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第23話 浴衣の着付け
バイト終わりの仁志は自転車を走らせて郁人の自宅へと向かう。
バイト中は女装して外出することを考えると憂鬱だったものの、郁人と会える時が近づいてくると、それはそれで嬉しいものである。
早く郁人に会いたいという一心で安全運転しつつも仁志は自転車を漕ぐ。
「ついに来てしまったか……」
仁志は夏の酷暑で汗をかきながらも郁人の家へとたどり着いた。インターホンを押すと郁人が出てくる。
「風見君。待っていたよ。さあ、入って」
一足先にバイトを終えて帰宅していた郁人は上機嫌な様子で仁志を出迎えた。これから仁志をかわいく変身させるということで、郁人もテンションが上がっているのだ。
そんなルンルン気分の郁人を見て仁志は複雑な気持ちになった。
「なあ、飯塚。お前結局のところ、やっぱり女子が好きなのか?」
「え? どういうこと?」
「いや、その……だってさ。俺を女装させようってことは、やっぱり女子の方が好きだから、そういう姿にしようとしているのかもしれないって思ってな」
もし、郁人が女子の方が好きなら仁志としても無理をして自分と付き合う必要はないと思っている。
やはり、その場合は郁人も女子と付き合った方が幸せになれるかもしれないと言う1歩引いた考えを持ってしまう。
「僕はかわいいものが好きなんだ。別にそれが女子である必要はないよ」
郁人が生意気そうに笑うと仁志も肩を落とす。
「俺はかわいい判定かよ」
「まあ、かわいいものが好きなのとは別にかっこいいものも好きかな。どっちの風見君かいいか選べって言われても無理だよ」
郁人は少し頬を紅潮させながら仁志から視線を反らした。仁志も思わず顔の一部を手で隠してしまう。
「なんだよそれ欲張りかよ」
「じゃあ、風見君はさ。どっちか選べるの」
「それは迷うことなくかわいいさなえちゃん一択だろ」
仁志は1+1=2を答えるがごとくスピードで即答する。
「そこは少しは迷ってよ。女装してない時の僕も愛して」
郁人は切実な願いを仁志にぶつける。仁志はそれを鼻で笑ってから続ける。
「まあ、どっちがより好きかって話だ。別に女装してない飯塚を好きじゃないなんて言ってないだろ」
まるで当然のように言ってのける仁志に郁人は顔を更に赤らめた。
「ま、まあ。そういうことなら良いけど」
そんな会話をしつつ、二人は郁人の部屋へと向かった。
「それじゃあ、先にメイクしていくよ」
「わかった」
「うーん。そうだね。メイクの前に1回服脱いでみようか。上半身だけでいいから」
「あ、ああ。そうだな」
仁志は上半身の服を脱いで半裸になる。その後、郁人が用意した椅子に座る。メイクも2回目ということで、仁志もそれはすんなりと受け入れた。
ここで意地を張っていても仕方ない。郁人がぱふぱふと仁志にメイクを施していく。
「ふふ。風見君。どんどんかわいくなるね」
「なんだよそれ」
「褒めてるんだよ」
「別に褒められてもなあ」
仁志はかわいいと言われて喜んではいけないと心の中で強く思った。ここの芯だけは絶対にブレてはいけないと決めている。
もし、ここがブレてしまったら、自分は本格的に女装にハマってしまうかもしれないという予感があった。
「ほら、次はウィッグを被せるよ」
ここまでは仁志も2回目なので別に抵抗はなかった。ダークブラウンの髪色で髪もそこそこ長い。大人っぽい感じのカラーリングで仁志はどんどん変身していく。
「このウィッグの髪型を変えるね」
郁人は仁志のウィッグを結っていく。髪型のアレンジもかなり手慣れていて、仁志はあっという間に首から上が大人っぽい女性に見えるようになる。
「かなり手慣れてんだな」
「まあね。自分の髪型いじるのに比べたら他人のは少し楽かな」
郁人が日常的に女装していることもあってか、仁志はあっという間に変身させられてしまう。
「ほら、これ。自分の姿を見て」
郁人は鏡を仁志に渡す。仁志は自分の姿を見て、つい目を伏せてしまう。
「こ、この格好で外に出るのかよ。知り合いに……バ、バレたらどうするんだよ」
「大丈夫。そう簡単にバレやしないって。だって、風見君。全然印象違うもん」
「俺はさなえちゃんが飯塚だってすぐに気付いたぞ」
その経験があるからこそ、仁志は女装がバレるかどうかひやひやしてしまうのである。
「あれは僕が墓穴を掘ったからね。別に詰められてもごまかせばいけるでしょ?」
「そ、そんなもんかよ。それに俺は女声は出せねえぞ。声でバレるかもしれないだろ」
「大丈夫。その時は僕がなんとかごまかすよ。風見君は黙っているだけでいいから」
郁人の少し甘い目論見に仁志も不安な気持ちが募ってくる。その不安は気持ちはドキドキ感にもなり、女装している現状と相まってか胸がどこか高鳴ってしまう。
「ほら、次は浴衣の着付けをするよ。立ってね」
「あ、ああ」
仁志は立ち上がる。そして、郁人がタオルと浴衣スリップを手にして仁志の体をまじまじと見る。
「とりあえずズボンも脱いで。体系をしっかりと見るから。うーん。これはタオルをちょっと詰めてから浴衣スリップを着て調整しようか」
郁人が仁志に着付けをしていく。仁志は郁人の成すがままに着付けをされていった。
抵抗がないと言えば嘘になる。前回の女装の時とは違って、今回は和装であり初めての経験である。
ただでさえまだ慣れてない女装で浴衣はかなりハードルが高かった。
「よし、それじゃあ、この浴衣を着ようか」
郁人が用意したのはオーバーサイズの紺色の浴衣だ。少しセクシーな感じのデザインで大人な感じが際立つ。
「これを俺が着るのか」
「まあね。自分じゃ着るのは難しいと思うから僕がやってあげるよ」
「着付けとかできるのか?」
「大丈夫。動画で見て勉強したから」
この情報社会を生き抜く若者の行動。動画を見て勉強をする。確かに昨今では広告費を稼ぐ目的で作られたしょうもない釣りサムネや対立煽りの動画がある一方で、勉強になる、ためになる動画もあるのである。
郁人は動画で得た知識を元に仁志に着付けを行っていく。
「本当に大丈夫か?」
「まあ、大丈夫でしょ」
郁人は動画の内容を思い出しながら丁寧にゆっくりと仁志に着付けをしていく。そのゆっくりとした動きが逆にもどかしくて、なんだか仁志がむずむずとしていく。
逆に自分の体が少しずつ弄られていくような感覚。このまま郁人に身を任せていたら自分が自分でなくなるかもしれない。
でも、一生懸命着付けをしてくれている郁人には抵抗できずに、仁志はなすがままになっていた。
「これで……帯を締めてっと……きつかったら言ってね」
郁人は仁志の帯を締める。ゆっくりと慎重に締め過ぎないように。
「どう? 変な感じはしない?」
「変な感じは最初からしている」
「ふふ。そうだね。帯は大丈夫?」
「大丈夫。きつくなない」
郁人はそれだけ確認すると最後に帯を留める。これで着付けが完成した。
「あはは。風見君かわいい」
「か、かわいくねーよ!」
「いやいや。自分の姿を鏡で見てみて」
郁人は部屋にある姿見を移動させて仁志の前に持っていった。
「う……これが俺か……」
そこにいたのは少し大人な雰囲気の女性だった。仁志はまだ高校生ではあるものの、雰囲気的には大学生以上に見える。
「ね。あえて大人っぽいメイクにしたんだ。高校生だと思われなければ、バレることもないでしょ?」
「あ、ああ。そうだな」
「ねえ。鏡の前で回って全身を確認したりしないの?」
「だ、誰がそんなことするか!」
そんなこと言いつつも本音では少ししてみたいと仁志は思ってしまう。
「大丈夫。ここでは僕以外誰も見てないから。1回だけやってみなよ」
「ま、まあ。飯塚がそこまで言うなら」
仁志は鏡の前で一回転してみた。ひらりと浴衣が舞い、なんだか新しい自分に気づけたような、自分の可能性が広がったような気がした。
「う、くそ……! 2度とやらねえ!」
仁志はこの動作をやると色々と危ないことを悟った。
バイト中は女装して外出することを考えると憂鬱だったものの、郁人と会える時が近づいてくると、それはそれで嬉しいものである。
早く郁人に会いたいという一心で安全運転しつつも仁志は自転車を漕ぐ。
「ついに来てしまったか……」
仁志は夏の酷暑で汗をかきながらも郁人の家へとたどり着いた。インターホンを押すと郁人が出てくる。
「風見君。待っていたよ。さあ、入って」
一足先にバイトを終えて帰宅していた郁人は上機嫌な様子で仁志を出迎えた。これから仁志をかわいく変身させるということで、郁人もテンションが上がっているのだ。
そんなルンルン気分の郁人を見て仁志は複雑な気持ちになった。
「なあ、飯塚。お前結局のところ、やっぱり女子が好きなのか?」
「え? どういうこと?」
「いや、その……だってさ。俺を女装させようってことは、やっぱり女子の方が好きだから、そういう姿にしようとしているのかもしれないって思ってな」
もし、郁人が女子の方が好きなら仁志としても無理をして自分と付き合う必要はないと思っている。
やはり、その場合は郁人も女子と付き合った方が幸せになれるかもしれないと言う1歩引いた考えを持ってしまう。
「僕はかわいいものが好きなんだ。別にそれが女子である必要はないよ」
郁人が生意気そうに笑うと仁志も肩を落とす。
「俺はかわいい判定かよ」
「まあ、かわいいものが好きなのとは別にかっこいいものも好きかな。どっちの風見君かいいか選べって言われても無理だよ」
郁人は少し頬を紅潮させながら仁志から視線を反らした。仁志も思わず顔の一部を手で隠してしまう。
「なんだよそれ欲張りかよ」
「じゃあ、風見君はさ。どっちか選べるの」
「それは迷うことなくかわいいさなえちゃん一択だろ」
仁志は1+1=2を答えるがごとくスピードで即答する。
「そこは少しは迷ってよ。女装してない時の僕も愛して」
郁人は切実な願いを仁志にぶつける。仁志はそれを鼻で笑ってから続ける。
「まあ、どっちがより好きかって話だ。別に女装してない飯塚を好きじゃないなんて言ってないだろ」
まるで当然のように言ってのける仁志に郁人は顔を更に赤らめた。
「ま、まあ。そういうことなら良いけど」
そんな会話をしつつ、二人は郁人の部屋へと向かった。
「それじゃあ、先にメイクしていくよ」
「わかった」
「うーん。そうだね。メイクの前に1回服脱いでみようか。上半身だけでいいから」
「あ、ああ。そうだな」
仁志は上半身の服を脱いで半裸になる。その後、郁人が用意した椅子に座る。メイクも2回目ということで、仁志もそれはすんなりと受け入れた。
ここで意地を張っていても仕方ない。郁人がぱふぱふと仁志にメイクを施していく。
「ふふ。風見君。どんどんかわいくなるね」
「なんだよそれ」
「褒めてるんだよ」
「別に褒められてもなあ」
仁志はかわいいと言われて喜んではいけないと心の中で強く思った。ここの芯だけは絶対にブレてはいけないと決めている。
もし、ここがブレてしまったら、自分は本格的に女装にハマってしまうかもしれないという予感があった。
「ほら、次はウィッグを被せるよ」
ここまでは仁志も2回目なので別に抵抗はなかった。ダークブラウンの髪色で髪もそこそこ長い。大人っぽい感じのカラーリングで仁志はどんどん変身していく。
「このウィッグの髪型を変えるね」
郁人は仁志のウィッグを結っていく。髪型のアレンジもかなり手慣れていて、仁志はあっという間に首から上が大人っぽい女性に見えるようになる。
「かなり手慣れてんだな」
「まあね。自分の髪型いじるのに比べたら他人のは少し楽かな」
郁人が日常的に女装していることもあってか、仁志はあっという間に変身させられてしまう。
「ほら、これ。自分の姿を見て」
郁人は鏡を仁志に渡す。仁志は自分の姿を見て、つい目を伏せてしまう。
「こ、この格好で外に出るのかよ。知り合いに……バ、バレたらどうするんだよ」
「大丈夫。そう簡単にバレやしないって。だって、風見君。全然印象違うもん」
「俺はさなえちゃんが飯塚だってすぐに気付いたぞ」
その経験があるからこそ、仁志は女装がバレるかどうかひやひやしてしまうのである。
「あれは僕が墓穴を掘ったからね。別に詰められてもごまかせばいけるでしょ?」
「そ、そんなもんかよ。それに俺は女声は出せねえぞ。声でバレるかもしれないだろ」
「大丈夫。その時は僕がなんとかごまかすよ。風見君は黙っているだけでいいから」
郁人の少し甘い目論見に仁志も不安な気持ちが募ってくる。その不安は気持ちはドキドキ感にもなり、女装している現状と相まってか胸がどこか高鳴ってしまう。
「ほら、次は浴衣の着付けをするよ。立ってね」
「あ、ああ」
仁志は立ち上がる。そして、郁人がタオルと浴衣スリップを手にして仁志の体をまじまじと見る。
「とりあえずズボンも脱いで。体系をしっかりと見るから。うーん。これはタオルをちょっと詰めてから浴衣スリップを着て調整しようか」
郁人が仁志に着付けをしていく。仁志は郁人の成すがままに着付けをされていった。
抵抗がないと言えば嘘になる。前回の女装の時とは違って、今回は和装であり初めての経験である。
ただでさえまだ慣れてない女装で浴衣はかなりハードルが高かった。
「よし、それじゃあ、この浴衣を着ようか」
郁人が用意したのはオーバーサイズの紺色の浴衣だ。少しセクシーな感じのデザインで大人な感じが際立つ。
「これを俺が着るのか」
「まあね。自分じゃ着るのは難しいと思うから僕がやってあげるよ」
「着付けとかできるのか?」
「大丈夫。動画で見て勉強したから」
この情報社会を生き抜く若者の行動。動画を見て勉強をする。確かに昨今では広告費を稼ぐ目的で作られたしょうもない釣りサムネや対立煽りの動画がある一方で、勉強になる、ためになる動画もあるのである。
郁人は動画で得た知識を元に仁志に着付けを行っていく。
「本当に大丈夫か?」
「まあ、大丈夫でしょ」
郁人は動画の内容を思い出しながら丁寧にゆっくりと仁志に着付けをしていく。そのゆっくりとした動きが逆にもどかしくて、なんだか仁志がむずむずとしていく。
逆に自分の体が少しずつ弄られていくような感覚。このまま郁人に身を任せていたら自分が自分でなくなるかもしれない。
でも、一生懸命着付けをしてくれている郁人には抵抗できずに、仁志はなすがままになっていた。
「これで……帯を締めてっと……きつかったら言ってね」
郁人は仁志の帯を締める。ゆっくりと慎重に締め過ぎないように。
「どう? 変な感じはしない?」
「変な感じは最初からしている」
「ふふ。そうだね。帯は大丈夫?」
「大丈夫。きつくなない」
郁人はそれだけ確認すると最後に帯を留める。これで着付けが完成した。
「あはは。風見君かわいい」
「か、かわいくねーよ!」
「いやいや。自分の姿を鏡で見てみて」
郁人は部屋にある姿見を移動させて仁志の前に持っていった。
「う……これが俺か……」
そこにいたのは少し大人な雰囲気の女性だった。仁志はまだ高校生ではあるものの、雰囲気的には大学生以上に見える。
「ね。あえて大人っぽいメイクにしたんだ。高校生だと思われなければ、バレることもないでしょ?」
「あ、ああ。そうだな」
「ねえ。鏡の前で回って全身を確認したりしないの?」
「だ、誰がそんなことするか!」
そんなこと言いつつも本音では少ししてみたいと仁志は思ってしまう。
「大丈夫。ここでは僕以外誰も見てないから。1回だけやってみなよ」
「ま、まあ。飯塚がそこまで言うなら」
仁志は鏡の前で一回転してみた。ひらりと浴衣が舞い、なんだか新しい自分に気づけたような、自分の可能性が広がったような気がした。
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