沈黙のメダリスト

友清 井吹

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Ⅰ 未完のアスリート

8 13人抜き

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12月初め、期末試験が終わった週末に駅伝大会が行われた。淳一は9区の4.2kmを走る。どこを走るかは、陸上部の顧問ではなく部員が相談して決めたらしい。

開会式の後、野路が話しかけてきた。
「なあ倉本。何でお前が9区で俺が10区になったか知ってるか?」
「知らん。前に走ったタイムで選んだんじゃないのか」
「全く関係ない。先輩らは、初めの方なら大して差はつかんが、後の方になると離されて恥をかくと思っているみたいだな。なんで一年の俺がアンカーなんや。気が重いよ」
 
9区の中継点で先輩を待った。
朝は自分で作ったおにぎり一個を食べたきりだ。走る前に食べると腹痛と便意が起きると聞いて控えていたのだが、さすがに腹が減ってきた。

「倉本君。やっと会えた」
陸上部の角谷が、もう一人の女子とやって来て、はしゃぎながら話しかけてきた。
「なんか欲しいものある?今なら何でも言いたい放題よ。この子、倉本君のファンやし」
前の態度とえらく違う。そういえば学校でも意地悪を言われなくなっていた。

「少しおなかが減った。何か食べる物ある?」
「かなっぴ、コンビニ行って何か買ってきてよ」
「それならいい」と言いかけた淳一を手で制し、もう一人の女子を追いやった。

「倉本君、一人で住んでるって聞いたけど本当?、家に行ってご飯作ってあげよか。私こう見えても家庭的なんよ。もちろん泊まったりはしないからさあ」
けらけら笑いながら、教師や友達の噂話をしゃべり続けた。周りの選手や役員の中で完全に浮いている。買いに行かされたもう一人の女子がコンビニの袋を持って帰って来た時、先頭のランナーが見えてきた。

「悪い。もう食べる暇ないから後で会えたらもらう。少しは体を動かさないと」
他の選手のまねをして、体を伸ばし、ジャンプもした。緊張が高まって来る。みんな速いんだろうな。ところが8区の先輩はなかなか見えてこない。

東高陸上部のランナーは、ビリに近い22番目で、先頭から10分以上離されていた。ふらふらしながらたどり着いた先輩から、奪うようにタスキを受け取った。
角谷のおしゃべりから逃げられてやれやれだ。腹がすいているので体も軽い気がする。

まず目の前にいる選手を2人抜いた。
登りのカーブにさしかかる。登りは得意だ。自分に言い聞かせた。
赤いランパンの小柄なランナーが見えてきた。伊吹西高か。ここに行くはずだったのにな。顔も見ずに抜く。そこから下りの直線で、前を走っている選手が一列に点々と見えてきた。
街の中に入るまでに5人抜いた。抜くのは気持ちがいい。

市内の交差点に、水泳部の部員が固まっているのが見えてきた。何と白井先輩や仁志先輩もいる。うれしくて恥ずかしくて顔がにやけてしまい、小さく手を振った。
そこからまた4人抜くと、10区の中継点が見えてきた。野路が大きく手を振っている。

走り出した野路の背中を見つめながら、何人抜いたか思い出そうとした。10人は超えていると思うが分からなくなった。たまたま9区に遅い奴が多かったのだろうか。

陸上部女子の先輩が、ペットボトルを渡してくれた。
「倉本君は陸上に入ったらよかったのに。走り方はちょっと変わっているけど、楽に走ってる感じがしたよ。靴はランシューじゃないみたいやけど、足は大丈夫かな?」
まだ苦しくて声は出せない。足のつま先が痛むのはスニーカーのせいなのか。

閉会式がある陸上競技場へ行った。赤い色のトラックに立つと弾力があり、アスファルトの道路よりずっと感触ががいい。プールもいいが、こんな場所で走るのもいいなと思った。
式が終わると、野路がハイタッチをしてきた。

「倉本、13人抜きの大健闘だってな。俺も2人抜かして、うちの学校、なんと7位だ。後一人で県の大会に出られたそうだ。お前、めちゃくちゃ速いなあ」
「実は中継所に角谷がいて、ずっとおしゃべりされて困っていた。走っていても後から声が追いかけてくる気がした。だからあいつから逃げるつもりで必死に走ったよ」

それを聞いた野路は大笑いして、最後には涙目になっていた。
「最近聞いた中で一番面白いジョークだった。お前とは話が合いそう。メルアド・・・、ああ携帯無かったな。まあこれから仲良くやろう」




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