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ファイル:1 リべレイター・リベリオン
来賓
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俺が化学工場跡の廃墟に戻ってくる頃、宜野座さんが、廃墟ノ中に入ってくるのが見えた。
「いよいよか? 」
「邪魔が入ったけど、なんとかなりそうね。」
「鵞利場、怪我は無いか? 」
「アンタに心配される筋合いなんてないわよ。」
「俺が心配しているのは、世界の命運の方だよ。」
「なっ!! 」
彼女は顔を真っ赤にすると、俺を弾き飛ばした。
視界が反転し、地面に減り込む。
「それより、俺の心配してもらっても良いですか? 」
「アンタなんて知らん。異世界人に殺されてしまえ!! 」
そうこうやっているうちに、一台のバンが、建物からソロソロと出てきた。
俺たちは持ち場に着くと、バンの動向を見守りながら、周囲で怪しい人物がいないかを監視する。
幸い、周りの光景は「いつもの」物であった。
さっき一悶着あったというのに、もう社会は元通りだ。
無能力者は道端の手錠持ちを痛ぶることに夢中になっているし、男は快楽ボックスにのめり込んでいる。
正直、こんな姿を彼らには見せなく無かった。
カーテン越しに、彼らの顔が覗く。
案の定だ。
どこかの王族らしき女が、目を見開き、口を押さえながら、じっと能力者が痛ぶられているのを見ている。
「カーテンは閉め切っておくべきだったわよね。宜野座さんは何をしているのかしら? 」
「多分、宜野座さんも俺たちの世界を、異世界の人間が見てどう思うか知りたかったんだと思う。」
だが、宜野座さんで本当に良かった。これが、公安の他の人間であるならば、カーテンで隠すどころか、大っぴらにしていただろう。
そして彼は、異世界人にこういうのだ。
「どうですか平和と秩序が守られた我々の世界は、絵に描いたようなユートピアでしょ? 」と。
考えただけでも吐き気がして来た。
恐らく彼らもそうするだろう。
運転手に殴り込む野郎も出てくるかもしれない。
護送車は無事、ホテルへと着いた。
鵞利場によれば五つ星? だったっけな。とても有名なホテルらしい。
俺たちはというと、向かいビジネスホテルに入り、道路を挟んで反対側から、何か異常が無いかを探る。
鵞利場は窓際に椅子を運び、腰掛けると、首を傾げた。
「夕飯は先に適当に取って来なさいよ。終わったら交代ね。ノックは二回に分けて計五回、最初に三回、後に二回ね。」
「鵞利場の分も買ってくるよ。」
「そう、それじゃあ、お言葉に甘えようかしら。北条のセンス、期待しているわよ。」
「おう、まかしとけ。」
と言って俺は部屋を出ると、ビジネスホテルを後にした。
手錠の検索機能を使い、近くに美味しいケバブの店があるらしい。
俺はそこでケバブ二つと、肉の串焼きを何本か買い漁ってから、ホテルに戻った。
最初にノックを三回。
それからノックを二回。
「ガチャ。」
俺が部屋に入ると、神速の刃が俺の喉笛に突きつけられる。
「ちょっ、何の真似ですか上司様? 」
「ドアを開けるという行為はそれだけリスクが伴うってこと。分かった? 」
俺を先に行かせたということは、そういうことか。
「貴方、危なっかしいもんね。刺客に刺されても知らないわよ。」
「はいはい気をつけますよぉ~っと。」
それから彼女に串焼きをいくつか、ケバブを一つ放り投げる。
彼女はそれを見事にキャッチすると、モチモチハムスターのように頬張り始めた。
「うん! おいしぃ。」
「でも見て、手が汚れてしまったわ。」
「全く、こんなの片手にトランプしようとしていたなんて、カードが汚れちゃうじゃ無い。」
「それ、サンドウィッチじゃね? 」
そういうと彼女はむすっとした。
「良いじゃない。サンドウィッチもハンバーガーもケバブも変わらないわよ。肉と野菜をパンズで挟んだだけじゃ無い。」
世界中の美食家から喝が飛んできそうな言葉だ。
「明日は勝てそう? 」
「ああ、絶対に勝つ。」
迷いのない解答。しかし、俺の迷いは別の場所にあった。
「もし俺たちが勝ったら…… 」
「分かっているわよ。うまく取り繕ってあげる。異世界人と仲良くしたいんでしょ。」
「すまない。」
俺たちは向かいのホテルを見た。
まだ二十時なので、ホテルの明かりは消えていない。
「彼らも俺たちと同じ気持ちなのかな? 手で探って、俺たちを恐れて。敵になる存在であるなら…… 」
「そんなこと分からないわよ。ただ一つ言えることは、彼らは聡明な人たちであるってことだけ。」
「半ば強引に人をさらっても、彼らが顔を真っ赤にして、こちらに攻めてくることは無かった。」
そうだ。俺もそれを危惧していた。
だからあの時二人に反対した。
でもその心配もなかった。
雰囲気を見る限り、彼らはとても落ち着いていたからだ。
それも怖いぐらいに。
心を乱してはならない。
そうだ。俺たちは明日、世界の命運を担うのだから。
「おーい。交代の時間だ。開けてくれ。」
昼間会った、犯罪課の上司の声がする。
俺は壁に張り付くと、内鍵を開け、ゆっくりとドアを開ける。
「オイオイ、そんなに警戒しなさんな。」
彼は和やかな笑顔を浮かべると、部屋に入ってきた。
「北条、昼間はありがとな。もう今日は休め、明日は決戦だろ? 」
「いえ、こちらこそ、後はお願いします。」
俺たちは彼らに挨拶をすると、ホテルを後にした。
「いよいよか? 」
「邪魔が入ったけど、なんとかなりそうね。」
「鵞利場、怪我は無いか? 」
「アンタに心配される筋合いなんてないわよ。」
「俺が心配しているのは、世界の命運の方だよ。」
「なっ!! 」
彼女は顔を真っ赤にすると、俺を弾き飛ばした。
視界が反転し、地面に減り込む。
「それより、俺の心配してもらっても良いですか? 」
「アンタなんて知らん。異世界人に殺されてしまえ!! 」
そうこうやっているうちに、一台のバンが、建物からソロソロと出てきた。
俺たちは持ち場に着くと、バンの動向を見守りながら、周囲で怪しい人物がいないかを監視する。
幸い、周りの光景は「いつもの」物であった。
さっき一悶着あったというのに、もう社会は元通りだ。
無能力者は道端の手錠持ちを痛ぶることに夢中になっているし、男は快楽ボックスにのめり込んでいる。
正直、こんな姿を彼らには見せなく無かった。
カーテン越しに、彼らの顔が覗く。
案の定だ。
どこかの王族らしき女が、目を見開き、口を押さえながら、じっと能力者が痛ぶられているのを見ている。
「カーテンは閉め切っておくべきだったわよね。宜野座さんは何をしているのかしら? 」
「多分、宜野座さんも俺たちの世界を、異世界の人間が見てどう思うか知りたかったんだと思う。」
だが、宜野座さんで本当に良かった。これが、公安の他の人間であるならば、カーテンで隠すどころか、大っぴらにしていただろう。
そして彼は、異世界人にこういうのだ。
「どうですか平和と秩序が守られた我々の世界は、絵に描いたようなユートピアでしょ? 」と。
考えただけでも吐き気がして来た。
恐らく彼らもそうするだろう。
運転手に殴り込む野郎も出てくるかもしれない。
護送車は無事、ホテルへと着いた。
鵞利場によれば五つ星? だったっけな。とても有名なホテルらしい。
俺たちはというと、向かいビジネスホテルに入り、道路を挟んで反対側から、何か異常が無いかを探る。
鵞利場は窓際に椅子を運び、腰掛けると、首を傾げた。
「夕飯は先に適当に取って来なさいよ。終わったら交代ね。ノックは二回に分けて計五回、最初に三回、後に二回ね。」
「鵞利場の分も買ってくるよ。」
「そう、それじゃあ、お言葉に甘えようかしら。北条のセンス、期待しているわよ。」
「おう、まかしとけ。」
と言って俺は部屋を出ると、ビジネスホテルを後にした。
手錠の検索機能を使い、近くに美味しいケバブの店があるらしい。
俺はそこでケバブ二つと、肉の串焼きを何本か買い漁ってから、ホテルに戻った。
最初にノックを三回。
それからノックを二回。
「ガチャ。」
俺が部屋に入ると、神速の刃が俺の喉笛に突きつけられる。
「ちょっ、何の真似ですか上司様? 」
「ドアを開けるという行為はそれだけリスクが伴うってこと。分かった? 」
俺を先に行かせたということは、そういうことか。
「貴方、危なっかしいもんね。刺客に刺されても知らないわよ。」
「はいはい気をつけますよぉ~っと。」
それから彼女に串焼きをいくつか、ケバブを一つ放り投げる。
彼女はそれを見事にキャッチすると、モチモチハムスターのように頬張り始めた。
「うん! おいしぃ。」
「でも見て、手が汚れてしまったわ。」
「全く、こんなの片手にトランプしようとしていたなんて、カードが汚れちゃうじゃ無い。」
「それ、サンドウィッチじゃね? 」
そういうと彼女はむすっとした。
「良いじゃない。サンドウィッチもハンバーガーもケバブも変わらないわよ。肉と野菜をパンズで挟んだだけじゃ無い。」
世界中の美食家から喝が飛んできそうな言葉だ。
「明日は勝てそう? 」
「ああ、絶対に勝つ。」
迷いのない解答。しかし、俺の迷いは別の場所にあった。
「もし俺たちが勝ったら…… 」
「分かっているわよ。うまく取り繕ってあげる。異世界人と仲良くしたいんでしょ。」
「すまない。」
俺たちは向かいのホテルを見た。
まだ二十時なので、ホテルの明かりは消えていない。
「彼らも俺たちと同じ気持ちなのかな? 手で探って、俺たちを恐れて。敵になる存在であるなら…… 」
「そんなこと分からないわよ。ただ一つ言えることは、彼らは聡明な人たちであるってことだけ。」
「半ば強引に人をさらっても、彼らが顔を真っ赤にして、こちらに攻めてくることは無かった。」
そうだ。俺もそれを危惧していた。
だからあの時二人に反対した。
でもその心配もなかった。
雰囲気を見る限り、彼らはとても落ち着いていたからだ。
それも怖いぐらいに。
心を乱してはならない。
そうだ。俺たちは明日、世界の命運を担うのだから。
「おーい。交代の時間だ。開けてくれ。」
昼間会った、犯罪課の上司の声がする。
俺は壁に張り付くと、内鍵を開け、ゆっくりとドアを開ける。
「オイオイ、そんなに警戒しなさんな。」
彼は和やかな笑顔を浮かべると、部屋に入ってきた。
「北条、昼間はありがとな。もう今日は休め、明日は決戦だろ? 」
「いえ、こちらこそ、後はお願いします。」
俺たちは彼らに挨拶をすると、ホテルを後にした。
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