二人の天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー

おこぜの尻尾(浅川立樹)

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プロローグ

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「実に興味深い、とは思わないか?」
「ええ、まあ。関西の端っこと思っていましたが、中国地方や出雲との繋がりも、地元の民話に残されているものなんですね」
「まあな。……それで君は、天文学に興味があるのかい?」

 なんとも返答に困る質問だった。私は苦笑いを浮かべるしかない。

「正直言えば、あまり興味はないかも知れません」

 何度も書くが、今回の星見は完全な思いつき。

 単にネット上で、思ったより近くに参加可能な大きな天体望遠鏡があることを知り、この町を訪れただけだ。「それなら見てみたいかも」という程度のミーハーな興味。本当に星が好きな人からすれば、なんとも失礼な動機なのかも知れない。

「いやいや、好奇心旺盛なのは悪くない。しかし、どうにも君は無謀だ。もしかして書籍やネットだけで知識を集めるタイプかい?」

「……ええ、まあ」

「それは気を付けないと、これから将来的に苦労するよ」

 青年の笑顔は崩れないが、年長者としての重みを感じさせた。

 これから夜を迎え、本格的に冷え込んでくればなおさらのこと。今日のように雲の少ない空は、星を澄み渡って見せる代わりに、放射冷却の影響が強く出る。その結果、山の気温は平野部もより冷え込みやすい状況が作り上げられる。

 言われてみれば当然のこと。

「そりゃ室内だけの観測ならいいけどね。君の地元は、星が良く見える土地なのかい?」
「いえ全然。街の電飾でぼやけますね」
「ああ、そいつは残念だね」

 天体観測は野外をメインに行われるイベント。全天の夜空を見上げる事を楽しむことを第一義とする。そのため、室外での良好な観測を行うためには、自分達も寒さと共存することが非常に重要なポイントとなる。

 なぜなら天体望遠鏡は、その構造上、鏡体本体の温度を外気と同じにする必要性がある。

 鏡体内外で大きな寒暖差があれば、鏡筒内部の空気の偏光率が変化したり、レンズの表面に結露が生じて観測機能自体が失われ、見えるものも見えなくなる。機材管理とメンテナンスには、どの天文愛好家も人一倍気を配っているのだと教えて貰った。

 もう一点、望遠鏡の特性として、どうしても観測範囲が狭くなってしまうことが問題となる。

「確かに、無線で離れた地点に観測データを飛ばす仕組みのものもあるけれど、それじゃわざわざ星見に来る意味がない。ある程度の知識があれば良いけれど」

 と言うのが、青年の弁。

「はは、初心者もいいところです」
「それに山地の気候は甘く見ないで欲しい。海抜は低いけれど、この辺りは日が沈むと一気に冷え込む」
「…………」
「何、そんなに畏まる必要はないよ。君が思う以上に、これからの季節、冬の星見は見事なものだし、星の知識なんて無くていい」
「………………」
「でも俺としちゃ、電線にもビルにも邪魔されない、この空を見上げてやって欲しいのさ」

 青年は、オリオン座から始まる冬のダイヤモンドを諳じた後、鼻の頭を掻きながら、照れくさそうにしていた。

「もうすぐ駐車場に着く。降りる準備をしておきなよ」


 どうにもA青年はお節介な性分らしい。まだ、コシコシと鼻先を掻いていた。
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