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第七話 ベルクを追放した後2 チャン視点
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モンスターたちはなぜか分からないがダンジョンから出てきて人間を襲ってくる。
ただし、彼らは人間だけを襲うわけではなく、モンスター同士でも争っている。人間だって戦争などで他人を殺すことがあるのだから、モンスターが他のモンスターを殺すことも不思議ではないのだが、奴らは殺すだけでは飽き足らないのか、食ってしまうこともある。
特に大型のモンスターが小型のモンスターを食っていたところを見たという報告は多い。
じゃあモンスターってのは美味いのか。これは昔から何人も試食しているのだが、人間の舌とは相性が悪いのか非常に不味い……らしい。
というわけで、今、チャンの目の前で起きていることはそれほどおかしなことではなかった。
それはなにかというと。
——グシャグシャ。バリバリバリィ‼︎
巨体の一眼モンスターがゴブリン(だと思われるもの)を食っていた。
両手に脚を一本ずつ持っていて、ゆっくりと咀嚼している。
壁に背を預けて座り、ただ黙々と食っていた。血が飛び散っても気にしていない。
「サイクロプス……」
パルがそのモンスターの名を口に出す。するとサイクロプスがこちらに気づいた。咀嚼を止めてじっとこっちを見ている。
チャンは剣を構えた。
——さっきの轟音はこいつが原因だったのか。歩いただけであんな音は鳴らないから、暴れ回ってたのか?
「レアだな。これで三回目くらいか?」
今までにもサイクロプスと相対したことはある。強力なモンスターだと言われてはいるし、実際強い。だが負けるようなモンスターではない。倒すのにちょっと時間がかかるだけだ。
「四体目」
グインが前に出ながら言った。サイクロプスが座っている今のうちに攻撃してしまおうという意思を感じ取れた。
チャンは頭の中で作戦を練る。グインが最初に攻撃を加えて怯んだすきに自分とパルが致命傷を負わせる。終わり。
簡単な作戦だが、座ってるモンスター相手にはこんなものでいい。
「はああああっ!」
グインがサイクロプスに飛び掛かる。続いてチャンとパルが追いかける。
簡単に倒せる。
はずだった。
サイクロプスがゴブリンの腕を軽く放り投げてくるまでは。
ゴブリンの腕を鉤爪で弾こうとしたグインだったが、腕にばかり気が取られていたのか、サイクロプスの手が迫ってきていることに気づいていなかった。
——バチィィィィィン。
巨大な手でビンタをされて、グインが壁に叩きつけられる。
「んぐぅっ⁉︎」
「グイン!」
叫びながら、チャンはサイクロプスの腕に長剣を叩き込む。
しかし。
「えっ?」
サイクロプスの腕はこれっぽっちも切れなかった。
いくらサイクロプスの腕が太いからといっても、今までなら簡単に切れていたはずだ。
「チャン!」
パルに後ろから服を引っ張られる。
次の瞬間、サイクロプスの腕がチャンの目の前を掠めた。
パルに引っ張られていなかったら今頃自分も壁に叩きつけられていたところだった。
「助かった」
「今度は私がいく!」
パルが槍を構えて前へ出る。
座ったままのサイクロプスは、まだ持っていたもう一本のゴブリンの腕を放り投げてきた。
「同じ手を食うわけないでしょ!」
放物線を描くゴブリンの腕をかわすパル。さらにサイクロプスがビンタをしてくるが、その手に槍の先端を向けた。
手に槍が刺されば、致命傷には至らずとも、少しは怯むはずだ。
——その隙に俺が!
もう一度剣を握り直して向かっていく。
しかし。
「きゃっ!」
パルの槍は手に刺さらなかった。それどころか弾かれてしまった。弾かれた槍は壁に当たり、あろうことかチャンの方へと飛んできた。
グサッ。
「うっ⁉︎」
飛んできた槍が、チャンの太ももに刺さる。幸いそれほど深くなかった。
「くそっ」
刺さった槍を引き抜く。ジンジンと痛む。しかし今は痛がっている場合じゃない。
「ごめん! 大丈夫⁉︎」
サイクロプスのビンタを間一髪で避けたパルが駆け寄ってきた。
「何してんだよっ!」
「なんか力が出なくって……」
「力が……?」
さすがにヤリすぎたか?
と思ったが、そんなことで一気に力が落ちるわけない。
「うぅ……」
「グイン!」
壁に激突して伸びていたグインが、地面を這いつくばっていた。
チャンとパルでグインを引きずってサイクロプスから距離を取る。
一通り攻撃を退けたサイクロプスはのそのそと立ちあがろうとしていた。
「なんか……変……」
グインが絞り出すようにして声を出す。
「変? 何が?」
「いつも……より……自分が……弱い……」
グインもパルと同じようなことを言い出した。そして、チャン自身も同じようなことを思っていた。
いつも通りの力が出せない。力だけじゃない。反応速度、判断力、全てが酷い。まるでB級ブレイカー並みだった。
さっき『お楽しみ』をしていたが、それだけでは説明できないほど、自分が弱くなっている。
ただ、一つだけ思い当たる節があった。ベルクの占いだ。
分かれ道を左へ進んだ時、ベルクは能力減衰の影響があるとか言っていた。
——まさか、な。
確かに最初は占いを信じていた。占いの力でどうにかなったらいいなと思っていた。
でもベルクが占いでやったことといえば、その頃C級だったパルとグインをパーティーに引き入れたことくらいだ。
あっちで修行すれば能力が上がるとか、こっちで鍛錬をすればS級に近づくとも言っていた。
でも、それって結局自分たちが頑張ったからじゃないか。
場所なんてなんで関係あるんだよ。しかも自分たちが汗水垂らして訓練をしている間、ベルクは「研究」とか言って一人で引きこもっていただけだ。
だからベルクをクビにした。
もう占いなんて信用しない。
なのに、今更占いを信じておけばよかった、なんて思えるかよ。
方角で能力減衰? ハッ、信じられるか。
「力が出ないなんて、気のせいだ」
立ち上がり終わったサイクロプスの眼を睨む。
今までにも倒してきた相手だ。
やれないわけがない。
「武器を持て、パル。行くぞ!」
チャンは足の痛みなど忘れて、サイクロプスへと向かって走り出した。
………………
戦いは呆気なく終わった。
戦いと呼べるかも分からない程だった。
チャンが走り出した瞬間。
バサバサっ!
サイクロプスの後ろ側から、一匹のロック鳥が現れた。
「邪魔だっ」
チャンが長剣を振る。しかしロック鳥に当たらない。
当てられない。
それどころか逆にクチバシで額をつつかれた。
一瞬、意識が飛んで頭がくらっとして、目の前が真っ暗になった。
たったの一瞬だ。
次の瞬間には真横にいたパルがロック鳥めがけて槍で攻撃しているのが見えた。
だが、その隙をついて、サイクロプスのパンチが飛んできた。
チャンと、ほぼ真横にいたパルがパンチをまともに食らって、吹き飛ばされた。
「きゃあっ!」
パルの悲鳴が響く。チャンは声も出せず、地面に叩きつけられた。
骨が折れたのか、心が折れたのか、指一本動かすことができない。
その時、声が聞こえた。
「なっ、どうなさいましたか!」
ぼんやりとする視界の中で、声の主を認識する。
見張り人のショーンナーだった。他にも何人かいる。
「おいあれ、サイクロプスじゃねえか。ロック鳥食ってるぜ」
「すっげ。モンスターがモンスター食ってるとこ初めて見たわ」
ショーンナーについてきた人達のうちの二人が、そんなことを言いながら、チャンたちの横を通り抜けていった。おそらくサイクロプスを倒しに向かったのだろう。
チャン、パル、そしてグインの三人は、サイクロプスに立ち向かって行った二人以外の男たちに介抱された。
「大丈夫ですか? ゲートの破壊は私たちに任せてください」
ショーンナーがチャンの傷の手当てをしながら言った。
「……頼む。どうしてここへ?」
「ダンジョンがなかなか消えないので、失敗したのかと思いまして、近くにいるブレイカーを集めて参りました。A級ばかりですが、この人数ならなんとかなるでしょう」
ショーンナーがいい終わるや否や、サイクロプスの呻き声が聞こえてきた。それと男たちの歓喜の声も聞こえてくる。
「お、倒せましたね。よかった、これでゲートの破壊もできそうだ。しかし珍しいですね。チャンさんたちがサイクロプスに苦戦するなんて。なにかあったんですか?」
「……」
訊かれたが、なにも言葉が出てこなかった。
まさか進行する方角が悪かったから能力が減衰したからなんて言えるわけもない。
占い師の言うことを聞かなかったからA級ブレイカーに負けたなんて言えるわけがない。
ショーンナーから目を逸らして、やっとこさ出てきた回答がこれだった。
「サイクロプス……複数」
嘘をついた。
それしか思い浮かばなかった。
「なんと珍しい。一体ではなかったのですか!」
ショーンナーはまるで疑いもしなかった。
悔しさと、心苦しさと、後ろめたさが、チャンの心臓を強く締め付けた。
しかしこれは、チャンが堕ちていくまでのプロローグに過ぎなかった……。
ただし、彼らは人間だけを襲うわけではなく、モンスター同士でも争っている。人間だって戦争などで他人を殺すことがあるのだから、モンスターが他のモンスターを殺すことも不思議ではないのだが、奴らは殺すだけでは飽き足らないのか、食ってしまうこともある。
特に大型のモンスターが小型のモンスターを食っていたところを見たという報告は多い。
じゃあモンスターってのは美味いのか。これは昔から何人も試食しているのだが、人間の舌とは相性が悪いのか非常に不味い……らしい。
というわけで、今、チャンの目の前で起きていることはそれほどおかしなことではなかった。
それはなにかというと。
——グシャグシャ。バリバリバリィ‼︎
巨体の一眼モンスターがゴブリン(だと思われるもの)を食っていた。
両手に脚を一本ずつ持っていて、ゆっくりと咀嚼している。
壁に背を預けて座り、ただ黙々と食っていた。血が飛び散っても気にしていない。
「サイクロプス……」
パルがそのモンスターの名を口に出す。するとサイクロプスがこちらに気づいた。咀嚼を止めてじっとこっちを見ている。
チャンは剣を構えた。
——さっきの轟音はこいつが原因だったのか。歩いただけであんな音は鳴らないから、暴れ回ってたのか?
「レアだな。これで三回目くらいか?」
今までにもサイクロプスと相対したことはある。強力なモンスターだと言われてはいるし、実際強い。だが負けるようなモンスターではない。倒すのにちょっと時間がかかるだけだ。
「四体目」
グインが前に出ながら言った。サイクロプスが座っている今のうちに攻撃してしまおうという意思を感じ取れた。
チャンは頭の中で作戦を練る。グインが最初に攻撃を加えて怯んだすきに自分とパルが致命傷を負わせる。終わり。
簡単な作戦だが、座ってるモンスター相手にはこんなものでいい。
「はああああっ!」
グインがサイクロプスに飛び掛かる。続いてチャンとパルが追いかける。
簡単に倒せる。
はずだった。
サイクロプスがゴブリンの腕を軽く放り投げてくるまでは。
ゴブリンの腕を鉤爪で弾こうとしたグインだったが、腕にばかり気が取られていたのか、サイクロプスの手が迫ってきていることに気づいていなかった。
——バチィィィィィン。
巨大な手でビンタをされて、グインが壁に叩きつけられる。
「んぐぅっ⁉︎」
「グイン!」
叫びながら、チャンはサイクロプスの腕に長剣を叩き込む。
しかし。
「えっ?」
サイクロプスの腕はこれっぽっちも切れなかった。
いくらサイクロプスの腕が太いからといっても、今までなら簡単に切れていたはずだ。
「チャン!」
パルに後ろから服を引っ張られる。
次の瞬間、サイクロプスの腕がチャンの目の前を掠めた。
パルに引っ張られていなかったら今頃自分も壁に叩きつけられていたところだった。
「助かった」
「今度は私がいく!」
パルが槍を構えて前へ出る。
座ったままのサイクロプスは、まだ持っていたもう一本のゴブリンの腕を放り投げてきた。
「同じ手を食うわけないでしょ!」
放物線を描くゴブリンの腕をかわすパル。さらにサイクロプスがビンタをしてくるが、その手に槍の先端を向けた。
手に槍が刺されば、致命傷には至らずとも、少しは怯むはずだ。
——その隙に俺が!
もう一度剣を握り直して向かっていく。
しかし。
「きゃっ!」
パルの槍は手に刺さらなかった。それどころか弾かれてしまった。弾かれた槍は壁に当たり、あろうことかチャンの方へと飛んできた。
グサッ。
「うっ⁉︎」
飛んできた槍が、チャンの太ももに刺さる。幸いそれほど深くなかった。
「くそっ」
刺さった槍を引き抜く。ジンジンと痛む。しかし今は痛がっている場合じゃない。
「ごめん! 大丈夫⁉︎」
サイクロプスのビンタを間一髪で避けたパルが駆け寄ってきた。
「何してんだよっ!」
「なんか力が出なくって……」
「力が……?」
さすがにヤリすぎたか?
と思ったが、そんなことで一気に力が落ちるわけない。
「うぅ……」
「グイン!」
壁に激突して伸びていたグインが、地面を這いつくばっていた。
チャンとパルでグインを引きずってサイクロプスから距離を取る。
一通り攻撃を退けたサイクロプスはのそのそと立ちあがろうとしていた。
「なんか……変……」
グインが絞り出すようにして声を出す。
「変? 何が?」
「いつも……より……自分が……弱い……」
グインもパルと同じようなことを言い出した。そして、チャン自身も同じようなことを思っていた。
いつも通りの力が出せない。力だけじゃない。反応速度、判断力、全てが酷い。まるでB級ブレイカー並みだった。
さっき『お楽しみ』をしていたが、それだけでは説明できないほど、自分が弱くなっている。
ただ、一つだけ思い当たる節があった。ベルクの占いだ。
分かれ道を左へ進んだ時、ベルクは能力減衰の影響があるとか言っていた。
——まさか、な。
確かに最初は占いを信じていた。占いの力でどうにかなったらいいなと思っていた。
でもベルクが占いでやったことといえば、その頃C級だったパルとグインをパーティーに引き入れたことくらいだ。
あっちで修行すれば能力が上がるとか、こっちで鍛錬をすればS級に近づくとも言っていた。
でも、それって結局自分たちが頑張ったからじゃないか。
場所なんてなんで関係あるんだよ。しかも自分たちが汗水垂らして訓練をしている間、ベルクは「研究」とか言って一人で引きこもっていただけだ。
だからベルクをクビにした。
もう占いなんて信用しない。
なのに、今更占いを信じておけばよかった、なんて思えるかよ。
方角で能力減衰? ハッ、信じられるか。
「力が出ないなんて、気のせいだ」
立ち上がり終わったサイクロプスの眼を睨む。
今までにも倒してきた相手だ。
やれないわけがない。
「武器を持て、パル。行くぞ!」
チャンは足の痛みなど忘れて、サイクロプスへと向かって走り出した。
………………
戦いは呆気なく終わった。
戦いと呼べるかも分からない程だった。
チャンが走り出した瞬間。
バサバサっ!
サイクロプスの後ろ側から、一匹のロック鳥が現れた。
「邪魔だっ」
チャンが長剣を振る。しかしロック鳥に当たらない。
当てられない。
それどころか逆にクチバシで額をつつかれた。
一瞬、意識が飛んで頭がくらっとして、目の前が真っ暗になった。
たったの一瞬だ。
次の瞬間には真横にいたパルがロック鳥めがけて槍で攻撃しているのが見えた。
だが、その隙をついて、サイクロプスのパンチが飛んできた。
チャンと、ほぼ真横にいたパルがパンチをまともに食らって、吹き飛ばされた。
「きゃあっ!」
パルの悲鳴が響く。チャンは声も出せず、地面に叩きつけられた。
骨が折れたのか、心が折れたのか、指一本動かすことができない。
その時、声が聞こえた。
「なっ、どうなさいましたか!」
ぼんやりとする視界の中で、声の主を認識する。
見張り人のショーンナーだった。他にも何人かいる。
「おいあれ、サイクロプスじゃねえか。ロック鳥食ってるぜ」
「すっげ。モンスターがモンスター食ってるとこ初めて見たわ」
ショーンナーについてきた人達のうちの二人が、そんなことを言いながら、チャンたちの横を通り抜けていった。おそらくサイクロプスを倒しに向かったのだろう。
チャン、パル、そしてグインの三人は、サイクロプスに立ち向かって行った二人以外の男たちに介抱された。
「大丈夫ですか? ゲートの破壊は私たちに任せてください」
ショーンナーがチャンの傷の手当てをしながら言った。
「……頼む。どうしてここへ?」
「ダンジョンがなかなか消えないので、失敗したのかと思いまして、近くにいるブレイカーを集めて参りました。A級ばかりですが、この人数ならなんとかなるでしょう」
ショーンナーがいい終わるや否や、サイクロプスの呻き声が聞こえてきた。それと男たちの歓喜の声も聞こえてくる。
「お、倒せましたね。よかった、これでゲートの破壊もできそうだ。しかし珍しいですね。チャンさんたちがサイクロプスに苦戦するなんて。なにかあったんですか?」
「……」
訊かれたが、なにも言葉が出てこなかった。
まさか進行する方角が悪かったから能力が減衰したからなんて言えるわけもない。
占い師の言うことを聞かなかったからA級ブレイカーに負けたなんて言えるわけがない。
ショーンナーから目を逸らして、やっとこさ出てきた回答がこれだった。
「サイクロプス……複数」
嘘をついた。
それしか思い浮かばなかった。
「なんと珍しい。一体ではなかったのですか!」
ショーンナーはまるで疑いもしなかった。
悔しさと、心苦しさと、後ろめたさが、チャンの心臓を強く締め付けた。
しかしこれは、チャンが堕ちていくまでのプロローグに過ぎなかった……。
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