神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

文字の大きさ
110 / 145
侵略者

聞きたいことはたくさんあるが

しおりを挟む
 メリゴ大陸から無事帰還した俺と黒澄は、極長室で報告を行っていた。
「そうか、犯人は特定したが逃げられた。」
「詠唱は? どんな術式だったのかね? 」
「そっち方面は君の方が詳しいだろ? 」
 俺は苦虫を噛んだ時のような顔で答える。
「悪い、見えなかった。」
「やはり、術式の残留がない時点で薄々気が付いてはいたが。」
 極長の反応を見て、俺は出来る限りの表現で、彼に情報を引き出そうとした。
「なんか、こういう表現は悪くないんだけど、最近アニメでやっているサイキック少女キサラギちゃんと近かった と思う。」
 極長は眉を顰める。
 黒澄も顰めた。
「術式を発動しているって言うより、息を吐くように能力を発現させているんだ。そのアニメの言葉を借りるなら。」
「超能力……か。」
「しかしそんなことが本当に? 術式を使用せずに能力を使うなど聞いたことが無いぞ。神族だって術を発動させるのに古代語を使っている。無詠唱というのなら、一体どういう原理で? そりゃキミ、強いイメージさえアレば、言葉に発さなくても発現させられるかもしれない。だが、術式の跡が残らないのは異常だ。」
「極長……」
 黒澄が挙手する。
「なんだね? 」
 彼女はゆっくり口を開いた。
「すみません、私、テロリストに会ってきました。」
 極長は腕を組んで険しい顔をした。
 そして彼女に問う。
「ソレで彼らはなんだって? 」
「彼らは外の人間らしいです。慎二が倒した神たちと同じ…… 」
「よく出来た小説じゃないか。」
 ここで俺は話を切り出した。
「アンタももう招かれざる客の本拠地を知っているんじゃないか? 」
「何を根拠に? 」
「根拠なんて無いさ。だが、ミシマッシュは奴らの巣穴を炙り出した。」
「俺たちは今からそこに行く。」
 極長はソレを否定した。
「ならない。それだけは。」
「なぜ? いつまでもこんなイタチごっこを繰り返すつもりか? 領土内に入ってきた奴らを仕留めるなんて無理だ。俺は先の戦闘で分かった。奴を生捕にすることは不可能だって。」
 彼は渋い顔をした。
「私だって出来るならそうしたい。しかし、コレは私たちだけの問題では無い。」
 黒澄が口を開く。
「セル帝国の極東進軍の件ですね。」
「そうだ。彼らと私たちの溝は、国家間だけでなく、民衆にまで行き届いている。」
「我々が下手に動けば、情報局が黙ってはいないだろう。」
「我々だけなら良い。向こうだって、極東の軍人が自分の国に入ってくるなんてあまり良い気分では無いはずだ。」
「それでも、奴らに一矢報いるべきだ。」
「慎二君落ち着きたまえ。今動けば大変なことになる。」
 不意に扉が開いて、秘書が飛び入ってくる。
「なんだね? いまは取り込み中だ。入ってくる時はノックをしろと、くどくどくどくどくどくど。」
「アスィール様からです。」
「なに? 国王直々に? ソレを早く言いなさい!! 」
 流石に極長の額にも汗が滲んでいた。
「ええ、あ、はい、ええっ? 」
 彼は深呼吸してから答えた。
「どうやらセル帝国に人を寄越して欲しいらしい。」
「どういう了見だ? 」
「どうやら皇帝カーミラが緊急首脳会談を開くらしい。」
「こんな時に自分の領土を開けろっていうのか? 」
「こんな時だからだ。」
「美奈や天子たちにはもう連絡が。」
「安心したまえ、極東には契約者がいる。」
「まざか向こうから招き入れてくれるとはなぁ。」
「慎二くん、千代くん? 無休で済まないが、もう出れるか? 」
 俺と黒澄はお互いに顔を見合わせると、コクリと頷いた。
 俺たちは極長室を後にする。
 そして彼女に問いかけた。
「おい、黒澄、ポータルは向こうだぞ。」
 俺はメリゴ大陸へと渡った外京の方を指差した。
「極東はセル帝国にポータルを置いていないわ。」
 理由はだいたい分かった。
「陰気くせえ野郎どもだな。」
「国防を気にしているのは本部だけじゃ無いわ。」
「みんながみんな、お互いを疑っている。」
「私も。」
「黒澄…… 」
 そうしていると彼女は急に振り返ると、俺に指を刺した。
「後、黒澄っていうのやめて。なんか余所余所しいじゃん。」
 俺は腕を組んで考えた。
「ええ?じゃあ黒ちゃん? 」
「なに? ソレ誰の芸名よ。」
「じゃあか? 」
「ち・が・う。」
「もういい!! 」
 彼女は不機嫌になってまたズカズカ歩き出した。
「待ってくれ千代!! 」
「ふーん。やれば出来るじゃない。」
 なんだか懐かしい感じがする。
 俺と千代はしばらくの間疎遠になっていたから、名前で呼ぶのを自然と躊躇ってしまっていたが。
「慎二、いこ? 」
 彼女が手を差し出してくるのでソレを握る。
 俺たちは畿内環状線へと急いだ。

      * * *

 モノポール車は、蒸気機関車より静かでずっと早い。
 だがその沈黙はあまり心地よいものでは無かった。
「なんでアナタがいるのかしら。」
 私服の美奈を見るのは久しぶりだ。
「行き先が同じなら別にいいでしょ? 」
「それに護衛が槍馬だけじゃ心配だって近衛の人たちが。」
「それはそうと、わざわざ冠外してまで一般車両に乗るこたぁねえだろ。」
「槍馬は仕事柄で話すことがあるんだけど、慎二は助けて貰ってから全然話できていなかったし。」
「あのなぁ。」
 確かに、彼女を連れ出してからの俺は、任務に付きっきりだったし、彼女は天子と結婚して職務に勤しんでいた。
 積もる話が無いわけでは無いのも事実だ。
 一杯話をした。
 横で冷たい視線を感じながら。
 俺たちは本当に幼馴染であるような。そんな気がした。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

クロワッサン物語

コダーマ
歴史・時代
 1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。  第二次ウィーン包囲である。  戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。  彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。  敵の数は三十万。  戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。  ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。  内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。  彼らをウィーンの切り札とするのだ。  戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。  そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。  オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。  そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。  もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。  戦闘、策略、裏切り、絶望──。  シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。  第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...