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第4話 同棲開始
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ここまでではっきりしたことは、俺は異世界転生に失敗して東京の佐々木公園にいるということ。そして、その責任を取らされ下界へ追放された女神様、セラフィーラさんと同棲することになったということだ。
まず最初に問題となるのは寝床である。当然、馴染みのない土地に転生した俺には頼る当てがない。それは追放されたセラフィーラさんも同じだ。
交番に、と思ったが、身分を証明する物が何もない。
そこで俺たちはこの公園を探索することにした。寝床とまではいかずとも、生活していく上で足掛かりになる物や情報を得られれば及第点だ。それこそ、人から話を聞ければ手っ取り早いのだが。
「私がお役に立てればよかったのですが、申し訳ございません」
「だから謝らないでくださいって、1人でいるより断然心強いんですから」
セラフィーラさんは先ほどから謝ってばかりだ。どうにかしてアイスブレイクしなくては。
「あの、セラフィーラさん」
「はい?」
「突然ですけど、セラフィーラさんの一番のご趣味って何ですか?」
「そうですね、人間観察が趣味です!」
セラフィーラさんは胸を張って答えた。
ガチで人間観察が趣味の人に初めて出会った。
「人間がお好きなんですか?」
「はい! 大好きです! よく天界から覗いていたのですが、よちよち一生懸命歩いてる姿がかわいくて、かわいくて。ご存知でしたか? 人間は一人でできないことがあっても、力を合わせて達成することができるんです! 頑張り屋さんですよね」
「一応、俺も人間なので知ってます」
「あら、そうでした」
「頑張り屋かは分かりませんが......」
セラフィーラさんは手を頬に当てて恍惚とした表情だった。
「お、俺のことも好きですか?」
「もちろんです! 頭をなでなでしたくなります」
それは、ペットを見る目だった。
本当の意味の『同棲』とはほど遠そうだ......。
なぜこういう見られ方をしてしまうのだろう。
俺に男としての魅力がないから? それとも年齢差?
たしか、最初に会った時に人を転生させる仕事を100年やってるって言っていた。
「セラフィーラさんは、おいくつですか?」
「今年で190になります」
「ひゃ、190!?」
「神々と人間では寿命が異なりますので。 神々の平均寿命は700年と言われていますから」
「700!? 日本人の平均寿命は70代ですよ?」
人間の寿命を、そのまま10倍にする感覚なのか。神々規格外すぎだろ。
「俺、まだ19なんですけど……」
「種族差を考慮すれば私達、同い年ですね」
セラフィーラさんは嬉しそうに言ったけれど、いやいや、この差を無視することは出来ないでしょ。
「なんでそんなに長生きできるんですか?」
「さぁ? なぜでしょう。生まれ方が特殊なのでしょうか」
「どうやって生まれるんですか?」
「それが謎なのです。出産するわけでも産卵するわけでもなく、いつの間にか誕生しているのです。『今年の新神《しんじん》が入ったぞー。研修するぞー』という感じで」
「えぇ……」
神々は自然発生するのか? 一体どんな原理なんだよ……。
というかノリかっる。神様も最初は研修からなのね。
「はやとさん、あの大きな箱は一体?」
セラフィーラさんの視線の先には自動販売機があった。
「あれは自販機ですよ」
「それって最近できた飲み物を買える機械ですよね! 私、興味があったんです!」
露骨にテンションが上がるセラフィーラさん。口調も柔らかくなっている。下界を直接見てみたいとは言っていたけれど、これほどまでに下界の文明に興味があったとは。
「でも、なんで自販機のことを知っていたんですか?」
「前に読んだ書物に載っていました。ボタンの上に”冷たい”の意で、”つめた~い”と書いてあります! 書物の通りです! こういう物って人間の遊び心が垣間見えて興味深いですよね~」
流石は女神様、着眼点が独特。残念ながら、俺は冷たいに伸ばし棒を使うことに何の面白味も感じない。
「お茶もありますね。これも飲んでみたかったんです」
「天界では飲めないんですか?」
「はい。私、初めて見ました」
セラフィーラさんは笑顔を崩さない。
天界での暮らしはかなりストイックなようだ。
「でも、すいません。今はお金がないので、今度飲みましょう」
「楽しみにしています!」
自販機でジュースの1本も買ってやれないなんて情けない……。
何気なくお釣り入れを探ってみると、手に引っ掛かる物があった。
「あった、ありましたよ! 小銭だ!」
「やりましたね! はやとさん!」
歓喜の声を上げて手の中を確認すると、それは10円玉だった。たった10円ではしゃぐなんて虚しすぎる。
「すいません、これだけじゃ何も買えませんね……」
「私には価値はわかりかねますが、はじめの一歩です。はやとさん、元気を出してください」
下界を知らないセラフィーラさんをリードしなくちゃいけないのに、俺が慰められてどうする。
「人間たちはこのお金を交換手段としているのでしたよね? 一体何と交換できるのですか?」
「10円ですか? うまいぼ......は値上げしたんだった。うーん、強いて言えばネジですかね」
「なんと! 機械を作るのに欠かせないという、人間の文明を代表するネジと交換できるのですか! このお金にそのような価値があったとは!」
「ネジごときでそんな大袈裟な」
セラフィーラさんは俺のぼやきを気にする様子もなく、目を輝かせていた。
「そのお金を触ってみてもよろしいですか?」
「どうぞ?」
まさか! 錬金術で複製でもするのか! と期待したが、興味深そうに触ったり覗き込むだけだった。
ここで俺たちは、たわいもないやりとりで完全に気が抜けていたらしい。
自販機に夢中になっていた俺たちは、背後から近付いてきた人影の存在に気付かなかった!
「お前さんたち、ここで何をしておる?」
振り返ると髭面で白髪頭の老人がいた。
「あ、怪しい者じゃないんです! 実は、いく当てがなくて困っていて……」
「坊主、そんなことはどうでもいい。そこの嬢ちゃん、手に持っている物を寄越しなさい。ここはわしの縄張りじゃ。荒らすことは許さん」
「そうとは知らず、申し訳ございません。無礼をお許しください」
セラフィーラさんは10円玉を差し出してご丁寧に頭を下げた。なにも10円ごときでそこまでしなくても。
「よろしい。お前たち、いく当てがないといったな、ついてこい」
そう言って、老人は歩き出す。
仕方がないので俺たち2人はついていく。
「随分と胡散臭い人ですけど、ついていって大丈夫なんですかね?」
「こういうときは、はやとさんに授けたスキル、【賢者の目】の出番です」
「【賢者の目】? ああ、最初に使えなかったからすっかり忘れてました。どうやったら発動するんですか?」
「発動はとても簡単です。対象を凝視するだけで、自分の知りたい情報を得られます」
「そんな手軽にできますかね……まぁ、やってみますけど」
俺は目に力を込めて前をゆく老人を凝視した。
血行が良くなったのか、目の奥が熱くなっていくのを感じる。
すると不思議なことに、視界に次々と文字が浮かび上がってきた。
名前:山田寿造
レベル:58
武器:なし
所持物:銅貨一枚
職業:冒険者
どういうこと?
「セラフィーラさん、スキルは発動できたようなんですが、職業冒険者って出てきたんですけど、どういう意味ですか?」
「恐らく異世界仕様のスキルなので、この世界で発動すると齟齬が生じるのでしょう。私にもわかりかねます」
最悪だ、つまりこのスキルの性能を生かし切れないということではないか。
現代日本で冒険者ってなんだよ……。
レベルは年齢のことで、銅貨1枚ってのはさっきの10円玉のことだろう。大の大人が現金を持ち合わせていないのか? 確かにキャッシュレスの時代だけれど、それなら賢者の目の所持物欄にそれっぽい単語が表示されるはずだ。それに服も見るからにボロボロだし…………。
「もしかしてホームレス?」
「ギャーギャーうるさいぞ坊主、黙れ」
怒鳴られてしまった。
武器は持っていないようだけれど、これから何をされるか皆目検討もつかない。
セラフィーラさんに何かあってからでは遅い。
「よし、ついたぞ。お前さんたち、ここで待っていなさい。」
案内されたのは公園内の老人の住処と思わしき、段ボールテントの前。周りは木々に囲われている。
タイミングよく老人が姿を消した。まだ間に合う。
「セラフィーラさん、逃げましょう。ここにいては何をされるかわかりません」
「いいえ、私はここに残ります。あの方を信じます」
セラフィーラさんが人間好きなのはわかるけど、誰もが無害で誠実だとは限らな
「待たせたな」
しまった、老人が戻ってきてしまった。間に合わなかった。てか早かったな。
「ほれ、受け取れ」
俺たちはビニール紐で縛られた段ボールの束と、ブルーシートを渡された。
「え?」
「お前さんたち、寝床に困っておるんじゃろう? それを組み立てて寝床にするといい。組み立て方がわからなかったらわしに聞きなさい」
「ありがとうございます」
セラフィーラさんは深く頭を下げた。つられて俺も思わず頭を下げてしまった。
あれ? あっさりしすぎでは?
「悪い人ではなかったようですね」
セラフィーラさんは心嬉しそうに言った。
どうやら俺たちは寝床の確保に成功したらしい。
「わしはこの公園を総括している山田じゃ。当面の間、お前さんたちがこの公園に居座ることを許してやろう」
とんとん拍子に話が進んでいく。
「あっ俺の名前は水谷颯人です! えーと、色々あって家がなくなっちゃったんですけど本当に助かりました。よろしくお願いします!」
「私はセラフィーラと申します。以前は天界の異界転」
「ちょ、ちょっとセラフィーラさん!?」
慌ててセラフィーラさんを引き止めて、裏へ連行した。
「言ったらまずいと思って、こっちがせっかく言葉選んで話してたのに! あんまりですよ!」
「私、何かおかしなことを言ってしまいましたか?」
それは無双した時に言うセリフ。
「あなたが神様ってことがバレたら結構大変なことになるんじゃないんですか!?」
「…………」
やめてやめて、セラフィーラさん。感心した顔でこっちをみないで。その辺はしっかりしてくださいよ……。
しっかり者のお姉さん、という感じに見えて、実は天然で抜けているのかもしれない。現に転生に失敗していたし。まぁ、下界に来た瞬間に態度が悪くなる駄女神パターンではないようだからまだマシか……。
「そうですね、以後気をつけます。二人だけの秘密ですね」
2人だけの秘密……パワーワードだ。
「じゃあ、戻りましょうか……」
先ほどの言い訳を考えなくては。どうか、いい感じに聞き逃してくれていますように。
段ボールで寝床を作るというが、まさか二人で同じ段ボールに暮らすことになったりして……と淡い期待を抱きながら山田さんの元へと向かうのであった。
まず最初に問題となるのは寝床である。当然、馴染みのない土地に転生した俺には頼る当てがない。それは追放されたセラフィーラさんも同じだ。
交番に、と思ったが、身分を証明する物が何もない。
そこで俺たちはこの公園を探索することにした。寝床とまではいかずとも、生活していく上で足掛かりになる物や情報を得られれば及第点だ。それこそ、人から話を聞ければ手っ取り早いのだが。
「私がお役に立てればよかったのですが、申し訳ございません」
「だから謝らないでくださいって、1人でいるより断然心強いんですから」
セラフィーラさんは先ほどから謝ってばかりだ。どうにかしてアイスブレイクしなくては。
「あの、セラフィーラさん」
「はい?」
「突然ですけど、セラフィーラさんの一番のご趣味って何ですか?」
「そうですね、人間観察が趣味です!」
セラフィーラさんは胸を張って答えた。
ガチで人間観察が趣味の人に初めて出会った。
「人間がお好きなんですか?」
「はい! 大好きです! よく天界から覗いていたのですが、よちよち一生懸命歩いてる姿がかわいくて、かわいくて。ご存知でしたか? 人間は一人でできないことがあっても、力を合わせて達成することができるんです! 頑張り屋さんですよね」
「一応、俺も人間なので知ってます」
「あら、そうでした」
「頑張り屋かは分かりませんが......」
セラフィーラさんは手を頬に当てて恍惚とした表情だった。
「お、俺のことも好きですか?」
「もちろんです! 頭をなでなでしたくなります」
それは、ペットを見る目だった。
本当の意味の『同棲』とはほど遠そうだ......。
なぜこういう見られ方をしてしまうのだろう。
俺に男としての魅力がないから? それとも年齢差?
たしか、最初に会った時に人を転生させる仕事を100年やってるって言っていた。
「セラフィーラさんは、おいくつですか?」
「今年で190になります」
「ひゃ、190!?」
「神々と人間では寿命が異なりますので。 神々の平均寿命は700年と言われていますから」
「700!? 日本人の平均寿命は70代ですよ?」
人間の寿命を、そのまま10倍にする感覚なのか。神々規格外すぎだろ。
「俺、まだ19なんですけど……」
「種族差を考慮すれば私達、同い年ですね」
セラフィーラさんは嬉しそうに言ったけれど、いやいや、この差を無視することは出来ないでしょ。
「なんでそんなに長生きできるんですか?」
「さぁ? なぜでしょう。生まれ方が特殊なのでしょうか」
「どうやって生まれるんですか?」
「それが謎なのです。出産するわけでも産卵するわけでもなく、いつの間にか誕生しているのです。『今年の新神《しんじん》が入ったぞー。研修するぞー』という感じで」
「えぇ……」
神々は自然発生するのか? 一体どんな原理なんだよ……。
というかノリかっる。神様も最初は研修からなのね。
「はやとさん、あの大きな箱は一体?」
セラフィーラさんの視線の先には自動販売機があった。
「あれは自販機ですよ」
「それって最近できた飲み物を買える機械ですよね! 私、興味があったんです!」
露骨にテンションが上がるセラフィーラさん。口調も柔らかくなっている。下界を直接見てみたいとは言っていたけれど、これほどまでに下界の文明に興味があったとは。
「でも、なんで自販機のことを知っていたんですか?」
「前に読んだ書物に載っていました。ボタンの上に”冷たい”の意で、”つめた~い”と書いてあります! 書物の通りです! こういう物って人間の遊び心が垣間見えて興味深いですよね~」
流石は女神様、着眼点が独特。残念ながら、俺は冷たいに伸ばし棒を使うことに何の面白味も感じない。
「お茶もありますね。これも飲んでみたかったんです」
「天界では飲めないんですか?」
「はい。私、初めて見ました」
セラフィーラさんは笑顔を崩さない。
天界での暮らしはかなりストイックなようだ。
「でも、すいません。今はお金がないので、今度飲みましょう」
「楽しみにしています!」
自販機でジュースの1本も買ってやれないなんて情けない……。
何気なくお釣り入れを探ってみると、手に引っ掛かる物があった。
「あった、ありましたよ! 小銭だ!」
「やりましたね! はやとさん!」
歓喜の声を上げて手の中を確認すると、それは10円玉だった。たった10円ではしゃぐなんて虚しすぎる。
「すいません、これだけじゃ何も買えませんね……」
「私には価値はわかりかねますが、はじめの一歩です。はやとさん、元気を出してください」
下界を知らないセラフィーラさんをリードしなくちゃいけないのに、俺が慰められてどうする。
「人間たちはこのお金を交換手段としているのでしたよね? 一体何と交換できるのですか?」
「10円ですか? うまいぼ......は値上げしたんだった。うーん、強いて言えばネジですかね」
「なんと! 機械を作るのに欠かせないという、人間の文明を代表するネジと交換できるのですか! このお金にそのような価値があったとは!」
「ネジごときでそんな大袈裟な」
セラフィーラさんは俺のぼやきを気にする様子もなく、目を輝かせていた。
「そのお金を触ってみてもよろしいですか?」
「どうぞ?」
まさか! 錬金術で複製でもするのか! と期待したが、興味深そうに触ったり覗き込むだけだった。
ここで俺たちは、たわいもないやりとりで完全に気が抜けていたらしい。
自販機に夢中になっていた俺たちは、背後から近付いてきた人影の存在に気付かなかった!
「お前さんたち、ここで何をしておる?」
振り返ると髭面で白髪頭の老人がいた。
「あ、怪しい者じゃないんです! 実は、いく当てがなくて困っていて……」
「坊主、そんなことはどうでもいい。そこの嬢ちゃん、手に持っている物を寄越しなさい。ここはわしの縄張りじゃ。荒らすことは許さん」
「そうとは知らず、申し訳ございません。無礼をお許しください」
セラフィーラさんは10円玉を差し出してご丁寧に頭を下げた。なにも10円ごときでそこまでしなくても。
「よろしい。お前たち、いく当てがないといったな、ついてこい」
そう言って、老人は歩き出す。
仕方がないので俺たち2人はついていく。
「随分と胡散臭い人ですけど、ついていって大丈夫なんですかね?」
「こういうときは、はやとさんに授けたスキル、【賢者の目】の出番です」
「【賢者の目】? ああ、最初に使えなかったからすっかり忘れてました。どうやったら発動するんですか?」
「発動はとても簡単です。対象を凝視するだけで、自分の知りたい情報を得られます」
「そんな手軽にできますかね……まぁ、やってみますけど」
俺は目に力を込めて前をゆく老人を凝視した。
血行が良くなったのか、目の奥が熱くなっていくのを感じる。
すると不思議なことに、視界に次々と文字が浮かび上がってきた。
名前:山田寿造
レベル:58
武器:なし
所持物:銅貨一枚
職業:冒険者
どういうこと?
「セラフィーラさん、スキルは発動できたようなんですが、職業冒険者って出てきたんですけど、どういう意味ですか?」
「恐らく異世界仕様のスキルなので、この世界で発動すると齟齬が生じるのでしょう。私にもわかりかねます」
最悪だ、つまりこのスキルの性能を生かし切れないということではないか。
現代日本で冒険者ってなんだよ……。
レベルは年齢のことで、銅貨1枚ってのはさっきの10円玉のことだろう。大の大人が現金を持ち合わせていないのか? 確かにキャッシュレスの時代だけれど、それなら賢者の目の所持物欄にそれっぽい単語が表示されるはずだ。それに服も見るからにボロボロだし…………。
「もしかしてホームレス?」
「ギャーギャーうるさいぞ坊主、黙れ」
怒鳴られてしまった。
武器は持っていないようだけれど、これから何をされるか皆目検討もつかない。
セラフィーラさんに何かあってからでは遅い。
「よし、ついたぞ。お前さんたち、ここで待っていなさい。」
案内されたのは公園内の老人の住処と思わしき、段ボールテントの前。周りは木々に囲われている。
タイミングよく老人が姿を消した。まだ間に合う。
「セラフィーラさん、逃げましょう。ここにいては何をされるかわかりません」
「いいえ、私はここに残ります。あの方を信じます」
セラフィーラさんが人間好きなのはわかるけど、誰もが無害で誠実だとは限らな
「待たせたな」
しまった、老人が戻ってきてしまった。間に合わなかった。てか早かったな。
「ほれ、受け取れ」
俺たちはビニール紐で縛られた段ボールの束と、ブルーシートを渡された。
「え?」
「お前さんたち、寝床に困っておるんじゃろう? それを組み立てて寝床にするといい。組み立て方がわからなかったらわしに聞きなさい」
「ありがとうございます」
セラフィーラさんは深く頭を下げた。つられて俺も思わず頭を下げてしまった。
あれ? あっさりしすぎでは?
「悪い人ではなかったようですね」
セラフィーラさんは心嬉しそうに言った。
どうやら俺たちは寝床の確保に成功したらしい。
「わしはこの公園を総括している山田じゃ。当面の間、お前さんたちがこの公園に居座ることを許してやろう」
とんとん拍子に話が進んでいく。
「あっ俺の名前は水谷颯人です! えーと、色々あって家がなくなっちゃったんですけど本当に助かりました。よろしくお願いします!」
「私はセラフィーラと申します。以前は天界の異界転」
「ちょ、ちょっとセラフィーラさん!?」
慌ててセラフィーラさんを引き止めて、裏へ連行した。
「言ったらまずいと思って、こっちがせっかく言葉選んで話してたのに! あんまりですよ!」
「私、何かおかしなことを言ってしまいましたか?」
それは無双した時に言うセリフ。
「あなたが神様ってことがバレたら結構大変なことになるんじゃないんですか!?」
「…………」
やめてやめて、セラフィーラさん。感心した顔でこっちをみないで。その辺はしっかりしてくださいよ……。
しっかり者のお姉さん、という感じに見えて、実は天然で抜けているのかもしれない。現に転生に失敗していたし。まぁ、下界に来た瞬間に態度が悪くなる駄女神パターンではないようだからまだマシか……。
「そうですね、以後気をつけます。二人だけの秘密ですね」
2人だけの秘密……パワーワードだ。
「じゃあ、戻りましょうか……」
先ほどの言い訳を考えなくては。どうか、いい感じに聞き逃してくれていますように。
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