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第4章「大根の…もとい、暗黒のアデラール」
第52話「神の敵」
しおりを挟むベラライア王宮、謁見の間――――
「そのような事実はありません。王子殿下もその場におらてましたので、殿下に聞かれては?」
「その通りだ、俺も治療には立ち会った。確かに治療は治療師が行った。」
レンスの発言に重臣たちは、互いの顔を見合わせて、ざわつきはじめる。ルイーセは審議官長に視線を合わせて、小さく頷いて合図のようなものを送った。
「王子殿下、その発言に偽りはありませんな?」
「ない!アデラールは無実だ。俺が証言する!!」
「王子殿下、そこの魔導師が一人で、王陛下殺害などという大それたことを、企むとお思いですか?内部に手引きする協力者が居ないと、陛下に近づくことさえできないでしょう。」
「何が言いたい?」
審議官長は、レンスの前まで歩み寄ると、手に持った儀仗をレンスに向けて素早く振りかざすと、強い語気で言い放った。
「手引きをしたのはあなたでは?サン王子殿下。あなたは放浪などと偽って王宮を出て、陛下を殺め、兄君を陥れ、王太子の座のみならず、王国を手中にしようとした。その手段として、この罪人と手を結び、呪いを用いて呪殺しようとしたが、何らかの理由で呪いを解くことにしたのではないですか?それを神ヘリアが託宣にて成敗するようにと、神託を託されたわけです。」
推論を重ねた結果、最後は神頼みか。アデラールはこんな低レベルな言い合いで、よくも王殺しの嫌疑をかける気になったかと、逆に感心し心中で嘲笑った。
「魔導師殿は、カイユテの件でレナスと対立しておりました。そのレナスが、王陛下と同じような呪いに掛かりました、魔導師殿には動機があったのです。動機と手段、そして国教会の託宣まであります。」
「これだけの事実が揃えば十分でしょう?皆さま。王子殿下の件は、陛下にご報告申し上げて裁可を仰ぐとして、この魔導師はこの場で王殺しの実行犯として、通例に倣って死刑を求刑します。皆さま、採決を!」
採決など意味がない。味方であるレンスにも嫌疑が掛けられては、結果は火を見るよりも明らかだ。この場でアデラールを擁護するなど、酔狂が過ぎる。
「罪状は明白、刑罰も妥当だと思います。私は死刑を支持します。」
「では皆さま、異論もない様子なので可決とし、刑の執行は託宣により十日後とします。」
王妃は表情こそ平静さを保ってはいるが、口元や目元は、見下ろすアデラールに向けて、嘲りの笑みを浮かべたまま、審議官長の求刑を支持する宣言をした。
「親父、、父上の命の恩人だぞ!アデラールの件は父上の裁可を!」
「殿下、国法でこの場合の採決は、王陛下のご負担を招くとして、審議会で行うと決められているのは、殿下もご存知のはずでは?陛下にはのちほど、ご報告します。」
「おまえら!こんな出来すぎた話を黙認する気か!」
「お鎮まりを。国法には例え、王陛下でも口を差し挟むことはできません。それにあなたさまにも嫌疑が掛かっているのをお忘れなく。おい!この神を畏れぬ不届き者を牢獄へ連れて行け!」
アデラールは、レンスに視線を合わせると、目で”大丈夫だ”と伝える。
―――――
ベラライア王宮、ルイーセ王妃殿下の離宮――――
「王妃殿下、打ち合わせ通りにしましたが、本当にあの者が王陛下殺害を狙ったのですか?そのわりには終始、大人しく話を聞いておりましたが、、」
「さすがの大罪人も神の名の前に、おそれをなしたのではありませんか?それこそ、審議官長殿の信仰の賜物でしょう。」
ルイーセにはもう1つ、この男に願いがあったゆえ離宮に招いた。冷淡な夫の考えを変えるための、唯一の手段をこの男なら実行可能だからだ。
「審議官殿、サンも王陛下殺害の嫌疑が掛かった以上、レナスを王都に戻さねば、王室の血が途絶える可能性もあります。レナスは過ちを犯しましたが、残された最後の男系相続権者です。」
審議官長はレナスの話を持ち出されて、険しい表情をする。なぜなら、そう何度も自らが信仰する神の名を騙って、悪事をなすわけには行かない。今回も王妃の父君に説得されて、手を貸しただけだった。これ以上は首を突っ込みたくないのが、正直なところだ。
「しかし、王妃殿下。レナスさまを王都へ戻すと言うのは、、、。」
「断ると言うのですか?断るなら、あなたもいずれ道連れにしますよ。」
「それは約束が違います!協力すれば、私の関与は表には決して出さぬと、、、。」
審議官長の顔色がみるみる悪くなる。
「ええ。レナスを戻すための託宣を、宣言してくだされば良いのです。」
「こ、、これで最後ですよ、、約束は守ってもらいます!!」
「ええ。父上が約した通り、次の司祭長にはあなたを推挙いたしましょう。」
これで全ては元通りです。あの魔導師を倒し、陛下を亡き者にしたあとにサンに全ての責を負わせます。そうすれば、レナスの王位は揺るがないでしょう。最後は私が勝ちましたね?魔導師殿。
―――――死刑執行8日前の夜中
王都ベラライア、国教会神殿宿舎棟――――
『我が愛しき子らよ、我が名は、電脳と水の女神ヘリア。我が名を騙り、偽りの神意を捏造し、罪なき人間を殺めようと画策する者たちが居ます。その者たちこそ罪人です。我が名において、神罰を下しその魂を永遠に罪の鎖で縛るでしょう。この我が託宣を、国中の光の力を持つ者の夢に託します。』
この日の早暁、国教会神殿宿舎に寝泊まりする、全ての巫女と神官が女神ヘリアの託宣を受けた。国教会神殿は、早朝から騒然となる。女神の言葉通り、国中から続々と”託宣を受けた”という者の報告が後を絶たず、王都は蜂の巣をつついたような大騒ぎになる、その為、当初は処刑の強行を目論んだが、国教会内部のほとんどの者と、王都をはじめとした国中の大勢の者が、女神ヘリアの『真の託宣』を支持する結果となった。
「審議官長さま!これだけ大勢の者が神託を受けているのですぞ!このようなことは、少なくとも教会の歴史が記されて以来、はじめてのことですぞ!!」
審議官長は頭を抱えていた。この男も夢の中で託宣を受けており、翌朝、目覚めて夢の内容が真実であることを、巫女たちや、神官たちの証言で確信してしまう。女神の言う神意を捏造した者とは、他ならぬ自分自身であることを恐れ、神罰が下ることに怯えているからだ。この期におよんで、偽りの託宣で処刑を強行しようものなら、更にどんな災難に遭うか、わかったものではない。
「王妃殿下には私から、、、国教会神殿の助力は取りやめるとお伝えする、、、」
「当然です!女神さまはお怒りなのです!!どれだけの者たちが託宣を受けたか、想像すらできません!逆に私たちが女神さまの意を受けて、王妃殿下を糾弾すべきです!!」
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作者です!
次回、お待たせしました!王妃さまの悲鳴が聞けます。
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