二重NTR‐TRAP

下垣

文字の大きさ
15 / 37

第15話 別れ話

「佐倉さん。大事な話があるんだ」

 学校近くのファミレスにて、郁人は希子を呼び出していた。希子は完全にデートの気分で浮かれているけれど、郁人の表情は曇っていた。

「郁人君。話ってなに?」

 自分がフラれることになるとは夢にも思わない希子はのんきなことに返事をした。郁人はこれからフる相手への罪悪感を覚えながら「ふー」とため息をついて話を切り出す。

「ごめん。僕と別れて欲しいんだ」

 希子の時間が止まった。

 希子は郁人の言葉の意味を理解できずに、音だけを頭の中で何度も反芻はんすうした。

 ようやく、郁人の発した言葉の意味を理解した時には、希子の顔が赤く染まり、バンとテーブルを両手で叩いていた。

「ちょ、ちょっと。どういうこと? なんで、いきなり別れるなんて話になるわけ?」

 希子は周りにも聞こえるくらいな大声で郁人に詰め寄った。

 周囲の視線が郁人たちのテーブルに向けられる。郁人はバツが悪そうな顔で希子をなだめようとする。

「落ち着いて。ここはみんなが見ているから」

 希子は郁人に言われてとりあえず座り直して落ち着くことにした。持ってきたドリンクバーのレモンスカッシュを一口飲んで話を続ける。

「理由を教えてよ。じゃないとわたしも納得できない」

 希子と郁人はきちんと恋人関係にある。希子がその理由を知りたいのは正当な権利である。

「佐倉さん。君が僕に告白してきた時のことを覚えている? あの時……佐倉さんは他に付き合っている人がいたんだよね?」

 ここで希子の顔が赤から青へと変わった。バレてないと思っていたことであるが、郁人に仁志と付き合っていたことがバレてしまっていた。

「な、なんで! そんなこと。風見君は関係ないじゃない」

「関係ないことないよ。だって、彼は僕の友達だから」

 郁人は静かに答える。希子はわなわなと震えていた。

「だって、そんな……わたしだって。郁人君と付き合える保証がないのに、彼氏と別れるなんてできなかったよ」

「どうして? だって、僕に告白してきたってことは、もう風見君に気がないってことだよね。仮に僕にフラレたとしたら、風見君と交際を続けていたの?」

「そうだよ! 悪い? 別に風見君のことを嫌いになったわけじゃないし、キープしておくことの何がいけないの?」

 希子は悪びれずに答えた。

「それに郁人君と付き合えてからは、風見君とはきちんと別れた。そこのけじめはちゃんと付けたつもりだよ!」

 希子は鼻息を荒げながら郁人に自分の言い分をぶつける。しかし、どれだけ希子の言い分を聞いたところで郁人の心は揺らぐことはなかった。

「でも、佐倉さんは他に彼氏がいるのに僕を誘ったってことだよね。正直言って僕は悲しいよ。彼氏がいる女の子と一緒にデートだなんてしたくなかった。なんで僕が知らない内に浮気の片棒を担がされなきゃならないの」

 郁人だって仁志のことを傷つけるつもりはなかった。付き合っている間柄の人間の関係をぶち壊す。そんなこと郁人が望んだ生き方ではない。

「そんなの……気づかなかった郁人君にも非はあるじゃないの! 郁人君はわたしに恋人がいるかどうか訊いたの? 訊いてないでしょ!」

「まさか僕をデートに誘ってくる女の子が彼氏持ちだなんて思うわけないじゃないか。それに、訊いたところで正直に答えたの?」

「答えたよ」

 希子は食い気味に答える。しかし、郁人はため息をついた。

「また嘘をつくの? 後からでならなんとでも言えるよね?」

 今後に及んでまだ保身に走ろうとして、誠意を見せる気がない希子に郁人は辟易としていた。

「佐倉さん。僕はさっきからずっと待っていたんだよ」

「……?」

「佐倉さんが謝ってくれるのを。でも、佐倉さんの口から出るのは謝罪じゃなかった。言い訳ばかり。本当に自分が悪いなんて思ってないんだね」

「だ、だって! わたしは悪くない! 付き合っている彼氏がいるのに、他の男の子に乗り換えようとするなんてみんなやっていることじゃない!」

 自分は悪くないと思っているからこそ、希子は謝罪をするなんて発想はなかった。ただ単に自分は安全策を踏んでいただけ。なのにどうして責められるのか希子には全く理解できなかった。

「それが悪いと思ってないならどうして隠していたの? 告白する時に、わたし彼氏がいるけどって付け加えてくれたら良かったよね? 悪いと思ってないならできるでしょ?」

「じゃあ、それ言ったら付き合ってくれたの?」

「付き合わないよ!」

「ほら!」

 希子が鬼の首を取ったかのように郁人を指さした。しかし、郁人は冷静だった。

「どっちにしろ無理だよ。付き合っている恋人との関係も清算せずに他の人に告白するなんて……それを悪いと思ってない時点で、君と僕とでは価値観が合わない。そんな相手と一緒にいてもお互い辛くなるだけだよ」

「わかった。そこは直すから! 郁人君が悪いと思っているところは全部直すから、別れないで!」

 希子は必死に郁人にすがりついた。ここで希子はあることを思い出した。

「あ、そうだ! 最後にチャンスをちょうだい。期間は郁人君が他の女の子を好きになるまで! ね? だって、郁人君は他に好きな女の子はいないんでしょ?」

 希子は往生際が悪く交渉しようとする。

「それまでの間でいいから別れないで。その間にわたしはあなたに相応しい女になるから!」

「…………ごめん。そのチャンスも使えないよ。諦めて欲しい」

「え? どういうこと? 他に好きな女の子いないんじゃないの?」

 希子は混乱した。もしかしたら、この短期間で郁人に他に好きな女の子ができたのではないかと勘繰る。

「もしかして、郁人君! 他に好きな女の子ができたから、わたしをフるつもりでいるの?」

「さあ、どうだろうね」

「……もうわかった。信じらんない。別れよう」

 希子も希子で郁人に愛想が尽きてしまった。正直に他に好きな女の子がいると答えてくれたら、最初から素直に身を引くことだってできたかもしれない。

 でも、過去のできごとを掘り返されてそこを責めるようなやり方に希子も郁人に対して冷めていた。

 希子は素早くスマホを取り出した。

「どこに連絡しようとしているの?」

「別れたあなたに言う必要はないでしょ?」

 希子は仁志に電話をした。仁志と寄りを戻そうとしていた。仁志が他の女の子と歩いているところを目撃した。
 
 もしかしたら、もう付き合っているかもしれない。でも、まだ付き合っていない段階であることに賭けようとした。

「もしもし、風見君。ちょっと良いかな?」

「なんだ? 希子」

「あのさ……突然で悪いんだけどわたしたち寄りを戻さない?」

「ごめん。それはできない。俺はもう好きな子がいるんだ」

 希子は一瞬黙った。でも、これはまだ想定内の話であった。

「……もしかして、この前一緒にデートしていた子?」

「見ていたのか!?」

 仁志は希子に、さなえとデートしていたところを目撃されていて焦った。もしかして、さなえの正体が郁人だってバレているのかもしれないと。

「あの女の子と付き合っているの?」

「いや、まだ付き合っているとかそういう関係ではない」

「だったら、良いじゃない。付き合えるかどうかわからない相手よりも、確実に付き合える元カノの方が」

 希子はここで追い打ちをかけようとする。

「この前、アレを買ったでしょ? アレ、まだ使ってないんだ。ねえ。一緒に使ってみない?」

 希子は仁志をベッドに誘おうとする。年頃の男子ならばこれで確実に釣れる。そういう算段であった。しかし……

「悪い。それは他のやつと使ってくれ。俺はもうお前に未練はないんだ」

「え……」

「じゃあな」

 ぷつっと電話が切れる。希子はスマホをしまい、席を立った。

「帰る」

 それだけ言うと希子は店を出ていった。取り残された郁人は伝票を見てため息をついた。

「自分の分のお金払ってから帰ってよ……」
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

【短編集】こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。