
「起きろディアスト!! 」
「……もう、良いんだ。アスィール。放っておいてくれ。」
「何を勘違いしてるんだよ自意識過剰野郎!! 」
僕が、エシールを助けようとしているのは、エスカリーナの復活を止めるためでも、エシールの身を案じているわけではない。
「お前のためじゃない。アスピのためだ。全部。」
--- 次元の腕---
次元の手で、必死に彼を手繰り寄せる。
だが、エスカリーナも負けずとディアストを引き返す。
[もう、私から大事なモノを奪わないでくれ。コレは私にとって一番大切なモノなんだ。賢者の石よりも、中庭よりも、ぬいぐるみよりも。]
[彼が居たから、人間をもっと知ろうと思えた。人間に優しくなれた。魔王として世界を愛で満たそうと思えた。私にはお前が必要なんだディアスト。]
「いい加減消えろよ死に損ない。コレはお前のじゃない。アスピのモノだ。」
「俺は……俺は誰のものでも無い!! 」
エスカリーナは瞳孔を開くと、目に涙を溜めて、ディアストから手を離した。
だけど、ディアストは彼女を再び握りしめた。
力の均衡が乱れ、ディアストが物凄い勢いで、こちらに突っ込んでくる。
デコが当た……らない。
ディアストは僕に吸い込まれるように吸収される。
* * *
意識を取り戻した頃には……
僕たちは一つとなり、そばには……一人の少女が転がっていた。
彼女が、ドレイク向けて突進しようとしているのを目で捉えると、ドゥルガを構えて、二人の間へと割り込んだ。
[ぐっ。]
凄まじい衝撃。
ソレよりも、今の感覚は、明らかに不味いモノがあった。
急いで、慧眼で、ドゥルガを視る。
「ヒビが。」
僕はドゥルガを背中にしまおうとした。
[構うなアスィール。僕は盾だ。敵の攻撃を受け止めるために僕は作られた。]
あの刺突を正面から受けるとヤバい。
「アスィール。アタイのことはええんや。」
「そうも行かないよ。」
「ホンマお節介やな。」
ドレイクは腰から古びた拳銃を抜くと、レボルバーをクルクルと回して、銃口を左掌に押し当てる。
そのまま左手を貫いた。
「パーンッ。」
乾いた音と共に、真紅の液体が飛び散り、ソレがブクブクと泡立つと、やがてドレイクの身体を包み込んだ。
[WAKE UP!! ]
ドレイクの身体の線に沿って、金色の鎧が張り付いていく。
鎧は、鎖骨の辺りで止まると、長く下ろされていたストレートの赤毛は、後ろで大きく結えられ、獲物のカットラスは、髪と同じ赤色に絵変色し、両刃の直剣へと形を変える。
最後に額の上にリボンが付くと、彼女は軽くウインクをした。
「アイ……フリード…… 」
エスカリーナは苦虫をすり潰す。
[お前、フェイブルの娘だな。]
「汝ら海賊団には、散々手を焼かされたと聞く。」
[そうだよ。俺だよ。四大陸を股にかけた大海賊。アイ・フリード様とは俺のことだ。]
[さぁお嬢、奴をやっちまいな。そんでもって、長きに渡る、海賊と魔族の因縁を断ち切るんだ。]
「アタイはそんなこと知らん。」
ドレイクは両手で胸の辺りを押さえると、腰を丸く曲げて、顔を赤らめている。
「だから嫌やったんや。この衣装は。」
「いつも恥ずかしい服着てるじゃん。」
「なんやテェ。」
彼女は、腰のロングソードを抜き取ると、僕へ向けて斬りかかってきた。
[ लुमा]
勇者が、斬り込んできたドレイクを、エスカリーナの元へと飛ばす。
エスカリーナは、彼女の斬り下ろしをクリーンヒットさせられ、地面から火柱が上がる。
火柱は、玉間の天井を貫くと、空から、明るい光が差し込んだ。
火柱は、魔大陸を覆っていた黒い雲を消し去り、宇宙まで届いたらしい。
黒焦げになった魔王は、両手で、自身の身体をくっ付けると、ポロポロと皮膚を剥離させて、元通りに再生する。
「その剣、対魔の能力があるな、厄介な武器だ。」
エスカリーナの反撃。
再び時空間魔術を使い、ドレイクと位置を入れ替える。
今度は乙姫で、彼女の槍を受け止めると、下に叩きつけた。
そのまま反動で宙に飛び上がり、オキュペティーで、加速させた脚力で、エスカリーナの顔を蹴る。
血飛沫が飛び散り、彼女は仰け反る。
フォースをエスカリーナの後ろにワープさせる。
フォースは十字の短剣で、彼女を刺そうとした。
彼女はソレに気がついたようだ。
彼女は、自分と、フォースの位置を入れ替えた。
フォースの攻撃を、ドゥルガで受けてしまう。
「悪い、アスィール。」
「ソレより、次、来るよ。」
僕の背後に回り込んでくる。
動揺を誘う為だ。
乙姫を地面に突き立てて、上に大きく跳躍する。
少し遅れて、黒い渦から姿を現した魔王が、槍を地面へと叩きつける。
「うるさい小蝿じゃ。」
「後ろ見とけハゲェぇぇぇ。」
ドレイクが、鞘に納めたロングソードを、引き抜くと共に、大きく前に踏み出した。
エスカリーナは、地面を凹ませると、そこから姿を消した。
時空間魔術ではない。
彼女自身の、素の身体能力。
[地獄炎]
地上から、無数の火の竜が溢れ出し、そこら一帯を喰らい尽くす魔術。
もちろん、この世界のモノではない。
「私に真似出来ないものは無い。学んだぞ。お前たちが使う魔術の本質をな。」
僕たちが別世界から引っ張り出した火属性の最上位魔術……
だけど、詠唱方法は完全にこの世界のモノだ。
僕はアスピを抱き抱えると、三人と共に火の竜を避けた。
[ブリリアント・ドミニオン]
振り向くと、ドレイクが、自身の剣を天へと掲げ、火の竜たちを全て吸い込んだ。
「ほう、やるではないか、海賊の末裔よ。」
「勇者、アスピを頼んだ。」
[分かった。]
彼女を勇者に預け、魔王へと斬りかかる。
「ギィん。」
重々しい金属音がぶつかり、あたりに衝撃波が飛ぶ。
乙姫の刃が溢れた。
メンテナンスを欠かせた事はない。
ここに来て、コレか。
[ごめんねアスィール。私ももうダメみたい。]
乙姫とはあまり良好な関係を築けなかった。
だけど、ここまで彼女は、こんな偽物にも力を貸してくれたのだ。
彼女の、この気持ちを無碍にするわけにはいかない。
「そんな弱きになるなよ。お前らしくないぞ乙姫。ノースランドの時にみたいに俺を煽ってみろよぉ。」
[ったく。]
[お前の扱いが悪いから、刃こぼれしたんだよざーこ。勇者様なら、もっと上手かったから。]
___カチンと来た。
[怒った? ]
「別に。」
大きくのけ反ったエスカリーナに、フォースのマシンガンが炸裂する。
数発が、彼女の心臓に当たり、彼女の身体に亀裂が入る。
「やっぱりな。」
フォースは、空になったカートリッジを排出すると、法衣の下から新しいカートリッジを放り投げて両手の十字架へと装着する。
「お前、心臓のところに、代わりの何かを仕込んでいるな。」
「おかしいと思った。いくら魔王でも、あの攻撃を受けて、無傷なはずがない。」
「だったらどうした人の子よ。まぁバレたならしょうがない。コレで出来るだけ体力を消耗させるつもりだったんだけどな。」
[フェニックス・ペネトレイト]
獄炎を纏った翼が、不死鳥となり、エスカリーナの心臓を穿った。
心臓が赫く光り、砕け散ったかと思うと、彼女の身体は灰となり、崩れ去る。
彼女は、黒い渦へと吸い込まれると、そのドス黒い液体と融合した。
[さっきの石が世のコアなら、もっと自分の心臓を庇った戦い方をするだろう? ]
[さっきよりも動きやすい。]
「がっ。」
フォースは、エスカリーナに串刺しにされて、その場に倒れる。
「フォース!! 」
さっきの地獄炎のせいで、足場が悪い。
彼のところまで上手く走れない。
彼女は人の状態に戻ると、フォースを回復体位へと変えた。
「安心しろ、急所は外してある。」
「なんで…… 」
ドレイクも同様に音もなく倒れた。
「なんで、なんで、なんで。」
「そんなに優しいのに、人を傷つけるんだぁぁぁぁぁ。」
「そりゃお前らが刃向かってくるからだろうがぁぁぁぁ。」
地面から黒い針が伸びる。ソレを跳躍して避ける。
「抵抗するな、平伏せよ。あのような忌々しい存在のために、お前たちが犠牲になることなんてないんだ。私の下に付いてくれ。頼むから、私だってこれ以上誰かを傷つけたいわけじゃない。」
今度は天井から。
不意を突かれて、背中を貫かれる。
「ああ、殺した。沢山。同類もお前ら人間も、父の息のかかった魔族は全員。」
「なんでこんな事をしなきゃ行けなかったんだ。父はクズだ。部下を虐げ、部下の娘に手を掛けようとするドクズだ。」
「だけど、ソレでも私の父なんだ。私のことを愛してくれた父なんだ。私に賢者の石をくれた父なんだ。庭の花畑で一緒に遊んでくれた父なんだ。私が不機嫌な時、訳のわからない人形を部下に仕入れさせた父なんだ。」
「ああするしか無かった。私は魔王だ。部下を守る責任がある。世界の未来を担う責任がある。本当は人間と、もっと仲良くしたかった。だって私が恋をした相手は人間だから。」
「私たちが人間と魔族の架け橋になれば、世界は平和になると。そう考えたら時期もあった。」
「だけど、世界は丸くない。丸くないんだよアスィールッ。」
一瞬の出来事だった。
全身を、エスカリーナに刺されて、身体のあちこちに穴が開く。
「姑獲ぅ。アペシュ。」
僕は粉々になった彼らを両手で必死に集める。
「そうだ。オキュペティー!! 乙姫っ!! 」
彼女たちはかろうじて形を保っているが………
「返事をしてくれ!! 」
そして、
[なんて顔してるんだよ。キミらしくないな。]
僕の一番付き合いの長い相棒。
皮肉屋だったけど、最後まで僕の味方でいてくれた。
最後まで僕の盾でいてくれた彼女は、真ん中にポッカリと大きな穴
最後に。
彼女にはコレだけは伝えておかなくては。
「ドゥルガ。ありがとう。一番最初に出会ったのがキミで良かった。キミには盾としてだけじゃない。友人……じゃないな相棒として、最後まで僕と一緒にいてくれてありがとう。キミは本当にいい奴だ。ずっと友達でいて欲しかった。」
[キミは何というか……ああもう。]
[僕たちは、コレからもずっと友達だぜ。]
両膝を付いて崩れ落ちる。
時空間魔術を使い、両手でフォースたちを掴むように操ろうとする。
ソレより先に、エスカリーナは彼らを自身の闇にしまってしまった。
「セブンスの魔眼に耐えた男だ。そうそう死ぬ事はない。ドレイクも伝説の海賊が取り憑いている。」
「平伏しろ。さすれば、コイツらの命は助けてやろう。」
「お前が牢に入ることを約束すれば、魔族たちを説得するために協力してくれるというのなら、人間たちに危害を加える事はやめてやろう。私が部下たちを止める。」
「だから、もう楽になれ。」
みんなの声が聞こえなくなった。
一緒に戦ってくれた武具たちも、僕と目的を共にした四人の仲間たちも。
そうだ!! 勇者。
キミなら!!
「魔力切れ……か。城を覆うほどの私に匹敵する強大な魔力がな。」
「私の時空間魔術は、性質上、魔力消費が少ない。最初からお前は詰んでいたんだ。」
「もう頼れる仲間は誰一人居ない。」
「諦めるな。」
「絶対に折れない心を持ったモノこそ本当の勇者だ。」
男は僕に向けて迸る稲妻を投げつける。
僕は無意識に、その稲妻の柄を受け止めた
僕はこの刀を知っている
銘は『雷斬』
英雄が心に宿す魔導剣
「英雄ならここに一本の剣を持て
もうお前のその意思はお前だけのものじゃないだろう。」
彼は自分の心臓へと親指を立てた。
心の剣、魔導剣。
そうだ。
僕はここにくるまでに、多くの人間から貰ってきた。
エスカリーナと同じだ。
彼女が犠牲にしてきたモノに、報いるように、僕も報いる。
雷斬から男の魔力が溢れてくる。
彼の英雄の魂が。
もう一度飛ばなきゃって。
背中を押されている。
---飛鷹---
神居より何百倍も遅い。
だけど、彼女と闘うのには十分すぎる。
彼女は何かを覚悟したように頷いた。
地面から生えた黒い針を、水平斬りで切り裂き、
壁から出現した飛矢を放電で弾き返す。
上から落ちてきたつららを回転しながら蹴飛ばし、跳躍してから天井を蹴飛ばすと、大きく振り被る。
ドレイクが開けた大穴から、雷が降り注ぐ。
雷は、雷斬に吸収され、威力が増す。
魔力がみなぎる。
身体が熱い。
「私を殺すと、後悔するぞアスィール。人類はまた、忌々しい封建制度に巻き戻りだ。」
「そんなモノ、僕が変えてみせる。魔王を倒した僕ならソレが出来る。」
「バケモノと罵られようとも、勇者と迫害されようとも。」
「みんなが幸せならソレでいい。だからみんなを幸せにするんだ。」
「あはは、バカかお前は、幸福を知らぬ子供の戯言よ。」
「ああ、僕はバカだよ。何か文句あんのかよ。」
---堕雷---
白く迸る僕の雷が、魔王を焼いた。
手応えはあった。
彼女は真っ二つになり、灰に還る。
黒い渦は効力を無くし、周囲の空間を吸い込みながら、やがて消滅した。
勇者は、何千年もあの空間に閉じ込められていた。
なら。
待っていてくれ、フォース、ドレイク。
「やれやれ終わったな。」
「早くメシにしようぜ千代。」
「もう、食べることばっかり。」
「じゃあないだろう。この仕事始めてから娯楽っていう娯楽がない訳だし。あの蝙蝠野郎、魔法使いに手を貸せど、直接干渉するなとかいうめんどくさいことを言いやがるんだからよ。」
あまりにも楽しそうなので、どう声を掛ければ良いか分からなかった。
せめてお礼だけはしないと。
彼らがいなければ、僕は魔王に勝てなかった。
「あの? 先ほどはありがとうございました。」
男は僕に気がつくと、こちらを向いた。
左の額の上には、大きな窪み、角でも生えていたのだろうか?
そして腰には、鎖のついた手裏剣のような武器を担いでいる。
「ああ、良いってことよ。お前も勇者だって知ってから、放っておけなくなってな。」
「ソレより、慎二、魔法使いのこと。」
「まぁせくなよ。いきなり魔王を倒した人間が世界から居なくなれば、ここは余計に混乱する。」
僕は彼らに訊いた。
「あの、慎二さんたちはもしかして? 」
「そのもしかして……だよ。お前の使っている魔術の世界の人間。」
「だけど、俺の知っているアスィールとは随分風貌が違うけどな。アイツがこんな風なら、双薔も、もっと政治が楽になるだろうにさ。」
「っとこっちの話。」
「とても不躾なお願いなのですが。」
「俺たちと一緒に俺たちの世界に来てくれませんか? 」
「え? あ、はい。」
なんか勢いで返事をしてしまった。
「そうか、じゃあな。また来るから。」
「また来るから じゃないでしょ。」
ポカっと慎二さんが叩かれる。
「どうしてお前はそうも強引なんだよ。ソレ、あんまり良くないぞ。俺たちだって同じような境遇なんだからさ。」
「そんなことを言って、蝠岡さんに言いつけられたこと、何一つできてないじゃない。」
「俺もアイツもお前も、時間は潤沢にあるんだ。せく必要はないさ。」
「ってことで頼むよ千代。次の世界へ。」
彼女はムスッとしながら、指を鳴らした。
指の音と共に彼らが消える。
きっとまた旅に出たのだろう。
次元を彷徨う放浪を。
[……だ私は諦めていないぞ。]
再び黒いウズが開き、身構える。
ディアスト、エシール、フォース、ドレイク、全てを吐き出し、そして黒い思念は、ディアストの中に入ろうとした。
[ああ、ディアスト。私と共に。]
考えるより先に足が動く。
まだ足に雷の感覚が残っている。
僕もディアストに触れた。
「起きろディアスト!! 」
「……もう、良いんだ。アスィール。放っておいてくれ。」
「何を勘違いしてるんだよ自意識過剰野郎!! 」
僕が、エシールを助けようとしているのは、エスカリーナの復活を止めるためでも、エシールの身を案じているわけではない。
「お前のためじゃない。アスピのためだ。全部。」
--- 次元の腕---
次元の手で、必死に彼を手繰り寄せる。
だが、エスカリーナも負けずとディアストを引き返す。
[もう、私から大事なモノを奪わないでくれ。コレは私にとって一番大切なモノなんだ。賢者の石よりも、中庭よりも、ぬいぐるみよりも。]
[彼が居たから、人間をもっと知ろうと思えた。人間に優しくなれた。魔王として世界を愛で満たそうと思えた。私にはお前が必要なんだディアスト。]
「いい加減消えろよ死に損ない。コレはお前のじゃない。アスピのモノだ。」
「俺は……俺は誰のものでも無い!! 」
エスカリーナは瞳孔を開くと、目に涙を溜めて、ディアストから手を離した。
だけど、ディアストは彼女を再び握りしめた。
力の均衡が乱れ、ディアストが物凄い勢いで、こちらに突っ込んでくる。
デコが当た……らない。
ディアストは僕に吸い込まれるように吸収される。
* * *
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僕たちは一つとなり、そばには……一人の少女が転がっていた。
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