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ファイル:1 リべレイター・リベリオン
再会
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「蝠岡……アンタは俺たちのために。」
彼は蚊を払うような手振りを見せた。
「科学者に『誰かのため』なんていう情緒的な行動原理は存在しないさ。」
「知的好奇心。」
「結果的に私は彼らを生み出してしまった。」
俺はその含みのある言葉が引っかかった。
「生み出してしまった? 」
「ああ、最初のプロジェクトはね。能力者と無能力者は自然状態で共存出来るかというものだった。」
俺は自分を縛る、世界を均等に隔てるために存在する鎖を見た。
「私はね、私利私欲のために、関係ない命に悲劇を与え、苦しませ、虐げてきた悪い人間なんだよ。」
俺は首を振って否定した。
そんなことは無い、そんなはずはないんだ。
「アンタは世界を変えた。この平等で不平等な世界を。アンタのやり方で。」
「結果、こんなカビ臭いところに閉じ込められてしまったがな。」
「それより。」
俺はそれより気になることがあった。
今、スクリーンで演説をしている彼についてだ。
「アレは? アンタが喋っているのか? 」
彼はニタニタしながら答えた。
「そうだ。アレは私だ。正確には三年ほど前の私。」
つまり彼は、三年前から、この事態を正確に予測していたことになる。
「そんなことが、そんな能力が存在するのか、この世界に。」
「そんな非科学的な能力は存在しない。見えて二、三手ぐらい先の未来だよ。」
「君はバタフライ効果って知っているかな。未来は先に進めば進むほど、可能性は膨らみ、データは膨大になる。蝶の起こした風が、竜巻に変わる可能性だってあるんだ。」
「だがね。魔法なら、大兄弟助ならそれが可能だ。」
大兄弟助……俺は唾を飲んだ。
「会ったのか、奴に。」
「彼は囚われてなどいないよ。囚われてやっているんだ。自分が逃げると、追手が来て面倒だからね。だからこうやって僕に、能力の一部を分け与えたわけだ。」
そう言って彼は、両手で物質と反物質を作ってみせた。
「扱いが難しいんだよ。この能力はね。反物質っていうのは、周囲の物質を吸収してしまうから、当時は大事な書類などが吸い込まれてしまって、慌てたものだよ。」
「…っと。今、スクリーンに映っている三年前の私についてだったね。本題に戻そう。」
「未来決定」
「それが手品の種明かしだよ。」
「未来を固定してしまう。無数の可能性を絶ってしまう。危険な能力だ。」
「だけどね。賭けは成功した。私たちは未来に勝ったんだ。」
俺は生唾を飲んだ。
「もし、世界が悪い方に向かってしまったらどうしていたんだ? 」
「こんなに精力的では無かっただろうね。」
蝠岡は真っ直ぐ俺を見た。
「魔法は君にも……」
「いや、今の言葉は聞かなかったことにしてくれ。」
「俺はこれからどうすれば良い? 」
蝠岡は無言で首を振る。
「それは君が考えることだ。見ろ、平等社会人たちが、異世界へと足を踏み入れんとしている。私の創った世界、221へと。」
俺はそこで決心した。
「考えることにするよ。」
蝠岡は首を傾げた。
「俺は公安で働きながら考えることにするよ。平等社会について、それと異世界について。人間、考えることをやめたら終わりだ。」
そうすると、彼は急に笑い出した。
「いやいや、ごめん。哲学者みたいなことを言うんだね君は。」
「もう行くのか? 」
「うん。俺にはまだ時間が残されている。いつか、ここに来ることになるだろうけど、それは今じゃない。それまで考えるんだ。能力者と無能力者のあり方について。アンタがやってきたように。」
「そうか……」
「相棒が待ってる。俺はもう行くぜ。じゃあなバットマン。」
「さようならバットボーイ。君が答えに辿り着くまで。」
* * *
数日後、平等社会人が異世界に押し寄せるというトラブルも収束し、街にはいつものつまらない現実が帰ってきた。
今日も俺は公安の犯罪課に出社する。
能力者のあり方を探るために。
彼は蚊を払うような手振りを見せた。
「科学者に『誰かのため』なんていう情緒的な行動原理は存在しないさ。」
「知的好奇心。」
「結果的に私は彼らを生み出してしまった。」
俺はその含みのある言葉が引っかかった。
「生み出してしまった? 」
「ああ、最初のプロジェクトはね。能力者と無能力者は自然状態で共存出来るかというものだった。」
俺は自分を縛る、世界を均等に隔てるために存在する鎖を見た。
「私はね、私利私欲のために、関係ない命に悲劇を与え、苦しませ、虐げてきた悪い人間なんだよ。」
俺は首を振って否定した。
そんなことは無い、そんなはずはないんだ。
「アンタは世界を変えた。この平等で不平等な世界を。アンタのやり方で。」
「結果、こんなカビ臭いところに閉じ込められてしまったがな。」
「それより。」
俺はそれより気になることがあった。
今、スクリーンで演説をしている彼についてだ。
「アレは? アンタが喋っているのか? 」
彼はニタニタしながら答えた。
「そうだ。アレは私だ。正確には三年ほど前の私。」
つまり彼は、三年前から、この事態を正確に予測していたことになる。
「そんなことが、そんな能力が存在するのか、この世界に。」
「そんな非科学的な能力は存在しない。見えて二、三手ぐらい先の未来だよ。」
「君はバタフライ効果って知っているかな。未来は先に進めば進むほど、可能性は膨らみ、データは膨大になる。蝶の起こした風が、竜巻に変わる可能性だってあるんだ。」
「だがね。魔法なら、大兄弟助ならそれが可能だ。」
大兄弟助……俺は唾を飲んだ。
「会ったのか、奴に。」
「彼は囚われてなどいないよ。囚われてやっているんだ。自分が逃げると、追手が来て面倒だからね。だからこうやって僕に、能力の一部を分け与えたわけだ。」
そう言って彼は、両手で物質と反物質を作ってみせた。
「扱いが難しいんだよ。この能力はね。反物質っていうのは、周囲の物質を吸収してしまうから、当時は大事な書類などが吸い込まれてしまって、慌てたものだよ。」
「…っと。今、スクリーンに映っている三年前の私についてだったね。本題に戻そう。」
「未来決定」
「それが手品の種明かしだよ。」
「未来を固定してしまう。無数の可能性を絶ってしまう。危険な能力だ。」
「だけどね。賭けは成功した。私たちは未来に勝ったんだ。」
俺は生唾を飲んだ。
「もし、世界が悪い方に向かってしまったらどうしていたんだ? 」
「こんなに精力的では無かっただろうね。」
蝠岡は真っ直ぐ俺を見た。
「魔法は君にも……」
「いや、今の言葉は聞かなかったことにしてくれ。」
「俺はこれからどうすれば良い? 」
蝠岡は無言で首を振る。
「それは君が考えることだ。見ろ、平等社会人たちが、異世界へと足を踏み入れんとしている。私の創った世界、221へと。」
俺はそこで決心した。
「考えることにするよ。」
蝠岡は首を傾げた。
「俺は公安で働きながら考えることにするよ。平等社会について、それと異世界について。人間、考えることをやめたら終わりだ。」
そうすると、彼は急に笑い出した。
「いやいや、ごめん。哲学者みたいなことを言うんだね君は。」
「もう行くのか? 」
「うん。俺にはまだ時間が残されている。いつか、ここに来ることになるだろうけど、それは今じゃない。それまで考えるんだ。能力者と無能力者のあり方について。アンタがやってきたように。」
「そうか……」
「相棒が待ってる。俺はもう行くぜ。じゃあなバットマン。」
「さようならバットボーイ。君が答えに辿り着くまで。」
* * *
数日後、平等社会人が異世界に押し寄せるというトラブルも収束し、街にはいつものつまらない現実が帰ってきた。
今日も俺は公安の犯罪課に出社する。
能力者のあり方を探るために。
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