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第4章「大根の…もとい、暗黒のアデラール」

第55話「心の平穏」

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ベラライア王宮、王陛下の執務室――――


「しかし、本当に女神さまと繋がりがあったとはな、、、驚いたぞ?魔導師殿。」
「はは、驚かせてしまいましたね。王陛下。」


あの後、ざわつく謁見の間を後にし、王とレンスと共にアデラールは、王の執務室へやってきていた。アデラールは、”なるほど”と思った。この王の執務室は、王への性格を反映したように、機能的で不必要な内装を一切、排除している。王妃殿下の離宮が、華美なこと、この上なかったのに比べると、実に質素だ。


「殿下も迫真の演技でしたね?」


アデラールは、王に勧めれてソファに腰掛ける。話しを振られたレンスは苦笑しながら、アデラールと向かい合うよう腰掛けると、抗議の声を上げた。


「あれは演技じゃねーぞ?計画通りだったけど、本当に心配したんだよ!」


言いながら、ほっとしたような表情をみせるレンス。


「ともあれ、これで長年の敵をあらかた排除できた。魔導師殿、本当に世話になったな。」
「私の敵でもありましたので。結果的に国と王陛下のお役に立てて光栄です。」


アデラールとしては、降りかかる火の粉を払っただけで、計画の途上で、王も救えるなら、この素晴らしい王も救っておこうと思った程度である。この王は類まれな名君であることを考えれば、国をも救ったことになるかもしれない。


「計画を聞かされたときは、突飛な内容に半信半疑だったが、女神さまのお声が王宮に響き渡り、王都の空にお姿が映っているのを見て、夢でも見ているのかと、我が目を疑ったものだ。」
「ヘリアさまとは、”いろいろ”ありましたもので。それ以来、よく私を気に掛けてくださいます。」
「それがどれほど驚異的なことか、そなたはわかっておるのか?謁見の間に居合わせた者たちは、そなたを予言者だの、伝道者だのと騒いでおるぞ。」


計画の弊害があるとすれば、”こういうこと”である。しばらくは王都を避けて、どこか僻地にでも避難したほうが良いだろうか?と今後の身の振り方に思いを巡らせる。


「今回の魔導師殿の功績には、十分に報いるつもりだ。以前の恩賞事件のアレもまだだったな?」
「ええ、ですが、あまりお気を遣われずとも、、、」
「そうはいかぬぞ!はははは!」
「そうだぞ?アデラール。おまえは手柄を立てたんだから、貰っとけ!」


そう言って父王と笑い合うレンス。機嫌が良さそうに笑う父を見てレンスは、こういうのもたまにはいいな、と目を細め、満足した気持ちになっていた。


「で、親父殿。あの女の処分はどうするつもりだ?」
「ここまでの大罪を犯したのだ。国中の者たちの期待も考えれば、処刑するしかないだろう。だが、レナスを同等の罪で命を助けたのだから、ルイーセも命だけは助けてやる。」


王は残念そうな顔つきで、ルイーセに対する処分の手段を語った。


「そっか!女神さまも命まで取れとは言わないだろーぜ。な?アデラール。」
「ああ、そんなことをしたら俺があとで、とやかく言われそうだな。」


下手に命を奪えば禍根を残す。ちょうど良いところで留めておくのも必要だろう。そう考えたアデラールは、大きな悩み事が解消し、久しぶりに晴々した気持ちを実感した。


「さて、サンよ。問題も片付いてきたし、そろそろお前を立太子するぞ。」
「ああ、めんどくせーな。」
「やっとここまでこぎ着けたのだ、今なら神殿も何も言わずに認めるだろう。」
「あーあ!これでもう、遊んでられなくなるな。アデラール!おまえと代わりたいよ。」


アデラールは、手を左右に振って”諦めろ”といったような動作を伝えて、いつぶりかわからないほど、本当に陽気に笑ってみせた。心のトゲが抜けたかのような、清々しい思いが彼を満たしていた。


「レンス。立太子が終わったら、ルミエラさまとの婚約の儀だな?」


からかうような顔をしてレンスを見やる。


「なに?ルミエールに申し込んだのか?いつだ、そのような話は聞いておらぬぞ。」
「なんだレンス。王陛下にまだ話してなかったのか?」


王とアデラールは、2人してレンスに視線を向けるが、レンスはバツが悪そうな顔で下を向いている。


「どうした?」
「それがな、まだ言ってないんだよ。」





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作者です!

3章は本編あと3話くらいで完結予定です。

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