沈黙のメダリスト

友清 井吹

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Ⅲ ロンドンへの道

10 神戸シティマラソン

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11月20日。日曜日。
彼女に起こされたのは朝の6時だった。4時間は寝たのだろうか。
ぼんやりしながら二人で朝食。その後さらにバナナを食べさせられた。

三宮行きの電車では、彼女にもたれかかりながらまた寝込んでしまった。
彼女の温みを感じながら半時間熟睡したおかげで、ずい分すっきりした。
召集場所には受付終了間際の8時前に着き、持ち物を彼女に渡して市役所前に並んだ。

今まで40キロ走は、コースを決めて二回経験している。
一回目は4時間を切れず、二回目はスピードを上げたが3時間半にとどまった。
今日2時間半を切る自信はないが、やり遂げるしかない。

スタートは9時。
昨日はあれだけ雨が降ったのに、今朝は秋晴れの好天でマラソン日和だ。

それにしてもすごい人数だ。今いる場所から最前列までかなりの距離があるが、びっしりランナーで埋め尽くされている。
計測タグを着けているので、どこから出発しても公平だと思っていたが、こんなに人が多かったら走りにくそうだ。同じ考えなのか、どの選手も前へ詰めようとしている。

長いセレモニーが終わり、号砲が鳴らされハトの大群が飛び立った。
選手が多すぎてスタートダッシュどころではない。今のところ昨日の疲れはそれほど感じない。
昨日と大違いで、沿道の観客や声援がすごい。太鼓やダンスがあり、見ていて楽しい。
先頭集団に離されないよう、人波をかき分けるように走った。

3km地点で早くも給水所やエイドが見えたが、先頭集団で水を取る者はいない。
海が見えてくるころ、給水所でコップを取り、口を湿らせた。
左手でコップを取る練習は、大学で何回もやってきた。

国道2号線がJRと交差する地点で、ようやく彼女を確認することができた。
手を振ってくれているが、ハイタッチは無理だ。道路が一車線になり狭くなった。

折り返し点の舞子では、頭上の明石海峡大橋を眺めながら道路をぐるっと回る。
前を行くのは30人くらいだと確認した。
半分来たところでタイム表示は1時間5分。ハーフの記録としたら結構いい方だ。
山が海に迫る垂水から須磨の平坦な直線道路を走る。
この辺りは今読んでいる『平家物語』と関わりが深い。松林の奥が一の谷だ。

日が照っているので暑くなってきた。帽子は昨日洗って干したまま。
サングラスも持っているが、彼女から素顔の方がいいと言われたのでしていない。

30km地点でサッカースタジアムが巨大な姿を現してきた。
30キロからの壁がきついと聞いていたが、まだいけそうだ。
先頭集団はずっと先に見えているが、なかなか追いつけない。
両足とも重く感じてきた。昨日の疲れが出てきたのだろうか。
暑いので給水所に多くの選手が寄っていく。
バナナが山盛り置かれているが、取って食べる余裕はない。
もう水はいい。エイドを離れて一気に何人も抜いた。もう彼女を探す余裕はない。

35km地点。神戸駅前から急な上りの自動車道に入る。
昨日走った琵琶湖大橋と同じ感じで、長くてきつい。ランナーのペースがぐっと落ちてきた。
100m位先に先頭集団の10人ほどが見えてきた。
上りきるまでにまた数人抜き、やっと先頭集団の最後尾に追いついた。

招待選手が多いからか、この集団の走りは安定している。
そこから人工島まで赤い巨大な橋を渡る。海を隔てて市街地や緑の山並がきれいに見えた。
神戸はこんなきれいな街だったのか。

海風の強いポートアイランドに入った。道幅が広いので自分のペースで走ることができる。
中継車や白バイが間近に見えてきた。海の側は風が強い。消防艇が噴水のように水を出している。
あと3kmの表示。ピッチを上げたが、他の選手もスパートをかけている。

なぜか最後の直線道路は狭くなっていた。
あそこに由佳がいるはずだ。ラストスパートをかける。前の選手を何人でもいいから追い抜こう。
1位の選手が、前の方でテープを切るのが見えた。

4位か、5位でアーチを通過。拍手で迎えられた。
邪魔にならない所で座り込む。人が多くてクールダウンはできない。
2時間14分12秒で電光掲示板が止まっている。多分1分も遅れていないはずだ。
何とか目標達成したかな。
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