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8話 【空回る気持ち】

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「別にいいのに……」

「ダメ! バイ菌入ったら大変でしょ?」

「……サンキューな。」

ケンタは相変わらず無愛想な態度だったけど、きちんとお礼を言ってくれた。

「こちらこそ、ありがとう。」

私もお礼を言うとケンタは少し照れくさそうな表情を浮かべた。

「別にお前のためとかじゃねぇし…」

私は知っているよ。

ケンタは今はこんな態度とってるけど

根っこは昔と変わらない

すごく優しい男の子だってこと。

~~~

放課後の練習を終えた私は

自転車を押して

家に続く坂道を登っていた。

疲れた。

今日の合奏もうまくいかなかった。

気持ちだけが空回りして

思うように演奏できないの。

その時、

「アオイ!」

お母さんだ。

私は振り返った。

「お母さん。 お仕事お疲れ様。」

物静かなお父さんとは対照的に

お母さんは元気イッパイで明るい感じ。

「お母さん、晩ご飯作ったら練習行くからちゃんと宿題しとくんだよ!」

お母さんはよさこい歴30年の大ベテラン。

私とお父さんの分の晩ご飯を作るとすぐによさこいの練習に行くの。

お仕事で疲れてるはずなのに 

タフだなぁ。

本当にスゴイ。

「今日の宿題ダルいんだよねぇ~…」

私はため息をついた。

「……さては部活があんまうまくいってないな?」

えっ?

「なんでわかんの?」

そしたらお母さんはクスッと笑った。


「そりゃあ…… 私はアオイのお母さんだからね。」
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