上 下
4 / 35

3話 【今年こそ】

しおりを挟む
月曜日の放課後。

8月の上旬に

コンクールの地区予選を控えた私たち吹奏楽部は

この時期になると

いつも以上に合奏の回数を重ねる。

入学したばかりの去年に比べると

体力的にまだ余裕はある。

でも技術面はまだまだ。

規則的に刻まれるメトロノームの音と

外で元気に鳴くセミの鳴き声とが混ざり合って

私の体感温度を少し上げた。

~~~

「アオイちゃん、お疲れ様。」

今日の合奏を終えて

楽器の後片付けをしていると

チエ先輩が声をかけてきた。

「チエ先輩、お疲れ様です。」

「アオイちゃん、音の切り方が雑だよ。」

「はあ……」

「もっとお腹を使うことを意識して。」

チエ先輩は少しイライラしてた。

「わかりました。 すみません。」

わかってる。

チエ先輩たち三年生にとっては

中学生活最後のコンクール。

大好きな三年生のために

今年こそは金賞をとるんだ。

私ももっと頑張らないと。


その時、ものすごい怒鳴り声が

私たちのいるフロアに響いた。

「水野! またタイムが落ちてるじゃないか! やる気あんのかお前!?」

この声は

水泳部顧問の木戸先生だ。

そうそう、プールが屋上にあって

私たち吹奏楽部が使う音楽室はすぐ下の階にあるの。


私はすぐにわかった。

怒られてるのは 

同じクラスの水野ケンタだ。

小学生の頃からずっと水泳をしていたケンタは

入学したての去年、

全国大会に出場したすごい選手。

そんなすごい選手も

怒られる時は怒られるんだ。


ケンタ、お互い頑張ろうね。


私は心の中で呟いた。
しおりを挟む

処理中です...