神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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大陸遠征

ダイオミードへ

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 翌朝、俺たちは支度を整えてルーシーの集落から出た。
 護衛はルーシたちがしてくれていたため、七宝隊長の顔色も幾分かましだった。
「もう出るのか? 」
 梓帆手は残念そうに七宝へと話しかけた。
「食料に、寝床、おまけに護衛までしていただけるなんて。もうこれ以上お世話になる訳にはいけません。」
「そうか……残念だ。」
 それから梓帆手は俺の方へと振り向く。
「なぁ慎二よ。やっぱりこの集落で暮らさないか? 」
 俺は首を横に振る。
「仇を見つけて殺す。これだけが俺に残された生きる意味だ。」
「……どうやら意志は硬いようだな。」
 梓帆手はルーシーへ向き変える。
「おいお前たち、食糧を持って来い。」
 七宝が慌てて手を振る。
「そんな、そちらも食糧の備蓄が厳しいでしょうに。」
(梓帆手は、大きな樽を片手で持ち上げる。)
「貰ってくれ、隊長。それに北は草木一本生えていない過酷な土地だ。」
「この先、何の対策もなしに進むのは危険だぞ。」
(七宝が頭を下げる。)
「ありがとうございます。何から何まで、この御恩は決して忘れません。」
 彼はそれから軍服をなびかせる。
「行くぞお前たち。方位北北東、ウエレンの尻尾だ。」
 それからは、滞りなくことが進んだ。
 梓帆手が用意してくれた食糧やら寝袋やらのおかげである。
 ツンドラの厳しい地域でも難なく旅を続けることが出来た。
 寒さで飛ぶことが出来なくなったので、そこからは徒歩になった。
 熱海の手が空いた分、彼はヒーターのような役割を果たしてくれたため、低体温症になることもなかった。
 そして一週間後、ウエレンの港から特殊な船で氷の海を溶かしながら進み、ダイオミードという島に着く。
 七宝の命令で、休息と補給が行われる。
 そこで霧島と馬田がとある情報を手に入れたらしい。
「メリゴ大陸に聖がいるかもしれない。」
 その言葉が、耳から蝸牛を撫でて、脳の中で駆け巡る。
 ウェールズとダイオミードを行き来する船頭の話によると、南から逃げてきたワーメリゴンという原住民が、彼らから受ける重圧に耐えかねて北に逃げてくるらしい。
 そのため、ウェールズ行きの船も利用客が減っているらしい。
「隊長? どうしますか。」
 馬田が彼に問う。
「ちょうど良かった。皆んなにこれを配ろう。例田から急遽送られてきたモノだ。」
 七宝が俺たちの端末にデータを飛ばしてくる。
 自動翻訳データだ。
「霧島の能力を解析して作られた自動翻訳プログラムだ。これでワーメリゴンから出来るだけ情報を集めてほしい。情報が集まり次第、メリゴ大陸に上陸し、聖を叩く。」
 馬田が七宝を制した。
「十人程度でですか? 増援は? 」
「極東軍が、あのツンドラを抜けて来られると思うか? 」
 琵琶が立ち上がる。
「なんだ? 俺たちは十三部隊契約者だ。五万や十万も楽勝だぜ。」
 馬田が反論した。
「お前は楽観的すぎる。もう少し冷静になれ。」
「ああ、馬田の言う通りだ。だから出来るだけ情報を集めてほしい。不意打ちで彼らを一気に叩く。ワーメリゴンたちへの交渉は、その後だ。」
 黒澄が立ち上がる。
「あのぉ。一旦引き返して、準備を整えるっていうのは……」
 七宝は首を横に振った。
「聖がそこまで待ってくれると思うか? 地脈をひかれたらおしまいだ。彼らの植民地となってしまう。」
 俺も思わず意見した。
「救出した後のワーメリゴンたちの待遇はどうなるんでしょうか? 彼らと同じようにこき使うのでしょうか? 」
 七宝は真っ直ぐ俺の方を見た。
「俺が取り繕う。事後処理は俺に任せてくれ。」
 今度は斥が立ち上がる。
「具体的にはどんなことを聞けば良いんですか? 」
「彼らの仕事内容。そこから目的を聞き出してくれ。あと、どこで働いていたか。それから働いていた場所。大まかでも良いから。」
「それと指導者の確認だ。」
「シド・ブレイクは老衰で現場に赴くことは少ない。おそらく五兄弟のうちの誰かが現場を指揮していることだろう。」
 霧島も立ち上がる。
「現地人を支配せるほどの軍事力、又は兵力も考えられます。」
「そうだな、現場にどれだけの人間が配属されているか、それとどのように統制しているか。つまり彼らの能力を出来るだけ集めなくてはならない。」
 麻川が意見する。
「罠だという可能性は? 」
「それも含めて調査に当たってくれ。それでは解散。」
「「はっ」」

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