平等社会(ユートピア)

ぼっち・ちぇりー

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ファイル:5ネオ・リベリオン

宿敵

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石火セッカ】【鬼燕オニツバメ
 俺の右拳と彼の右拳が激突する。
「アンタが今、組織の棟梁としてすることは、政府に反抗することじゃ無い。」
 金川は歯軋りして、俺を弾き飛ばした。
「九条に言われた通りだ一族から逃げ、自分から逃げ、公僕に成り下がったお前には、俺たちの気持ちなんて何も分からない。」
 奴の拳は全て魔法で防いだ。
 だが、この魔法では慣性までに干渉することは出来ない。
 俺は宙をまい、無防備になる。
「九条はもうリベリオンに居な……」「黙れ!! 」
 俺の言葉を金川が遮る。
【双極星雲】
 二対の恒星が、俺の腹部にクリーンヒットする。
 そのままアジトの壁に叩きつけられる。
 奴の猛攻はまだ終わらない。
「来いよ北条。まだ俺を説得できるとか甘い考えでいるのか? 」
 俺は立ち上がると、廊下を走り出した。
 彼は窒素を圧縮すると、推進力で俺に追いついた。
 俺の頭を、掴み上げ、何度も何度も叩きつける。
「無駄だ金川お前の魔法じゃ俺には勝てない。」
 ジリ貧になるだけだ。
 だから彼は回りくどい方法で俺を捕まえた。
 彼の能力では、俺の防御を破ることはできない。
 壁が破壊されて、溜まったベクトルが、世界に修正力を働かせ、大きく吹き飛ぶ。
 数十もの壁を突き破った先で俺は再び宙を舞う。
 そこへ再び金川が詰めてくる。
貝独楽ベイゴマ
 脚を回転させて金川を蹴飛ばす。
 空間に隔立を創り、蹴り上げると、体勢を崩しながらぶっ飛んでいる彼へストレートを喰らわした。
穿石センセキ
 彼は目をひん剥くと、口から朝食のハムエッグとトーストを吐き出した。
「まだまだぁ。」
ロンドン橋堕ちた シャッキョウオトシ
 アジト五階のフローリングに彼を首根っこから叩きつけた。
 それと同時に左手で彼のポケットを探る。
 能力抑制剤の注射キッド一式を取り出すと、そのまま地下一階まで叩きつける。
 地下にアスベストが充満する。
 視界が奪われることを懸念した俺は、飛び上がると、砂煙の外に出る。
 金川の出方を伺う。
 摩天楼の錬金術師はこの程度でくたばるような相手では無い。
 粒子化して逃げるかも知れないし、反撃してくるかも知れない。
 どちらにせよたまったもんじゃ無いので、注射キッドの箱を開けると、注射器を素早く組み上げた。
 ピストンを押し出して、気泡が抜けたことを確かめる。
 視界が良好になり、マヌケにも伸びている金川があらわになる。
 俺はゆっくりと走り出して、彼の静脈に.……
「かかったな。」
 金川は「はっ。」と目を開けると両掌を合わせる。
 それと同時に「プシュ。」とガスが漏れるような音が、彼の身体から漏れ出した。
「吸い込んではいけない。」
 俺は外気をシャットアウトした。
「お前も人間だ。酸素が無くては長く続かないだろう。いくら俺と同じ魔法使いだって言ってもな。」
「へへっ確信していたぜ、注射キッドをくすねた時点でな。俺を無力化するつもりだったんだろ? 」
 してやられた。
 地下に誘い込むのも、俺を毒ガスで無力化するため。
 そのために地下一階まで叩きつけられ、気を失ったフリをしたのだ。
 タイムリミットは5分ほど。それが今、にある酸素の残量だ。
 ならば。
「おっと逃さねえぜ。」
「ぐぁっ。」
 一閃の光が、俺の肩を抜けて来たのを見た。
「俺が見えているってことは光が通るってことだ。」
「光が通るってことは、お前は全てを見ているということだ。」
 奴のレーザー光線を防ぐことは……できる。
 しかし、毒ガスの充填したこの空間で、それをすることは自殺行為だ。
 光線だけでは無い。
 その他諸々の攻撃を能力で防ごうとすると、薄くなった場所から俺の死が潜り込んでくることだろう。
 つまり。
「当たらなければどうってことねえよ。」
「強かってれんのも今のうちだぞ。」
 彼の人差し指から、再び光線が放たれる。
 今度は俺の右太腿を貫いた。
 光だ。
 人間の目では、それを追うことすらできない。
 俺がかろうじて認識できるのは、攻撃の痕跡のみ。
「このままゆっくり追い詰めてやる。」
 退路も絶たれ、戦況は長引けば長引くほど俺が不利になる。
 さっきの構図とは逆だ。
 現状を打破する方法。
 それは一つしかない。
「一気に削り切る!! 」
 息を整えて、黄昏の錬金術師様の懐に入り込む。
「そうくることはァァァァァァ分かってんだよなァ。」
 奴の顔が勝利を確信する。
 醜く歪んだ顔は驚きに変わり、やがて憎悪へと変化した。
 オレの頬を奴の光が掠る。
 オレは攻撃を見切り、身体を大きく捻った。
 体勢を崩し、両手を地面につく。
 脚を慣性に逆らって引きつける。
滑昇風カッショウフウ
 ばね仕掛けのように弾き返した。
「ガッ。」
 踵が突き上がり、爪先が金川の顎をしっかり捉える。
 いくら魔法使いとは言え、脳震盪に抗うことなど出来ないはずだ。
 リスク承知で突っ込んだ。
 そうでもしないと、彼は自分の身体を分子化して、別の場所に逃げてしまう。
 金川の指先が再び光を帯び始めた。
 俺は気にせずに今度は、鳩尾へとストレートを放った。
穿石センセキ
 金川の光エネルギーは暴発し、天井を抉った。
 割れた箇所から天蓋が除き、新鮮な空気が地下に入り始める。
 奴はしばらく能力が使えなくなっているはずだ。
 繊細な魔法を、心臓と脳をがやられた状態で発動できるはずがない。
 下手をすれば自滅する。
 俺はここぞとばかりに畳み掛けた。
石火セッカ
岩砕イワクダキ
石嵐セキラン
天岩烈破ッテンガンレッパ
「流星ストッ……」
 目の前に
 まだ手に感覚が残っている。
 脳が俺に零ノ岩を使わせようと、電気信号を送っている。
 だが、右腕は肩から削ぎ落とされており、その信号が、今落ちている右腕に届くことはなかった。
 俺は事態を冷静に分析すると、バックテップで、金川から離れる。
「遅かったじゃないかアッシー。」
「ふふふ、大口叩いてた割には苦戦してるじゃあないか。」
 俺を斬りさいたモノ。
 それは何かすぐ分かった。
 五体の女の人形。
 それに見覚えのある細いケーブルが、男の指へと繋がれている。
「ダッチワイフなんか連れて歩いて、そういう趣味でもあんのかテメェは。」
「その状態でよくそんな言葉が吐けるねぇ。」
 間違いない。
 このアッシーと言う男はリングィストと同じ技術で、五体の人形を操り、俺を攻撃して来たのだ。
 そのうちの一人の女のナタが真紅に染まっている。
 毒ガスに気を取られ、手薄になったところをやられた。
 だが、こんなガラクタ、足が二本あれば十分だ。
「私は君たちの戦闘データをとって、適当に逃げるつもりだったんだけど。」
「パトロンがこんなふうになってしまった今、私のプロジェクトの存続も危うくなってしまったわけさ。」
 毒ガスが引いてきている。
 アッシーと言う名の科学者はガスマスクを付け直すと、彼女たちに命令した。
「斬り裂け!!私のフィナンセたちよ!! 」
 彼女たちは、彼の指先のように、しなやかに動き始めた。
 攻撃は受け止めるのではなく、出来るだけかわす。
 一人目の攻撃を左に交わし、次の上段斬り下ろしを避けるために、バックステップする。
 危うく、体勢を崩しそうになった。
 腕が無くなったことで、バランス感覚が失われている。
 思った以上に厳しい戦いになりそうだ。
 後ろから鋒を向けられているのは分かっている。
 コレは受け止めるしか無いので、能力を背中に集中させる。
「ガガッ。」
 鈍い音と共に、能力が彼女の刃を弾いた。
「流石だ素晴らしい。」
 彼はさらに興奮したようで、彼女たちの太刀筋も早くなっていく。
 彼女たちの猛攻を避ける中で、ついに、俺の頬へと傷がついた。
「君の弱点は、意識しないと攻撃を防げないところ。それに君のクセもさっきの戦闘も兼ねてもう見切った。」
「それに君は両腕がない。」
 頭がくらりと揺れる。
 血を出しすぎたせいか?
 いや、それだけではなかった。
「武器に毒を。」
「おおっと、卑怯とは言わせないよ。君みたいな化け物と戦っているんだ。科学者なら合理的に振る舞わないとね。」
 人形たちが歪み始める。
 世界がコーヒに浮かべたミルクのように崩れ始めた。
「俺はここで死ぬのか……」
 虚ろになっていく意識の中で、俺は小子を思い浮かべた。
 俺が死んでも、アイツはやっていけるかな。
 まぁあの鵞利場だ。どうにでもなるだろう。
「諦めないで下さいまし。」
 なんだよ『下さいまし』って。
 そんな口調をする人間など、知り合いに一人しかいなかった。
「ロバ……ス? 」
 彼女は腕からポイズンリムーバーらしきモノを取り出すと、それで毒を吸い上げた。
 それから注射キッドを取り出して、俺の静脈に撃ち込む。
 ロバスは一仕事終えると、アッシーたちに向かっていった。
 支えを失った俺はマーリンに抱き抱えられる。
「久しぶり、北条さん。今度はが君を助ける番だ。」
 そういうと、彼はアタッシュケースから二本の義手を取り出した。
 


 

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