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悩める子羊(にんげん)に救いの手を
4.
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午前二時の時報と共に、番組のテーマが流れる。DJブースの諸定位置についた二人はそれだけで絵になっていた。
白鬼がテンションを上げて声を張れば、銀狐がそれを支えるように合いの手を入れる。
「まだまだ週のはじまりチューズデイ!」
「だけど日付またぎのウエンズデイ?」
「やってきましたモノノケ……」
「レディオ!」
──こんな始まりだったのか。さすが、二人の息も合ってるなあ。
歌穂はスタジオの中で二人の姿を見ながら思わずため息をついた。
「今日、火曜日は毎週恒例、お悩み相談の日です! 老若男女、おっ噛まずに言えた!生きてる者も死んでる人も、悩みは尽きないわけで……」
「そうですよねえ。まさか死んでからも悩みがあるって、生前は思わないですよねぇ」
「最近どーよ、銀狐?」
「どーよ、ってざっくり言われても……まあ私の場合、気持ちのアップダウンがないのが悩みですかねえ」
「俺は怒りをコントロールできないのが悩みかな」
「それ、言えてます」
二人のトークが続く間に、どしどしメールが届き始める。
「わー」
思わず歌穂が声を上げてしまうほど、どしどしとメールボックスが埋まっていく。どこから手をつけていいのか悩む歌穂に、豆助が「落ち着いて」と助言してくれた。
「まずは斜め読みしてください。そのうち覚えると思いますけど、ヘビーリスナーさんも多いです。一人で何通も出してくださる方もいますし」
──ほんとだ。
実際よく見てみると、一人で十通もメールをくれている人もいる。
「いつもは僕が選んでいるんですけど、歌穂さんの視点で選んでみてください。きっと女性ならではの意見もあると思うんで」
「わ、わかりました!」
豆助に任せてもらえてもらったと思うと嬉しさとやりがいを感じて、返事にもつい力が入る。
「まあそんなに固くならないで」
豆助に再び苦笑されてしまった。
──どれどれ。
私はすぐにメールの内容に没頭し始めた。悩みの内容はそれぞれだったが、現在の歌穂たちと変わらないもののように思えた。
恋愛に関すること、友達に関すること、残された家族に関すること。クスッと笑える明るい調子のものもあれば、こちらが息苦しくなるような深刻なものもあった。かと思えば悩み相談の体を借りた白鬼、銀狐への熱烈なラブコールもあり、拍子抜けしたりもする。
──本当なら全員の悩みに答えてあげたいけど。
ラジオ番組で流れたとして、聴いている人が共感したり笑えたり、ほろりとできるものはどんなものか。
──これは選ぶのに悩むなあ。
豆助が選んだのは気楽な感じの恋愛相談や、死人だけど此岸で流行のスイーツが食べてみたい、と言ったエンタテインメント性の高い悩み相談が多かった。
──なるほど、しんみり系は敢えて入れていない、か。
歌穂はまだモノノケレディオを聴くのは二回目。きっとこの番組のリスナーは、明るくポップな内容を期待しているのかもしれない。
そう思い返してみると、前回の内容も笑いを重視していた気がする。若い子たちの好きな、いわゆる深夜ラジオのノリだ。
──でも、銀狐さんのしっとりした声でこんな内容を紹介するのもいいのかもしれない。
歌穂は読んでいて気になったメールを一通だけ選び出した。
「これ、どうでしょうか?」
「どれどれ?」
豆助は横からパソコンのディスプレイを覗きこむ。そして上下にすばやく画面をスクロールさせると、小さくため息をついた。
「……なるほどね」
小柄で可愛らしい豆助の目は、完全に厳しいラジオ制作者のものだった。歌穂は胸を高鳴らせて返答を待つ。
「いいと思う。エンディング近くで、銀狐さんに読んでもらいましょう」
歌穂の思惑は、確実に豆助に伝わったようだ。
「はい! ありがとうございます」
プリントアウトを促され、歌穂は印刷を選択するとプリンタまで走った。
──このメールを、あの人はどんなふうに読むんだろう。
歌穂は一人のリスナーとして、単純に楽しみだった。
白鬼がテンションを上げて声を張れば、銀狐がそれを支えるように合いの手を入れる。
「まだまだ週のはじまりチューズデイ!」
「だけど日付またぎのウエンズデイ?」
「やってきましたモノノケ……」
「レディオ!」
──こんな始まりだったのか。さすが、二人の息も合ってるなあ。
歌穂はスタジオの中で二人の姿を見ながら思わずため息をついた。
「今日、火曜日は毎週恒例、お悩み相談の日です! 老若男女、おっ噛まずに言えた!生きてる者も死んでる人も、悩みは尽きないわけで……」
「そうですよねえ。まさか死んでからも悩みがあるって、生前は思わないですよねぇ」
「最近どーよ、銀狐?」
「どーよ、ってざっくり言われても……まあ私の場合、気持ちのアップダウンがないのが悩みですかねえ」
「俺は怒りをコントロールできないのが悩みかな」
「それ、言えてます」
二人のトークが続く間に、どしどしメールが届き始める。
「わー」
思わず歌穂が声を上げてしまうほど、どしどしとメールボックスが埋まっていく。どこから手をつけていいのか悩む歌穂に、豆助が「落ち着いて」と助言してくれた。
「まずは斜め読みしてください。そのうち覚えると思いますけど、ヘビーリスナーさんも多いです。一人で何通も出してくださる方もいますし」
──ほんとだ。
実際よく見てみると、一人で十通もメールをくれている人もいる。
「いつもは僕が選んでいるんですけど、歌穂さんの視点で選んでみてください。きっと女性ならではの意見もあると思うんで」
「わ、わかりました!」
豆助に任せてもらえてもらったと思うと嬉しさとやりがいを感じて、返事にもつい力が入る。
「まあそんなに固くならないで」
豆助に再び苦笑されてしまった。
──どれどれ。
私はすぐにメールの内容に没頭し始めた。悩みの内容はそれぞれだったが、現在の歌穂たちと変わらないもののように思えた。
恋愛に関すること、友達に関すること、残された家族に関すること。クスッと笑える明るい調子のものもあれば、こちらが息苦しくなるような深刻なものもあった。かと思えば悩み相談の体を借りた白鬼、銀狐への熱烈なラブコールもあり、拍子抜けしたりもする。
──本当なら全員の悩みに答えてあげたいけど。
ラジオ番組で流れたとして、聴いている人が共感したり笑えたり、ほろりとできるものはどんなものか。
──これは選ぶのに悩むなあ。
豆助が選んだのは気楽な感じの恋愛相談や、死人だけど此岸で流行のスイーツが食べてみたい、と言ったエンタテインメント性の高い悩み相談が多かった。
──なるほど、しんみり系は敢えて入れていない、か。
歌穂はまだモノノケレディオを聴くのは二回目。きっとこの番組のリスナーは、明るくポップな内容を期待しているのかもしれない。
そう思い返してみると、前回の内容も笑いを重視していた気がする。若い子たちの好きな、いわゆる深夜ラジオのノリだ。
──でも、銀狐さんのしっとりした声でこんな内容を紹介するのもいいのかもしれない。
歌穂は読んでいて気になったメールを一通だけ選び出した。
「これ、どうでしょうか?」
「どれどれ?」
豆助は横からパソコンのディスプレイを覗きこむ。そして上下にすばやく画面をスクロールさせると、小さくため息をついた。
「……なるほどね」
小柄で可愛らしい豆助の目は、完全に厳しいラジオ制作者のものだった。歌穂は胸を高鳴らせて返答を待つ。
「いいと思う。エンディング近くで、銀狐さんに読んでもらいましょう」
歌穂の思惑は、確実に豆助に伝わったようだ。
「はい! ありがとうございます」
プリントアウトを促され、歌穂は印刷を選択するとプリンタまで走った。
──このメールを、あの人はどんなふうに読むんだろう。
歌穂は一人のリスナーとして、単純に楽しみだった。
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