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野糞をしていただけなのに、変な異世界に召喚された
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どこにでもいる感じの中肉中背の高校生、森中便(もりなかたより)は、森と一つになっていた。制服姿の少年は、土の匂いを感じ、植物から新鮮な酸素を享受し、虫のオーケストラたちの演奏に耳を傾けた。
至福の時が便に訪れた。大地から受けた恵みを、再び大地へと返したのだ。しかし、その時だった。下半身が生まれたままの姿の便の目の前にポッカリと黒い穴が空き、彼を吸い込んだ。
気づくと便は、ウンチングスタイルのまま大理石を基調とした王宮と思しきところにいた。普通なら戸惑うところだが、ラノベ好きの便はすぐに理解した。これは、異世界へ召喚されたのだと。
視線を上げると、玉座に座った綺羅びやかな王冠を被った女王と思しき人と目があった。便は手にしていた葉っぱを割れ目に素早く挟み込みながら制服のズボンを上げた。広い部屋の端から兵士たちの笑いをこらえる声が聞こえてきたが無視した。
唖然としていた女王は、気を取り直し口を開いた。
「えっと、お取り込み中失礼しました。突然ですが、貴方様に、勇者様に討伐していただきたい者がおります」
便は、心のなかでほくそ笑んだ。この展開は、自分はこの世界では超人で異能を操る存在だと確信したからだった。
「何なりとお申し付けください。この勇者がその力で悪をくじきましょう」
女王は、しまっていなかったズボンのチャックをしめながら真顔で断言する便に、少し困惑しながらもにこやかに首肯した。
「さすが勇者様、話が早いです。では魔珍王を倒すために必要な仲間と武器を隣の部屋のガチャで揃えましょう」
そう言って玉座から、ドレス姿でムーンサルトを決めて降り立った女王は便を手招きした。
「は、はい。え? 魔珍王? ガチャ? つーかムーンサルト!」
「どうされました勇者様?」
「いや、あの色々思っていた世界観と違うのと、女王様の身体能力に驚かされまして」
「そういえば以前来た勇者様もそんなことをおっしゃっていました。では、気にせず行きましょう」
便は女王の押しの強さに屈した形で彼女の後を追った。
そこは、隣の玉座の間と変わらない広さの部屋で造りも同じだった。しかし、明らかな違いがすぐに見て取れた。部屋には巨大なガチャマシーンが2つ配置されていたのだ。
「ガチャはキャラガチャと武器ガチャに分かれていて初回無料。そして、新米勇者キャンペーンでどちらもう一回無料で回せます。リセマラはなしです」
女王のまくしたてるような説明に目を白黒させながら、便は自分の状況を予想した。
「ソシャゲの中なのか? 夢オチなのか?」
便は仮にこれが夢を落ちだとすると、う○こ漏らしてる可能性があると思いつつもキャラガチャの前に進んだ。キャラガチャの表面は白い液晶のような感じで中が見えないが、何者かが蠢く気配がしていて気持ちが悪い。
便は初回無料と心のなかで唱えつつデカイ取っ手を回した。するとガチャの表面にクズレアと表示された後、ガシャンと音がして、ゴロゴロと玉が転がり出てきて加速し、そのまま壁に勢いよくぶつかりカプセルは粉々に砕けた。どうやらカプセルはガラス製のようだった。
心配になった便が駆け寄ると、血だらけの少しふっくらした感じの金髪碧眼の少女が、何故か一緒に入っていた台車にすがりつきながら、片手でドレスの裾を掴んで貴族のようにお辞儀をして自己紹介をした。
「ワタクシ、ミジョーおうぇワイズマンうおぇと申します。勇者様、よろしく……」
そう言いながら台車に倒れ伏した。どうやら目が回ったらしい。
「おい、大丈夫か?」
便がミジョーの肩を揺さぶると、もう立ち直ったのか、何事もなかったように彼女は台車の上に体育座りをした。
「ん? どうした?」
ミジョーは、血をハンカチで拭いながら信じがたい事実を告げた。
「ワタクシは、優秀な賢者でございます。しかしながら両膝を壊しまして歩けないのです」
そう言って、便に期待の目を向ける。
「えっと、俺にこの台車を押せと?」
「そうなっちゃいますね」
照れ笑いするミジョーを見捨てるように便は踵を返した。
「ちょ、待って勇者様!」
ミジョーは腕で台車をコントロールしながら便の後を追った。
便はガチャの横にいた女王に懇願するように言った。
「引直させてください!」
「リセマラなし!」
女王は腕でバツを作って却下した。
「そんな……」
便は恨みがましく後ろからくるポンコツを見た。
「まあ、もう一回引けますから」
女王の言葉にキャンペーンを思い出し、便は再びキャラガチャに対峙した。
「勇者様、頑張ってワタクシとまでは言いませんが、良いキャラを引いてください」
ミジョーの励ましに、クズレアのお前が言うなと思いつつ再びガチャを回した。ガチャ表面にカスレアと表示され、やはり同じようにカプセルは壁に激突して粉々に砕け散った。そして、全身から血を吹き出しながら立ち上がったのは、スラッとした長身の剣道の時に着用するような稽古着姿の黒髪ロングの少女だった。
二連続で外したショックに呆然としている便を尻目に、彼女は髪をかき上げると、傍らに落ちていた日本刀を拾うと、一礼して自己紹介に入った。
「拙者、トーコ・シドーおぇと申します。見ての通り、おぇ侍でござる。宜しくモロモロモロぐぅおぇがいします」
トーコは、盛大に戻しながら自己紹介を終えた。
「う、うん宜しく」
便は、遠巻きに挨拶を終えると、今度は武器ガチャに相対した。武器だけは何としても良いものをと意を決してハンドルを回すと、自販機のように現物が落ちてきて、足元に転がった。武器の方は何故かカプセルに入っていなかった。ちなみにゴミレアと表示されている。その表示通り、便の足元に転がった物は、長めの単なる木の棒にしか見えなかった。
「あの、これは……」
便が女王に視線を向けると、視線をそらしながら笑いを堪えながら返答した。
「それは、エクスカリ棒です」
「は?」
「私が拾った棒にエクスカリバーっぽい名前をつけて入れたハズレです」
「ええ、ゴミレアですもんね。で、どこのどいつを倒すんでしたっけ? 秒で終わらせて帰りますわ」
明らかにテンションダダ下がりの便を励ますように、女王はドレスの下の腹巻きから札束を取り出して便に手渡した。
「これはこの世界の通貨で100エンです。日本円で100万円相当のお金です」
便はややこしいなと思いつつ、100万貰えるならまあいいかと気を取り直した。
「そうだ、まちんこ王でしたっけ? どこにいるんです?」
「いえ、魔珍王です。彼はこのグソーノ城の港からノーション町へ渡り、その先のパンパイ砂漠のどこかにいるらしいです」
入れ替えると不穏な地名ばかりだと思いつつも、便は仲間に振り返って言った。
「さあ出発だ!」
だが、仲間たちは低血圧で倒れていて返答はなかった。こうして、ポンコツ達の旅は始まった。
近くの公園で、城を出る時に貰ったおにぎりをそれぞれが頬張っていた。朝日を浴びつつ勇者一行は、作戦会議をしているのだった。話し合った結果、城下町でちゃんとした装備を整えることになった。たが、町へ繰り出してみると、普通のナイフが100エンで売っているのを発見し、ハイパーインフレーション状態であることを知った。
女王に文句をつけようと戻ったが、門前の兵士に魔珍王を倒してからしか会えないと言われ、騙されたことを知り臍を噛んだ。しかし、文句を言いたい相手にも会えないので黙って任務の遂行に移ることにした。だが……。
「船賃一人3000エン。ジンバブエか!」
予想はしていたが港に着いて便たちは驚いた。これでは敵にたどり着けない。困って便が途方に暮れていると、トーコがRPGっぽい提案をしてきた。
「勇者殿、外で敵を倒してエンを稼ぎましょう」
「え? モンスターって金落とすの?」
「もちろんです」
そもそものRPGでも、自分たちで使いもしない金をモンスターが持っているのことに疑問だが、ここでもそうらしい。それとも奴らは悪い人間とその金で取引したりするのだろうか?
いろいろな疑問が浮かんだ便だったが、何はともあれ金策に走ろうと勇者一行は外へ出たのだった。
「あの、すごい魔王っぽいモンスターなんだが……つーかゾー○だよな、これ」
町の外に出て最初にエンカウントしたのは、○ーマっぽいモンスターだった。
「こいつは野良魔王です。異世界からちょくちょく来るんでござる」
便はトーコの解説を信じるしかないとは思いつつ、いきなりこいつはゲームバランスがおかしいだろう、つーか死ぬぞこれと冷や汗をかいていた。
「我が名は、ゾマモス。お主たちは勇者一行だな、ならば殺す! 取り敢えず殺す!」
よく棒を持ってるだけの少年を勇者と見抜いたなと思いつつ便たちは身構えた。
魔王は理解不能な言葉を唱えると大きな火球を手のひらの上に出現させ、便に投げつけた。しかし便はとっさに野球のスイングよろしく球を打ち返した。そしてその火球は、狙い違わず見事に魔王に直撃した。
便は自分で驚きつつ、これだけは俺の思っていた通りだとニヤリと笑った。そして、あまりダメージのなさそうな魔王も、満足そうに不敵な笑みを浮かべた。
「さすが勇者だ」
そう魔王が言った次の瞬間、トーコの突きが魔王の腹部を襲った。しかし、魔王は片手で難なく受け流した。それでもトーコは片手での攻撃を続ける。
「おい! 両手を使え!」
「勇者殿、言い忘れていたのでござるが、拙者の左肩は壊れてござる。
「そんなこったろうと思った」
やはり片手での攻撃では力も速さも足りず、魔王は安安と避け続けている。そこへ、自力で台車を手で漕いできたミジョーが合流してきた。
「どいて! マラミ!」
ミジョーの放った炎は男性器の形になり魔王を包み込んだ。だが、それも決定打にはならなかった。そこで便は、何だったんだあのチ○コ魔法と思いつつ、仲間たちの奮闘に負けじと魔王の頭に棒を叩きつけた。棒は魔王の頭をかち割り、脳漿をぶちまけた。予想外の威力にびびった便はつい叫んでいた。
「ごめん!」
しかし、倒れ伏した魔王からの返答はない。代わりに沢山の札束が草むらの上に落ちていた。
少しショックを受けていた便だったが、何者かの視線を感じた……死んだはずの魔王が立ち上がって、仲間になりたそうにこっちを見ていた。
「死んだんじゃないのかよ。つーか、魔王仲間になるのか?」
疑問を持ちながらも手招きすると、嬉しそうにこちらへ走り寄ってきた。ただ、どんどん縮んでいき、便の肩に空中に浮かびながら乗ってきた。
「何で小さくなった?」
「仲間になったらレベル1からに決まっておろう」
手乗り魔王は、さも当然といった表情で答えた。どうにも納得いかなかったが、魔王から巻き上げた金でノーション町へ向かうことにした。
着いてすぐにわかったが、ノーションはイカれていた。男性住民全員の上着の乳首の周りが丸く切り取られた状態で生活していたのだ。そんな異常事態にも関わらず、町民は平然と暮らしていた。ただ、外部から来た旅人たちは、笑いを噛み殺すのに精一杯のようだった。
「流行りでしょうか?」
ミジョーが、いかつい感じのおっさんを見ながら呟くと、それを聞いたおっさんが怒りの形相で近づいてきた。
「こんなもん流行るか! 魔珍王サクレコンチにかけられた呪いだ。どんな服を着てもこうなっちまうんだ」
ため息をつきながら語るおやじに、便は同情を見せつつ情報収集へ入った。
「我々は、その魔珍王討伐を仰せつかった勇者一行です。そいつは今どこにいるかご存知ですか?」
「ああ、やつはパンパイ砂漠のどこかにいるらしいが、シースルーキャッスルと呼ばれる見えない城で移動しているらしい。それを見つけるには大樹海にある珍宝館の秘宝が必要らしい」
「いや、あの、ご都合主義のアドバイスありがとうございました」
こうして、勇者一行は珍宝館へ向かった。
昼でも暗い鬱蒼とした森に、一行は苦戦していた。
「さすが大樹海だけあって、どこがどこだかわからん」
つまり、便たちはすっかり迷子になっていたのだった。
「勇者殿」
トーコが青い顔をしている。
「どうした」
「拙者、糞をひってまいりたき所存でござる」
「うん、内容まで伝えんでよろしい」
「リーダーには正確に言ったほうがよろしいかと……」
「いいから、黙っていけ」
「ラジャでござる」
便は、こいつのキャラが掴めないと思いつつ、手で追い払うようにトーコを草むらへ誘導した。すると、トーコはすぐそこの草むらにしゃがんだ。
「ちょっと待て、流石にもう少し奥にいけ」
「え! もう先っぽが……わかったでござる」
便は、少しやつれながらミジョーに目線を送り同情してもらおうとしたが、そうはいかなかった。
「ワタクシもしたいので、手伝ってくださいませ」
「は?」
「後ろから太ももを抱えてシーと」
「子どもか!」
「うちのメイドたちはみんなしてくれたんですが……」
「甘やかしすぎだろ。つーかメイドにしてもらえよ」
「いえ、我がワイズマン家は没落してみんな散り散りになってしまったのでメイドなんていないですよ、やだなーもー」
唐突に暗い話をし始めたミジョーに引いていると、トーコが帰ってきた。
「ふー。バナナ1,モンキーバナナ1でござる」
最初何を言われたか分からなかった便だったが、内容を把握して突っ込んだ。
「は? いや、汚ねーな、内容報告すんなよ」
「いや、リーダーには健康状態の参考に伝えたほうが……」
「いらないってさっき言ったよね? それより、ミジョーの面倒を見てくれ」
便の肩に乗ったミニ魔王ゾマモスがしみじみと言った。
「お主も大変だな」
「ああ」
まったくだと思った便は、自分も野に放とうと森へ分け入った。すると大きな洋館が建っていることに気づて、用を足してから二人を呼んだ。
その洋館の前には、木でできた巨根のオブジェが飾ってあった。入り口の扉の横には“珍宝”という表札がかけられていた。
「何なのこの世界?」
便は嘆きつつも扉をノックした。すると中からおかっぱヘアーの小柄な少女が顔を出した。少女は巫女のような装束を纏っていて、神聖な雰囲気を感じた。
「勇者様ですね。来ることはわかっていました」
そう言った少女は、装束の中から2つの透明の玉が連なった物と、怪しい形の棒を地面にぽいっと投げ捨てた。
「え?」
呆気にとられた勇者一行だったが、少女は意に介さず説明を始めた。
「その玉に棒を乗せて念じれば行く先を教えてくれる。んじゃ」
そう言ってバタンと扉が閉まって出てくる気配はない。
「機嫌が悪かったのか?」
便が仲間に聞くも、答えられる者はいなかった、
一行は暮れかけているパンパイ砂漠に到着していた。広漠としていて生物の影もないと思いきや、すぐに行く手を遮る者が現れた。
「勇者一行だな。ワテは、魔珍王様の配下ソチーンだ。お命頂戴つかまつる」
その男は、上はきっちりとしたスーツにネクタイをしていたが、蝶を模した怪しい仮面をつけていた。何より目を引いたのは、下半身はブリーフ一丁だったことだった。
「マラミ!」
その時、ミニ魔王に台車を押されながら追いついてきたミジョーが魔法を放った。
「小賢しい」
ソチーンは不敵に笑うと飛んで避けた……はずだったが、砂に足を取られてその場にこけ、魔法が直撃した。もはやピクリとも動かない。
「こやつ、なにしに出てきたのでござろう?」
「知らん」
そんな会話をしていると、いつの間にかソチーンが、仲間になりたそうにこちらを見ていた。
「いや、ラスボスの部下を仲間にすることはないだろ」
ぼそっと言った便の言葉を聞くと、ソチーンは悲しそうに去っていった。その悲しき後ろ姿を見ていると、トーコがおかっぱから受け取った秘宝“チ○コ型方位磁針”(正式名称は知らない)を指差した。
「反応してます、棒の先端が光りながら行く先を示しています」
しかもご丁寧に、棒部分にこの先100メートルと書いてある。ただ単位が知っているものなのか、それとも100エンと同じケースかわからないのでトーコに尋ねた。
「これはどのくらいの距離なんだ?」
「すぐそこです。平地で早い人なら9秒ぐらいです」
便はこの単位は同じなのかよと思いつつ、ミジョーを振り返って言った。
「大体の位置でいいから、宣戦布告がてら100メートル先の城に魔法を放ってくれ。ひょっとしたら向こうから出てきてくれて手間が省けるかもしれない」
「わかりましたメガマーラ!」
言うが早いか食い気味にミジョーが、マラミの強化版と思しき巨大なチ○コ型の炎を放った。それは爆音を立て、何かを破壊した音をたてた。それと同時に城にかけられていた魔法が解けて、瓦礫の山が姿を現した。そしてそこから、ひょっとこのお面を被った、コテカと乳首洗濯ばさみを装着した男が怒り狂いながら飛び出てきた。
「だーれ、こんな非常識なことするの! ここが誰のお家かわかっているの? 魔珍王サクレコンチ様の素敵でハッピーなお家なんだから!」
オネエ系の魔珍王は、憤懣やるかたない表情で勇者一行を睨めつけた。
「お前が魔珍王だな? 我々は勇者一行だ! お前の悪行を正しに来た!」
「いきなり人の家壊して何言ってるの? 馬鹿じゃないの?」
一瞬、便は確かにそうだと思ったが、ノーションの町の男たちの屈辱を思い出し、目の前の変態を討伐する決意を固めた。
「そんな格好の奴にバカ呼ばわりされる筋合いはない! 兎に角ぶっ倒す」
そんな便を見て魔珍王は、笑い始めた。
「この魔珍王様が、お前らごときに勝てると思っているの? いいじゃない、相手してあげる」
「ふっ、随分と自信が……ん?」
便が魔珍王の言動の間違いに気づいたところで、魔珍王は腰をグルグル回し始めた。そして、見る間にそのスピードは高速へ達し、トーコへ迫った。
「く、来るな変態! どうぁっ! 右肩も壊れたーーー!」
そう言ってトーコは、遠くへすっ飛ばされて星となった。
「次はお前だ!」
そう言って魔珍王は、ミジョーとその台車を押していたゾマモスに迫る。だがミジョーは、事前に魔法の詠唱を終えていた。
「チンサム!」
ミジョーの掌から放たれた寒そうな空気が、敵の股間を撃つ。
「チ○コひゃっこい!」
効果があったようで、魔珍王は、コテカを両手で寒そうに包み込んだ。
「でかしたミジョー!」
便はスキのできた敵の頭頂部に棒を振り下ろす。会心の一撃……と思われた攻撃は、魔珍王の両手に阻まれていた、いわゆる白刃取りというやつである。しかし、便はその間隙を見逃さなかった。
エクスカリ棒から手を離すと、素早い手付きで両乳首の洗濯ばさみを引っ張り取った。
「ぎゃーあたいの一張羅が! あと痛い、すごい痛い!」
魔珍王は乳首を両手で覆いながら砂に倒れ伏した。
「悪は滅びた。みんな城に凱旋だ!」
便が高らかに叫ぶと視線を感じた。魔珍王が仲間になりたそうにこっちを見ている。
「いや、それもういいから!」
こうして一行は、悲しそうに去っていった魔珍王を尻目に、帰路へついたのだった。
「あのーこんにちは」
便は珍宝館の扉をノックした。しょーもない秘宝だが、一応返しに来たのだった。だが、返答がない。
「あれ、空いているぞ」
勝手に扉を開けたゾマモスが便を見やる。
「一応秘宝だし、勝手に置いて帰るのも不用心な気もするが……」
悩んでいる便にミジョーがアドバイスする。
「でも、あまり大事に扱っている感じではなかったですよ」
「確かにそうなんだけど……ん?」
中から人の叫び声と、物が壊れる音がする。
「行ってみよう」
こうして便と、台車に乗ったミジョーと、それを押す係のゾマモスは中へ入っていった。
「なんでJKがデカイチ○コの御神体を毎日拝まなきゃならんのじゃーーー!」
おかっぱ少女が、御神体と思われる透明な巨大チ○コをボコボコに蹴りつけていた。周りに飾ってあったと思われる小さいチ○コたちが無残に砕かれ、神棚だったものも粉々にされ散乱していた。
見ては行けないものを見たと思った一行は、抜き足差し足忍び足でその場を去ろうとしたが、おかっぱ少女はそれを見逃さなかった。
「見ましたね?」
その目がランランと輝いている。
「いや、いま来たとこだよ。全然見てないよ。それで今日はどこ遊びに行こうか?」
「そうなんだー良かったー。亀頭子ねーグソーノの美術館に行きたいのー……ってごまかせるか! 死ね勇者共!」
便たちは混乱していた、まず展開が意味不すぎだし、名前も完全にあれだし、おかっぱの頭から角が二本生えてきている。そして、小柄だった体が今や便の3倍ほどになっていた。
「いや、見てないですよ何も」
この期に及んで白を切る便に、
「嘘を付くな、こうなることはわかっていたー!」
と、珍宝亀頭子は、飛沫を沢山飛ばしながら怒鳴った。
「それなら何であんなことしてたんだよ。知ってたんならご乱心姿を見せなきゃいいだけの話だろ!」
「しっかり見てるじゃないか! ナガペニー様の威力を思い知れ!」
亀頭子が、御神体を肩に担ぐとブンブンと回して攻撃態勢に入った。
「何なんだその名前、何なんだこの展開!」
そう叫びながら便は、名棒エクスカリ棒を構えた。
戦いは熾烈を極めた。魔珍王とは何だったのかという強さだった。狭い空間でミジョーの強力な魔法は使えず、ゾマモスは台車を移動させるのに精一杯、便も亀頭子の膂力に押されていた。
そしてついに、便が壁際に追い込まれて諦めかけたときだった。
「とうりゃぁああ」
何者かの飛び蹴りが、亀頭子の顔面に直撃した。油断していたのと、蹴りがクリーンヒットしたことの相乗効果で亀頭子は後ろに倒れ伏した。
「逃げるでござるよ!」
それはトーコだった。すかっり忘れていた。
「お、おう」
こうして一行は九死に一生を得て、今度こそ帰路についた。
船の中で、ネチネチとトーコから砂漠に見捨てたことに対する恨み節を聞かされた以外は、何事もなくグソーノ城まで帰ってきた。どういうわけか、魔珍王討伐成功の知らせは女王まで届いていた。ひょっとすると、呪いの解けたノーション町の人が伝えてくれたのかもしれない。
城に入ると、兵士たちが整列して迎えてくれた。女王の間の玉座には、微笑みを浮かべた女王が待っていた。
「よくぞ帰ってきました。あなた方の活躍は聞き及んでいます」
そこで便は、女王に騙されたことを思い出した。
「あの、むっちゃインフレしてて100エンじゃどうにもならなかったんですけどそれは……」
「すいませんこちらの手違いがありました。私が常識を知らないばかりに……」
テヘペロする女王を見た便は怒りをあらわにした。
「いや、城に帰ってきた俺ら追っ払っただろーが!」
「それは、兵士が勝手に判断したんですよー、そうゆう悪い兵士は八つ裂きの刑に処すので許してください」
「そこまでする必要はないけど……」
そう便が妥協しかけたときだった。城の中の明かりが消え、低い女の声が城内に響いた。
「わっちは、魔珍王サクレコンチが姉、魔満女王サクレコンマ。弟の恨みを晴らしてくれようぞ。勇者たちよ、わっちの城がある、クサマーン国ジルマーン県にある、希望ハイツ203号室まで来るでありんす。逃げるでないぞえ……」
明かりが戻ると、女王が深刻そうな顔で便に問う。
「勇者様、どうしましょう?」
「いや、住所が明らかアパートじゃね? つーか今まで突っ込んで来なかったけど最初から最後まで下ネタ! 全部下ネタ! 馬鹿らしい帰る」
「え? 何でです? 下ネタ面白くないですか?」
踵を返した便に、女王がさも当然に言う。
「いや、知ってたのかよ。だとしたらどうかしてるわ!」
怒り狂った便は振り向きざまに、エクスカリ棒と尻に挟んだままだった葉っぱを投げ捨てると、大した能力も発揮せず日帰りで終わったなと思いつつ、この下ネタ異世界を後にしたのだった。
(終)
至福の時が便に訪れた。大地から受けた恵みを、再び大地へと返したのだ。しかし、その時だった。下半身が生まれたままの姿の便の目の前にポッカリと黒い穴が空き、彼を吸い込んだ。
気づくと便は、ウンチングスタイルのまま大理石を基調とした王宮と思しきところにいた。普通なら戸惑うところだが、ラノベ好きの便はすぐに理解した。これは、異世界へ召喚されたのだと。
視線を上げると、玉座に座った綺羅びやかな王冠を被った女王と思しき人と目があった。便は手にしていた葉っぱを割れ目に素早く挟み込みながら制服のズボンを上げた。広い部屋の端から兵士たちの笑いをこらえる声が聞こえてきたが無視した。
唖然としていた女王は、気を取り直し口を開いた。
「えっと、お取り込み中失礼しました。突然ですが、貴方様に、勇者様に討伐していただきたい者がおります」
便は、心のなかでほくそ笑んだ。この展開は、自分はこの世界では超人で異能を操る存在だと確信したからだった。
「何なりとお申し付けください。この勇者がその力で悪をくじきましょう」
女王は、しまっていなかったズボンのチャックをしめながら真顔で断言する便に、少し困惑しながらもにこやかに首肯した。
「さすが勇者様、話が早いです。では魔珍王を倒すために必要な仲間と武器を隣の部屋のガチャで揃えましょう」
そう言って玉座から、ドレス姿でムーンサルトを決めて降り立った女王は便を手招きした。
「は、はい。え? 魔珍王? ガチャ? つーかムーンサルト!」
「どうされました勇者様?」
「いや、あの色々思っていた世界観と違うのと、女王様の身体能力に驚かされまして」
「そういえば以前来た勇者様もそんなことをおっしゃっていました。では、気にせず行きましょう」
便は女王の押しの強さに屈した形で彼女の後を追った。
そこは、隣の玉座の間と変わらない広さの部屋で造りも同じだった。しかし、明らかな違いがすぐに見て取れた。部屋には巨大なガチャマシーンが2つ配置されていたのだ。
「ガチャはキャラガチャと武器ガチャに分かれていて初回無料。そして、新米勇者キャンペーンでどちらもう一回無料で回せます。リセマラはなしです」
女王のまくしたてるような説明に目を白黒させながら、便は自分の状況を予想した。
「ソシャゲの中なのか? 夢オチなのか?」
便は仮にこれが夢を落ちだとすると、う○こ漏らしてる可能性があると思いつつもキャラガチャの前に進んだ。キャラガチャの表面は白い液晶のような感じで中が見えないが、何者かが蠢く気配がしていて気持ちが悪い。
便は初回無料と心のなかで唱えつつデカイ取っ手を回した。するとガチャの表面にクズレアと表示された後、ガシャンと音がして、ゴロゴロと玉が転がり出てきて加速し、そのまま壁に勢いよくぶつかりカプセルは粉々に砕けた。どうやらカプセルはガラス製のようだった。
心配になった便が駆け寄ると、血だらけの少しふっくらした感じの金髪碧眼の少女が、何故か一緒に入っていた台車にすがりつきながら、片手でドレスの裾を掴んで貴族のようにお辞儀をして自己紹介をした。
「ワタクシ、ミジョーおうぇワイズマンうおぇと申します。勇者様、よろしく……」
そう言いながら台車に倒れ伏した。どうやら目が回ったらしい。
「おい、大丈夫か?」
便がミジョーの肩を揺さぶると、もう立ち直ったのか、何事もなかったように彼女は台車の上に体育座りをした。
「ん? どうした?」
ミジョーは、血をハンカチで拭いながら信じがたい事実を告げた。
「ワタクシは、優秀な賢者でございます。しかしながら両膝を壊しまして歩けないのです」
そう言って、便に期待の目を向ける。
「えっと、俺にこの台車を押せと?」
「そうなっちゃいますね」
照れ笑いするミジョーを見捨てるように便は踵を返した。
「ちょ、待って勇者様!」
ミジョーは腕で台車をコントロールしながら便の後を追った。
便はガチャの横にいた女王に懇願するように言った。
「引直させてください!」
「リセマラなし!」
女王は腕でバツを作って却下した。
「そんな……」
便は恨みがましく後ろからくるポンコツを見た。
「まあ、もう一回引けますから」
女王の言葉にキャンペーンを思い出し、便は再びキャラガチャに対峙した。
「勇者様、頑張ってワタクシとまでは言いませんが、良いキャラを引いてください」
ミジョーの励ましに、クズレアのお前が言うなと思いつつ再びガチャを回した。ガチャ表面にカスレアと表示され、やはり同じようにカプセルは壁に激突して粉々に砕け散った。そして、全身から血を吹き出しながら立ち上がったのは、スラッとした長身の剣道の時に着用するような稽古着姿の黒髪ロングの少女だった。
二連続で外したショックに呆然としている便を尻目に、彼女は髪をかき上げると、傍らに落ちていた日本刀を拾うと、一礼して自己紹介に入った。
「拙者、トーコ・シドーおぇと申します。見ての通り、おぇ侍でござる。宜しくモロモロモロぐぅおぇがいします」
トーコは、盛大に戻しながら自己紹介を終えた。
「う、うん宜しく」
便は、遠巻きに挨拶を終えると、今度は武器ガチャに相対した。武器だけは何としても良いものをと意を決してハンドルを回すと、自販機のように現物が落ちてきて、足元に転がった。武器の方は何故かカプセルに入っていなかった。ちなみにゴミレアと表示されている。その表示通り、便の足元に転がった物は、長めの単なる木の棒にしか見えなかった。
「あの、これは……」
便が女王に視線を向けると、視線をそらしながら笑いを堪えながら返答した。
「それは、エクスカリ棒です」
「は?」
「私が拾った棒にエクスカリバーっぽい名前をつけて入れたハズレです」
「ええ、ゴミレアですもんね。で、どこのどいつを倒すんでしたっけ? 秒で終わらせて帰りますわ」
明らかにテンションダダ下がりの便を励ますように、女王はドレスの下の腹巻きから札束を取り出して便に手渡した。
「これはこの世界の通貨で100エンです。日本円で100万円相当のお金です」
便はややこしいなと思いつつ、100万貰えるならまあいいかと気を取り直した。
「そうだ、まちんこ王でしたっけ? どこにいるんです?」
「いえ、魔珍王です。彼はこのグソーノ城の港からノーション町へ渡り、その先のパンパイ砂漠のどこかにいるらしいです」
入れ替えると不穏な地名ばかりだと思いつつも、便は仲間に振り返って言った。
「さあ出発だ!」
だが、仲間たちは低血圧で倒れていて返答はなかった。こうして、ポンコツ達の旅は始まった。
近くの公園で、城を出る時に貰ったおにぎりをそれぞれが頬張っていた。朝日を浴びつつ勇者一行は、作戦会議をしているのだった。話し合った結果、城下町でちゃんとした装備を整えることになった。たが、町へ繰り出してみると、普通のナイフが100エンで売っているのを発見し、ハイパーインフレーション状態であることを知った。
女王に文句をつけようと戻ったが、門前の兵士に魔珍王を倒してからしか会えないと言われ、騙されたことを知り臍を噛んだ。しかし、文句を言いたい相手にも会えないので黙って任務の遂行に移ることにした。だが……。
「船賃一人3000エン。ジンバブエか!」
予想はしていたが港に着いて便たちは驚いた。これでは敵にたどり着けない。困って便が途方に暮れていると、トーコがRPGっぽい提案をしてきた。
「勇者殿、外で敵を倒してエンを稼ぎましょう」
「え? モンスターって金落とすの?」
「もちろんです」
そもそものRPGでも、自分たちで使いもしない金をモンスターが持っているのことに疑問だが、ここでもそうらしい。それとも奴らは悪い人間とその金で取引したりするのだろうか?
いろいろな疑問が浮かんだ便だったが、何はともあれ金策に走ろうと勇者一行は外へ出たのだった。
「あの、すごい魔王っぽいモンスターなんだが……つーかゾー○だよな、これ」
町の外に出て最初にエンカウントしたのは、○ーマっぽいモンスターだった。
「こいつは野良魔王です。異世界からちょくちょく来るんでござる」
便はトーコの解説を信じるしかないとは思いつつ、いきなりこいつはゲームバランスがおかしいだろう、つーか死ぬぞこれと冷や汗をかいていた。
「我が名は、ゾマモス。お主たちは勇者一行だな、ならば殺す! 取り敢えず殺す!」
よく棒を持ってるだけの少年を勇者と見抜いたなと思いつつ便たちは身構えた。
魔王は理解不能な言葉を唱えると大きな火球を手のひらの上に出現させ、便に投げつけた。しかし便はとっさに野球のスイングよろしく球を打ち返した。そしてその火球は、狙い違わず見事に魔王に直撃した。
便は自分で驚きつつ、これだけは俺の思っていた通りだとニヤリと笑った。そして、あまりダメージのなさそうな魔王も、満足そうに不敵な笑みを浮かべた。
「さすが勇者だ」
そう魔王が言った次の瞬間、トーコの突きが魔王の腹部を襲った。しかし、魔王は片手で難なく受け流した。それでもトーコは片手での攻撃を続ける。
「おい! 両手を使え!」
「勇者殿、言い忘れていたのでござるが、拙者の左肩は壊れてござる。
「そんなこったろうと思った」
やはり片手での攻撃では力も速さも足りず、魔王は安安と避け続けている。そこへ、自力で台車を手で漕いできたミジョーが合流してきた。
「どいて! マラミ!」
ミジョーの放った炎は男性器の形になり魔王を包み込んだ。だが、それも決定打にはならなかった。そこで便は、何だったんだあのチ○コ魔法と思いつつ、仲間たちの奮闘に負けじと魔王の頭に棒を叩きつけた。棒は魔王の頭をかち割り、脳漿をぶちまけた。予想外の威力にびびった便はつい叫んでいた。
「ごめん!」
しかし、倒れ伏した魔王からの返答はない。代わりに沢山の札束が草むらの上に落ちていた。
少しショックを受けていた便だったが、何者かの視線を感じた……死んだはずの魔王が立ち上がって、仲間になりたそうにこっちを見ていた。
「死んだんじゃないのかよ。つーか、魔王仲間になるのか?」
疑問を持ちながらも手招きすると、嬉しそうにこちらへ走り寄ってきた。ただ、どんどん縮んでいき、便の肩に空中に浮かびながら乗ってきた。
「何で小さくなった?」
「仲間になったらレベル1からに決まっておろう」
手乗り魔王は、さも当然といった表情で答えた。どうにも納得いかなかったが、魔王から巻き上げた金でノーション町へ向かうことにした。
着いてすぐにわかったが、ノーションはイカれていた。男性住民全員の上着の乳首の周りが丸く切り取られた状態で生活していたのだ。そんな異常事態にも関わらず、町民は平然と暮らしていた。ただ、外部から来た旅人たちは、笑いを噛み殺すのに精一杯のようだった。
「流行りでしょうか?」
ミジョーが、いかつい感じのおっさんを見ながら呟くと、それを聞いたおっさんが怒りの形相で近づいてきた。
「こんなもん流行るか! 魔珍王サクレコンチにかけられた呪いだ。どんな服を着てもこうなっちまうんだ」
ため息をつきながら語るおやじに、便は同情を見せつつ情報収集へ入った。
「我々は、その魔珍王討伐を仰せつかった勇者一行です。そいつは今どこにいるかご存知ですか?」
「ああ、やつはパンパイ砂漠のどこかにいるらしいが、シースルーキャッスルと呼ばれる見えない城で移動しているらしい。それを見つけるには大樹海にある珍宝館の秘宝が必要らしい」
「いや、あの、ご都合主義のアドバイスありがとうございました」
こうして、勇者一行は珍宝館へ向かった。
昼でも暗い鬱蒼とした森に、一行は苦戦していた。
「さすが大樹海だけあって、どこがどこだかわからん」
つまり、便たちはすっかり迷子になっていたのだった。
「勇者殿」
トーコが青い顔をしている。
「どうした」
「拙者、糞をひってまいりたき所存でござる」
「うん、内容まで伝えんでよろしい」
「リーダーには正確に言ったほうがよろしいかと……」
「いいから、黙っていけ」
「ラジャでござる」
便は、こいつのキャラが掴めないと思いつつ、手で追い払うようにトーコを草むらへ誘導した。すると、トーコはすぐそこの草むらにしゃがんだ。
「ちょっと待て、流石にもう少し奥にいけ」
「え! もう先っぽが……わかったでござる」
便は、少しやつれながらミジョーに目線を送り同情してもらおうとしたが、そうはいかなかった。
「ワタクシもしたいので、手伝ってくださいませ」
「は?」
「後ろから太ももを抱えてシーと」
「子どもか!」
「うちのメイドたちはみんなしてくれたんですが……」
「甘やかしすぎだろ。つーかメイドにしてもらえよ」
「いえ、我がワイズマン家は没落してみんな散り散りになってしまったのでメイドなんていないですよ、やだなーもー」
唐突に暗い話をし始めたミジョーに引いていると、トーコが帰ってきた。
「ふー。バナナ1,モンキーバナナ1でござる」
最初何を言われたか分からなかった便だったが、内容を把握して突っ込んだ。
「は? いや、汚ねーな、内容報告すんなよ」
「いや、リーダーには健康状態の参考に伝えたほうが……」
「いらないってさっき言ったよね? それより、ミジョーの面倒を見てくれ」
便の肩に乗ったミニ魔王ゾマモスがしみじみと言った。
「お主も大変だな」
「ああ」
まったくだと思った便は、自分も野に放とうと森へ分け入った。すると大きな洋館が建っていることに気づて、用を足してから二人を呼んだ。
その洋館の前には、木でできた巨根のオブジェが飾ってあった。入り口の扉の横には“珍宝”という表札がかけられていた。
「何なのこの世界?」
便は嘆きつつも扉をノックした。すると中からおかっぱヘアーの小柄な少女が顔を出した。少女は巫女のような装束を纏っていて、神聖な雰囲気を感じた。
「勇者様ですね。来ることはわかっていました」
そう言った少女は、装束の中から2つの透明の玉が連なった物と、怪しい形の棒を地面にぽいっと投げ捨てた。
「え?」
呆気にとられた勇者一行だったが、少女は意に介さず説明を始めた。
「その玉に棒を乗せて念じれば行く先を教えてくれる。んじゃ」
そう言ってバタンと扉が閉まって出てくる気配はない。
「機嫌が悪かったのか?」
便が仲間に聞くも、答えられる者はいなかった、
一行は暮れかけているパンパイ砂漠に到着していた。広漠としていて生物の影もないと思いきや、すぐに行く手を遮る者が現れた。
「勇者一行だな。ワテは、魔珍王様の配下ソチーンだ。お命頂戴つかまつる」
その男は、上はきっちりとしたスーツにネクタイをしていたが、蝶を模した怪しい仮面をつけていた。何より目を引いたのは、下半身はブリーフ一丁だったことだった。
「マラミ!」
その時、ミニ魔王に台車を押されながら追いついてきたミジョーが魔法を放った。
「小賢しい」
ソチーンは不敵に笑うと飛んで避けた……はずだったが、砂に足を取られてその場にこけ、魔法が直撃した。もはやピクリとも動かない。
「こやつ、なにしに出てきたのでござろう?」
「知らん」
そんな会話をしていると、いつの間にかソチーンが、仲間になりたそうにこちらを見ていた。
「いや、ラスボスの部下を仲間にすることはないだろ」
ぼそっと言った便の言葉を聞くと、ソチーンは悲しそうに去っていった。その悲しき後ろ姿を見ていると、トーコがおかっぱから受け取った秘宝“チ○コ型方位磁針”(正式名称は知らない)を指差した。
「反応してます、棒の先端が光りながら行く先を示しています」
しかもご丁寧に、棒部分にこの先100メートルと書いてある。ただ単位が知っているものなのか、それとも100エンと同じケースかわからないのでトーコに尋ねた。
「これはどのくらいの距離なんだ?」
「すぐそこです。平地で早い人なら9秒ぐらいです」
便はこの単位は同じなのかよと思いつつ、ミジョーを振り返って言った。
「大体の位置でいいから、宣戦布告がてら100メートル先の城に魔法を放ってくれ。ひょっとしたら向こうから出てきてくれて手間が省けるかもしれない」
「わかりましたメガマーラ!」
言うが早いか食い気味にミジョーが、マラミの強化版と思しき巨大なチ○コ型の炎を放った。それは爆音を立て、何かを破壊した音をたてた。それと同時に城にかけられていた魔法が解けて、瓦礫の山が姿を現した。そしてそこから、ひょっとこのお面を被った、コテカと乳首洗濯ばさみを装着した男が怒り狂いながら飛び出てきた。
「だーれ、こんな非常識なことするの! ここが誰のお家かわかっているの? 魔珍王サクレコンチ様の素敵でハッピーなお家なんだから!」
オネエ系の魔珍王は、憤懣やるかたない表情で勇者一行を睨めつけた。
「お前が魔珍王だな? 我々は勇者一行だ! お前の悪行を正しに来た!」
「いきなり人の家壊して何言ってるの? 馬鹿じゃないの?」
一瞬、便は確かにそうだと思ったが、ノーションの町の男たちの屈辱を思い出し、目の前の変態を討伐する決意を固めた。
「そんな格好の奴にバカ呼ばわりされる筋合いはない! 兎に角ぶっ倒す」
そんな便を見て魔珍王は、笑い始めた。
「この魔珍王様が、お前らごときに勝てると思っているの? いいじゃない、相手してあげる」
「ふっ、随分と自信が……ん?」
便が魔珍王の言動の間違いに気づいたところで、魔珍王は腰をグルグル回し始めた。そして、見る間にそのスピードは高速へ達し、トーコへ迫った。
「く、来るな変態! どうぁっ! 右肩も壊れたーーー!」
そう言ってトーコは、遠くへすっ飛ばされて星となった。
「次はお前だ!」
そう言って魔珍王は、ミジョーとその台車を押していたゾマモスに迫る。だがミジョーは、事前に魔法の詠唱を終えていた。
「チンサム!」
ミジョーの掌から放たれた寒そうな空気が、敵の股間を撃つ。
「チ○コひゃっこい!」
効果があったようで、魔珍王は、コテカを両手で寒そうに包み込んだ。
「でかしたミジョー!」
便はスキのできた敵の頭頂部に棒を振り下ろす。会心の一撃……と思われた攻撃は、魔珍王の両手に阻まれていた、いわゆる白刃取りというやつである。しかし、便はその間隙を見逃さなかった。
エクスカリ棒から手を離すと、素早い手付きで両乳首の洗濯ばさみを引っ張り取った。
「ぎゃーあたいの一張羅が! あと痛い、すごい痛い!」
魔珍王は乳首を両手で覆いながら砂に倒れ伏した。
「悪は滅びた。みんな城に凱旋だ!」
便が高らかに叫ぶと視線を感じた。魔珍王が仲間になりたそうにこっちを見ている。
「いや、それもういいから!」
こうして一行は、悲しそうに去っていった魔珍王を尻目に、帰路へついたのだった。
「あのーこんにちは」
便は珍宝館の扉をノックした。しょーもない秘宝だが、一応返しに来たのだった。だが、返答がない。
「あれ、空いているぞ」
勝手に扉を開けたゾマモスが便を見やる。
「一応秘宝だし、勝手に置いて帰るのも不用心な気もするが……」
悩んでいる便にミジョーがアドバイスする。
「でも、あまり大事に扱っている感じではなかったですよ」
「確かにそうなんだけど……ん?」
中から人の叫び声と、物が壊れる音がする。
「行ってみよう」
こうして便と、台車に乗ったミジョーと、それを押す係のゾマモスは中へ入っていった。
「なんでJKがデカイチ○コの御神体を毎日拝まなきゃならんのじゃーーー!」
おかっぱ少女が、御神体と思われる透明な巨大チ○コをボコボコに蹴りつけていた。周りに飾ってあったと思われる小さいチ○コたちが無残に砕かれ、神棚だったものも粉々にされ散乱していた。
見ては行けないものを見たと思った一行は、抜き足差し足忍び足でその場を去ろうとしたが、おかっぱ少女はそれを見逃さなかった。
「見ましたね?」
その目がランランと輝いている。
「いや、いま来たとこだよ。全然見てないよ。それで今日はどこ遊びに行こうか?」
「そうなんだー良かったー。亀頭子ねーグソーノの美術館に行きたいのー……ってごまかせるか! 死ね勇者共!」
便たちは混乱していた、まず展開が意味不すぎだし、名前も完全にあれだし、おかっぱの頭から角が二本生えてきている。そして、小柄だった体が今や便の3倍ほどになっていた。
「いや、見てないですよ何も」
この期に及んで白を切る便に、
「嘘を付くな、こうなることはわかっていたー!」
と、珍宝亀頭子は、飛沫を沢山飛ばしながら怒鳴った。
「それなら何であんなことしてたんだよ。知ってたんならご乱心姿を見せなきゃいいだけの話だろ!」
「しっかり見てるじゃないか! ナガペニー様の威力を思い知れ!」
亀頭子が、御神体を肩に担ぐとブンブンと回して攻撃態勢に入った。
「何なんだその名前、何なんだこの展開!」
そう叫びながら便は、名棒エクスカリ棒を構えた。
戦いは熾烈を極めた。魔珍王とは何だったのかという強さだった。狭い空間でミジョーの強力な魔法は使えず、ゾマモスは台車を移動させるのに精一杯、便も亀頭子の膂力に押されていた。
そしてついに、便が壁際に追い込まれて諦めかけたときだった。
「とうりゃぁああ」
何者かの飛び蹴りが、亀頭子の顔面に直撃した。油断していたのと、蹴りがクリーンヒットしたことの相乗効果で亀頭子は後ろに倒れ伏した。
「逃げるでござるよ!」
それはトーコだった。すかっり忘れていた。
「お、おう」
こうして一行は九死に一生を得て、今度こそ帰路についた。
船の中で、ネチネチとトーコから砂漠に見捨てたことに対する恨み節を聞かされた以外は、何事もなくグソーノ城まで帰ってきた。どういうわけか、魔珍王討伐成功の知らせは女王まで届いていた。ひょっとすると、呪いの解けたノーション町の人が伝えてくれたのかもしれない。
城に入ると、兵士たちが整列して迎えてくれた。女王の間の玉座には、微笑みを浮かべた女王が待っていた。
「よくぞ帰ってきました。あなた方の活躍は聞き及んでいます」
そこで便は、女王に騙されたことを思い出した。
「あの、むっちゃインフレしてて100エンじゃどうにもならなかったんですけどそれは……」
「すいませんこちらの手違いがありました。私が常識を知らないばかりに……」
テヘペロする女王を見た便は怒りをあらわにした。
「いや、城に帰ってきた俺ら追っ払っただろーが!」
「それは、兵士が勝手に判断したんですよー、そうゆう悪い兵士は八つ裂きの刑に処すので許してください」
「そこまでする必要はないけど……」
そう便が妥協しかけたときだった。城の中の明かりが消え、低い女の声が城内に響いた。
「わっちは、魔珍王サクレコンチが姉、魔満女王サクレコンマ。弟の恨みを晴らしてくれようぞ。勇者たちよ、わっちの城がある、クサマーン国ジルマーン県にある、希望ハイツ203号室まで来るでありんす。逃げるでないぞえ……」
明かりが戻ると、女王が深刻そうな顔で便に問う。
「勇者様、どうしましょう?」
「いや、住所が明らかアパートじゃね? つーか今まで突っ込んで来なかったけど最初から最後まで下ネタ! 全部下ネタ! 馬鹿らしい帰る」
「え? 何でです? 下ネタ面白くないですか?」
踵を返した便に、女王がさも当然に言う。
「いや、知ってたのかよ。だとしたらどうかしてるわ!」
怒り狂った便は振り向きざまに、エクスカリ棒と尻に挟んだままだった葉っぱを投げ捨てると、大した能力も発揮せず日帰りで終わったなと思いつつ、この下ネタ異世界を後にしたのだった。
(終)
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