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Ⅱ 君とオリンピックに行きたい
10 猪から守る
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山道を二人でゆっくり歩いた。
渓流を渡る時、手を差し出したが、首を横に振り一人で渡った。
手をつなぎたいが、まだ無理なのか。
風吹き岩という小高い岩山に着いた。周りはカップルや親子連れでにぎやかだ。
彼女が敷いてくれたシートに座った。お弁当は駅前のコンビニで買ったおにぎり。
デザートのフルーツやお茶は持ってきてくれた。
練習してきた手話を見せた。
「これから手話をもっと覚える。君のことをもっと知りたい」
返事はなかった。好意は伝わっていると思うが、会話がないのは気詰まりだ。
でもどのように会話を進めたらいいのか分からない。
目の前の景色は最高なのに。
突然、彼女のかすれた声が聞こえたかと思うと、後ろから淳一の肩を強く持った。
えっ?何で?
すぐ目に入ったのは猪だ。
でかいのが、ゲホゲホ唸りながら彼女のリュックに頭を突っ込もうとしていた。
あわててリュックを拾い上げた。
蹴飛ばしてやろうか。猪は牙のある頭を上げた。こいつ噛むのかな?
後ずさりする淳一の肩を彼女はまだ離さない。
俺が君をいつでも守ってやるよ。
近くにいたハイカーが石や棒切れを投げて猪を追い払ってくれた。
おにぎりを落としてしまったので、残り一個を半分に分けて食べた。
いい雰囲気に戻ってきた。猪のおかげだ。
「帰ろうか?」
何となく彼女に向かって話すとうなずいた。聞こえないのになぜわかる?
下りは楽だから足取りも軽い。彼女は淳一の後ろをつかず離れずで歩いていた。
思い切って手をつなごうとしたが、またかわされてしまった。
駅に着いたのはまだ3時だ。ノートを借りて書いた。
「これからどこに行こうか?」
首をかしげているが返事はない。思い切って前から考えていたことを書いた。
「僕の家に来る?」
それを見たとたん、睨むようにして首を何度も横に振った。やはり性急だったか。
帰りの電車でも練習してきた手話をした。
「好きな人はいる?」
彼女は、少し嫌な顔をして書いた。
「教えたくない。それに人が多い所で手話をしたくない」
「悪かった。ごめん」
会話というか筆談が途切れた。何故か機嫌を損ねたようだ。
朝、待ち合わせた駅に着くと、彼女は表情を変えずに「ありがとう」の手話をして、すぐに帰ろうとした。ちょっと待てよ、家まで送るつもりだったのに。
彼女の肩に手を置いた。
すると思いもよらないきつい目で淳一を睨み、駆けるように離れていく。
この前のように、無理に引っ張っていける感じではない。下心を見抜かれたのだろうか。
時間をかけて部屋をきれいにしてきたのに。
彼女が自分の家まで来てくれたら、と妄想を抱いていたのは事実だ。
釈然としないまま肩を落として家に帰り、メールを送った。
「今日は本当に楽しかった。でも君の気持を損ねたみたいで心苦しい。ぜひまた会うチャンスが欲しい」
返事はなかった。次の日も似たような内容を送ったが、やはり返事はかえって来ない。
三回送ってやめた。これ以上やったらストーカーだ。
大学では、何人も女子大生と知り合ったし、陸上部に行けば、親しく話せる部員がいる。
真剣に講義を受け、東田と陸上の魅力について語り合い、夕暮れの中を汗だくになりながらダッシュを繰り返す。
充実しているはずなのに、胸の一部分に大きな穴が開いたままだ。
渓流を渡る時、手を差し出したが、首を横に振り一人で渡った。
手をつなぎたいが、まだ無理なのか。
風吹き岩という小高い岩山に着いた。周りはカップルや親子連れでにぎやかだ。
彼女が敷いてくれたシートに座った。お弁当は駅前のコンビニで買ったおにぎり。
デザートのフルーツやお茶は持ってきてくれた。
練習してきた手話を見せた。
「これから手話をもっと覚える。君のことをもっと知りたい」
返事はなかった。好意は伝わっていると思うが、会話がないのは気詰まりだ。
でもどのように会話を進めたらいいのか分からない。
目の前の景色は最高なのに。
突然、彼女のかすれた声が聞こえたかと思うと、後ろから淳一の肩を強く持った。
えっ?何で?
すぐ目に入ったのは猪だ。
でかいのが、ゲホゲホ唸りながら彼女のリュックに頭を突っ込もうとしていた。
あわててリュックを拾い上げた。
蹴飛ばしてやろうか。猪は牙のある頭を上げた。こいつ噛むのかな?
後ずさりする淳一の肩を彼女はまだ離さない。
俺が君をいつでも守ってやるよ。
近くにいたハイカーが石や棒切れを投げて猪を追い払ってくれた。
おにぎりを落としてしまったので、残り一個を半分に分けて食べた。
いい雰囲気に戻ってきた。猪のおかげだ。
「帰ろうか?」
何となく彼女に向かって話すとうなずいた。聞こえないのになぜわかる?
下りは楽だから足取りも軽い。彼女は淳一の後ろをつかず離れずで歩いていた。
思い切って手をつなごうとしたが、またかわされてしまった。
駅に着いたのはまだ3時だ。ノートを借りて書いた。
「これからどこに行こうか?」
首をかしげているが返事はない。思い切って前から考えていたことを書いた。
「僕の家に来る?」
それを見たとたん、睨むようにして首を何度も横に振った。やはり性急だったか。
帰りの電車でも練習してきた手話をした。
「好きな人はいる?」
彼女は、少し嫌な顔をして書いた。
「教えたくない。それに人が多い所で手話をしたくない」
「悪かった。ごめん」
会話というか筆談が途切れた。何故か機嫌を損ねたようだ。
朝、待ち合わせた駅に着くと、彼女は表情を変えずに「ありがとう」の手話をして、すぐに帰ろうとした。ちょっと待てよ、家まで送るつもりだったのに。
彼女の肩に手を置いた。
すると思いもよらないきつい目で淳一を睨み、駆けるように離れていく。
この前のように、無理に引っ張っていける感じではない。下心を見抜かれたのだろうか。
時間をかけて部屋をきれいにしてきたのに。
彼女が自分の家まで来てくれたら、と妄想を抱いていたのは事実だ。
釈然としないまま肩を落として家に帰り、メールを送った。
「今日は本当に楽しかった。でも君の気持を損ねたみたいで心苦しい。ぜひまた会うチャンスが欲しい」
返事はなかった。次の日も似たような内容を送ったが、やはり返事はかえって来ない。
三回送ってやめた。これ以上やったらストーカーだ。
大学では、何人も女子大生と知り合ったし、陸上部に行けば、親しく話せる部員がいる。
真剣に講義を受け、東田と陸上の魅力について語り合い、夕暮れの中を汗だくになりながらダッシュを繰り返す。
充実しているはずなのに、胸の一部分に大きな穴が開いたままだ。
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