沈黙のメダリスト

友清 井吹

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Ⅰ 未完のアスリート

26 自衛官志望

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高3になった4月、驚いたことに義父の離婚話が消えた。

洋二兄によると、なみ江さんが義父の元に戻ってきて、心を入れかえるということで元のさやに納まったという。
当初は、なみ江さんにローン付きのマンションを渡し、義父は淳一の住む家に戻ることになっていたそうだ。ところがなみ江さんが借りた金は必ず返すと父に訴え、肝心の義父はそれをあっさり了承したということだ。

淳一には、家の光熱費と固定資産税は払ってくれることになった。
でも食費などの生活費は自分で稼がなければならない。健康保険も打ち切りの通知が来ていた。
病気や怪我には絶対なれない。

光熱費が浮いた分、バイトを減らして勉強をするか、同じように働いて大学にかかる費用の足しにするか悩んだ。考えた末、当分は今のままバイトを続けることにした。
土日は引っ越し、平日はファミレスの仕事をする。

勉強より、今は高校卒業を目指していこう。この家で後何年も住み続けられるとは到底思えない。
高3の今から施設なんかが受け入れてくれるはずはないだろうし。

学校からほど近い建物の一角に、自衛隊の地域事務所があるのは前から知っていた。
5月に思い切って訪ねてみた。
日に焼けたやや小柄な、がっしりした体の自衛官の人に防衛大について話を聞いた。

伊吹東高からは初めての訪問ということで歓迎され、出願の動機を詳しく尋ねられた。
今の生活状況を話すと少し考え込んだ。

「義理の父では駄目なんですか?」
「いやそうじゃないが、一応仕事の性質上、日本国籍があり、犯罪歴のない家庭が合格要件になるよ。まあ君は賢そうだが防衛大は難しいよ。人文系と理工系どっちを受けるの?」
「一応文系でいきたいと思っています」
「人文は採用人数が理工の五分の一しかないから、かなりハードルが高いぞ。いっそ高卒から自衛官になる手もあるよ。君なら大丈夫だろう。やってみないか?」

それから熱心に高校を卒業したら、即自衛官になる道を勧め出した。
どれだけメリットがあるかパンフレットで詳しく説明をされた。

それが嫌とは言えないし、今の偏差値や生活状況をを考えたら一番妥当かもしれない。
自衛官になってから進学する道があると聞き心も動かされた。
しかし係の人が、あまり高卒から入ることを強く勧めるので反発心も出てきた。

「ともかく後半年、防衛大受験を頑張ってみます」
そう言って事務所を後にした。運動ができたら、自衛隊体育学校という道もあるらしい。
ただ県大会で優勝したくらいで行けるだろうか。
防衛大の願書も地域事務所で手に入るらしいが、吉見先生に頼んでみよう。
今は将来の事より明日の飯を優先させないと。もうすぐファミレスのバイトが始まる時間だ。


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