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平等な社会
俺は捕まって
しおりを挟む被告を極刑に処す。
調停者の振り下ろすガベルが俺に死を宣告した。
俺の脳はしばらく、その言葉の意味を理解することを拒んでいた。
___はっと我に返った俺は、自分が立たされた今の状況を受け入れることが出来ず、手足を無様に動かす。
だが、俺の手足にガッチリハマっているその枷は、俺の自由を奪うことだけでなく、俺の能力行使まで拒んだ。
"ハハ、情けねえな俺、蝠岡にカッコつけてたくせに。"
カッコをつけていた俺は……
そうだろう。ただの良心の呵責だ。
今は、アイツを庇ったことにすら、後悔すら感じている。
サングラスの黒服たちが、俺を法廷から無理矢理引き摺り下ろす。
彼らに手枷は無い。
罪人では無いのだから当然だが。
しかし、代わりに彼らには腕輪があった。
スキルホルダー。
無能力者が、能力を行使するために装着する腕輪。
つまり、仮に俺が能力を使えるようになって、ここから逃げ出そうとしても、彼らに容易く押し倒されてしまうということだ。
俺は法廷からつまみ出されると、左右から発せられるフラッシュに襲われる。
奇異な目で能力者を見る無能力者たちと、スクープを手にせんとする腐ったマスコミどもの群れだ。
流石に腹が立った俺は、『これは見せ物じゃ無い。』と彼らを睨んだ。
すると彼らは驚き響めき、黒服たちの扱いがひどくなる。
ケツを蹴られ、車に乗せられた俺が向かうのは留置所だ。
罪を犯した者は、それから数日後、政府の懲罰機関である「お仕置き部屋。」に送られる。
が、俺が送られるのはおそらくそこでは無いだろう。
ラストプリズン。
矯正の余地が無くなった人間を処分する場所。
車が電気エンジンをふかし、ゆっくりと進み始めた。
外では黒人と白人のカップルが仲良くソフトクリームを分け合っている。
というのは語弊があった。
ほとんどの無能力者は人種を識別出来ないようになっている。
政府が、七歳を迎えた子供の脳にもれなく、マイクロチップを埋め込むからだ。
これもどこかの人種主義者が、人種によって他者が受け取る感情の変化を論文によって明らかにしてしまったことが要因である。
歪んだヒューマニストの科学者たちは、その要因を除去するナノマシンを開発した。
そこからはというものの、マイクロチップを脳内に埋め込んだ人間の社会評価は良いものとなり、同調圧力に屈した人類は次々とそのナノマシンを受け入れた。
一部の陰謀論者を除いて。
しかし、人種間の溝は深く、憎悪を捨てきれない人間たちが、度々戦争を起こした。
しかし、それも、国際政府が鎮圧し、再教育し、反抗する者は、敵味方関わらず滅ぼされた。
こうして世界中にばら撒かれたナノマシンは世界に恒久の平和をもたらのだ。
無個性な人間が、無個性な生活を送る世界。
その退屈な世界に待ったをかけたのが、平等社会史最悪の魔女、大兄弟助だ。
不思議な力を使える彼は、自分を支持する者たちに、能力を分け与え、ナノマシンを除去し、再び世界に戦乱を巻き起こした。
そのあと、反乱は鎮火され、大兄弟助は牢獄にぶち込まれた。
俺たち能力者は、その時、反乱に加担した人間たちの子孫。
つまり大罪人というわけだ。
「♫~」
助手席の黒服のポケットから鳴っている。
黒服は何も言わずに通信端末を切ると、ルートを大きく迂回させた。
どうやら国際政府本部に向かっているらしい。
どういう風の吹き回しだ?
俺は入り口の前で蹴られ、無理矢理車から降ろされると、黒服たちに連れられて、エレベーターに乗せられた。
画面に「100」の数字を入力すると、昇降機は上昇を開始する。
急な上昇によって、体が震えるが、それも時期に慣れ始め、三分ほどで百階へとたどり着いた。
ドアが開くと。
『公安犯罪課』
の殺風景な文字が目に入り、"なぜ俺がこんなところに? "と疑問を持ち、再び黒服にケツを蹴られる。
「おい、もっちょっと丁寧に扱ってくれよ。なぁ良いだろ? 」
男たちは俺の言葉を無視した。
俺は男たちに連れられて、事務所、作業部屋を後にし、その奥の『長官室』へと連れれてた。
中に入ると、大男、俺を捕らえた人間本人が、ディスクに座り、手を組んでいるでは無いか!!
「ありがとう。任務に戻りたまえ。」
彼がそういうと、寡黙な仕事人たちは、一礼を済ませると、長官室から出て行ってしまった。
部屋の中には、木製のボトル棚と、数々の勲章が飾られていた。
俺たちの同胞を狩って得た称賛。
そう思うと不思議と怒りが込み上げてくる。
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「名前…知っていたんですね。」
「まぁね。君は条家の人間だし。最近は良くも悪くも有名だよ。」
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