運命なんてクソ喰らえ!!

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プロローグ

高橋流星

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 中学2年生になったばかりの俺には学校という場所はあまりにも退屈で、3年前まではあんなに自由だった幼かった自分が途方もなく羨ましい。授業時間は長くなり、二年生になった今でも俺は時々授業をサボりがちだ。
「またサボり?」
「休息だよ」
「つまりサボりでしょ?」
「なんだよ、説教しに来たのか?」
「そんなことして流星が授業ちゃんと受けるの?」
 説得も諦めたらしい。
 吉沢るい、俺の唯一の親友はさらさらした髪の毛を整えながら小さくため息を吐いた。
「るいもサボりか?」
「まぁ、そんなとこ」
「人のこと言えねーな」
「たまには息抜きしないとね」
「同感だ」
 春風はまだ少しだけ肌寒く、けれど心地よさもある。この時間が最近の俺の楽しみだ。
「そういえば、転校生が来るって話でクラスは持ちきりだったよ」
 そんなこと昨日担任が言っていたような言ってなかったような。
「そっか」
「興味なさそうだね」
 流星らしいねと言いながら隣に寝転がった。
「そういうお前は?」
「僕も流星ほど興味がないわけじゃないけど。クラスの子たちほどうきうきはしてないよ」
 ふぁ~とあくびをしながらるいはのびをした。
「女子?」
「そうみたいだよ。隣のクラスの男子まで噂で持ちきりだったし」
「そんなにいいもんかね」
 俺もるいも女子に興味がない訳じゃないけど、付き合いたいとはお互い思ってないと感じている。
「普通なんじゃない?健全な男子としては」
「それもそうか」
 空を眺めてただただ流れる時間を二人で過ごした。
 3分ほど経って授業開始のチャイムが鳴った。
「そろそろ教室に戻ろうかな」
「結局サボらないんだな」
「転校生も少し気になるしね。流星は?」
「俺も戻るか、朝の自習時間さえなければ頑張れる気がするんだけどな」
「ほんとに~?」
 ウソでしょ~?みたいな顔でこっちを見るな。
 屋上の扉を開け、二年生の教室がある2階まで下りて行った。
 教室に入るとまだ担任はきてなかった。
「珍しいな、サボり魔が1限から出るなんてな。転校生が男だったら来なかったのか?」
「そんなんじゃねーよ。気が向いただけだよ」
 茶化すクラスメイトをあしらいながら俺は席に着いた。
 ガラガラと年季のある扉を開け、担任の女性教諭の一之瀬風花先生が入ってきた。
「席についてるな、朝礼を始めるぞ」
 順番に一之瀬先生がクラスメイトの名前を呼ぶ。
「珍しいな高橋が朝からいるなんて」
「すいません」
「いや、私も嬉しいよ。お前が少しは前向きに学校に通うようになってくれたらな」
「先生ェ~、転校生が来るって噂聞いたんですけど~」
 クラスの中心人物の男子が先生に噂の真実を聞き出そうとした。
「あぁ~、彼女が登校するのは明日になりそうだ」
 えぇ~とクラスの男子の落胆の声が重なった。
「でも、彼女ってことは女子なんだな」
「そうみたいだな」
 隣の名も知らぬクラスメイトに話しかけられた。俺は興味のない振りをした。
 クラスは転校生の話題でざわついていた。
「はいはい、静かに」
 先生は一呼吸置き。
「明日には登校予定だ、くれぐれも騒いだりするなよ。よりよい学校生活にお前らがしてやれ。それと、高橋は放課後私のところまで来なさい。以上、勉学に励みな」
 まじか…。
「どんまい」
 またしても名も知らぬクラスメイトに同情された。
 誰だって職員室には入りにくいし出来ることなら入りたくない。
「めんどくせぇ~、帰ろうかな…」
「ダメでしょ」
 今度はるいか。
「心当たりがない。なぜ呼ばれるんだ」
「授業にちゃんと参加しないからでしょ」
「そんなことで呼ばれるならもっと早く呼ぶだろ。それにわざわざ放課後に呼ぶ必要あるか?」
「うーん、確かに放課後ってのは少し不自然だね」
「まさか…!殺害予告!?」
「なわけないでしょ、なんでそんなに発想がぶっ飛んでるの」
 そんなことを言いつつ俺は授業を珍しく全部を受けた。

 放課後、俺は帰ろうとしてたのを無理やりるいに職員室前まで連れてこられた。
「この裏切り者め」
 そう言い俺はるいにジト目で訴えた。
「そんなこと言ったって明日も春ちゃん先生にまた呼び出されて今日よりも長く怒られるのが関の山だよ」
 それもそうか…。
「はぁ、怒られるってわかってて職員室に入るの超嫌じゃね?」
「サボりまくる流星が悪いでしょ。自業自得だよ」
 るいは時々こうやって俺を引き留めようと手を差し伸べてくれる。俺にはそれがとても救いになっている。
 いつまでるいが俺とつるんでくれるかなんて全然分からない、しっかりしなきゃと頭ではわかってるがどうしても怠けてしまう自分がいる。
「先帰ってていいぞ。待っててもジュースも奢らねぇからな」
「そんなのなくたって僕は流星を待ってるよ。友達でしょ」
 わかってて俺は悪態をついてしまう。それを分かっているのかるいは嫌な顔全然しない。
「そーかよ」

「失礼しまーす」
「入れ」
 一之瀬先生は不機嫌そうに入室を許可した。
「ちゃんと忘れずに来るなんて偉いじゃないか。佐藤にでも引きずられて来たのか?」
「そんなところです」
「面倒見がいいな佐藤は」
「そうですね」
「さて、話は変わるが進路希望を出してないようだが?なにかいい訳でもあるか?」
 どうやらサボりのことではなかったようだ。どちらにしても俺にとっては都合の悪い話であるのだが。
「そんなのありましたっけ?」
 無駄な抵抗を試みる。
「舌を出してとぼけても無駄。正直に答えなさい」
「無くしました」
「そんな事だろうと思ったよ、替えのプリントくらい言えば渡したのに」
「そうは言っても進路なんて全然考えられなくて。特にしたいこともないんです」
「それでも提出はしなさい。先が見えないのはみんな同じだ。考えてませんって書いてもいい。後でじっくり私と考えていけばいいさ」
「その時間はいらないです」
 俺は苦笑いで誤魔化した。しかし、先生はそれで許してくれるほど甘くない。
「今日が進路希望の提出日だ。期限は守らないとな」
「分かりました、とりあえず進学って書いときます」
 俺は家からそう遠くない進学校の名前を書いた。
「今回はそれでいいが、夏までには考えときなさい。もしも考えが纏まらないようなら、私が一対一で考えてやるから覚悟しときなさい。わかった?」
「はぁい」
「分かったのならよし。帰っていいぞ」
 先生は俺が書いた進路希望の紙を他の紙と合わせて封筒にまとめた。
 帰るか。
 憂鬱な気持ちで職員室を出た。
「あれ、案外早かったね」
「まだいたのか」
 るいは言ったことは必ず守るやつで、俺が出てくるのをちゃんと待っていた。
「それで?先生はなんだって?」
「夏までにはきちんと決めとけってさ」
「僕たちも二年生だからね~、1年なんてあっと言う間に過ぎちゃうからね」
「そうか?俺はそんな風には感じたことないけど」
「流星はサボり癖のせいでみんなより時間の感覚ずれてるんだよ」
「そうなのかな~」
 だらだらとくだらない話をるいとしながら帰った。
 少しだけ寒い春風が妙に冷たく感じた。
 この時間は永遠ではないけれど、俺はるいといる時間が一番落ち着くことを知っている。
 ずっとこの時間が続けとそう願うことくらいは許してほしい。






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