その勇者、実は魔王(改訂版)

そこら辺の人🏳️

文字の大きさ
173 / 179

魔王、襲撃する2

しおりを挟む
(なんでこんなことに……)

 ハナンは屈辱で歯を食いしばっていた。
 馬で駆け続けてようやくそれらしき集団を発見したのが昨晩のことだ。聞いていた特徴通りの男もいた。
 気づかれないよう、馬を置いて離れた場所から徒歩で向かい、夕方になってから暗殺のために隠れて様子を伺っていたのだ。
 そしたら暗殺対象である勇者が普通に近寄って来た。

「君、何やっているんだい?」

 怪訝そうに眉をひそめて、魔族の勇者はハナンに尋ねた。
 ハナンは驚愕する。ハナンには魔法が使えず、魔力は感じないはずだ。もちろん気配も消していたため、よほど手練でなければ気づかれることもない。
 なのに、この魔族の勇者はハナンの気配に気づいた。
 咄嗟にハナンは持っていたナイフで切りかかる。

「うわっ!? 危ないなぁ」

 魔族の勇者はナイフを避け、ハナンの腕を掴む。
 そして軽く捻られて、あっという間にナイフを奪われてしまった。

「僕は君を傷つけるつもりはないよ。それに刃物を振り回すのはやめた方が……ん? このナイフ、何か塗って……」

 魔族の勇者がナイフに顔を近づけて匂いを嗅いで、顔を引きつらせる。

「え!? これ、まさか、毒!?」

 言い当てられてハナンは歯噛みする。飲ませるのではなくナイフに塗って刺すからといって、安い刺激臭がする毒を買うんじゃなかったと後悔した。
 魔族の勇者はほんの数瞬だけ考えてから、ハナンの腕を掴んだ。

「君、ちょっと、こっちおいで」



 ――こうしてハナンは魔族の勇者から説教を受けている。
 ハナンが納得のいかないのは、暗殺しようとして殺されるでも暴行されるのではなく、正座で説教ということである。
 しかもその内容が明らかにおかしいのだ。

「こんなナイフなんて持って、うっかり怪我したら取り返しのつかないことになるよ! せめて毒を塗るのはやめるんだ!」

 この魔族の勇者が怒っているのは「暗殺しようとしたこと」ではなく「ナイフに毒を塗って振り回したこと」のようなのだ。先ほどから、うっかり怪我した場合の危険性についてこんこんと述べている。

「だいたい、毒を塗ったナイフなんて何に……ん? そういえば、なんでわざわざナイフに毒を塗っていたんだい?」

 今更それを追求されたハナンは突っ伏しそうになった。

「クゥ、たぶんだけど、この子はお前を殺しに来たんじゃないか?」

 魔族の勇者の近くにいた魔族の男が眉をひそめながら言った。
 魔族の勇者――クゥは目をぱちくりさせて唸る。

「確かにナイフに毒を塗る理由はそれくらいしか思いつかないけど、なんでこの子は僕を狙うんだい?」
「たまにだけど、魔族を暗殺するために人間の偉い奴らが獣人とかホビット族とかの暗殺者を送ってくることがあるんだよ。しかもこんな子供のな。この世界の魔族は人間以外の魔力の弱い種族には甘いから、よく油断してやられるんだ」

 魔族の男は苦虫を噛み潰したような顔をする。
 クゥも同じような顔をした。

「だからってなんでこんな子供にそんなことを頼むなんて……」
「こんな子供だからこそ、油断するからちょうどいいんだろ」
「……ちょっと、あんたたち!」

 先ほどから聞き捨てならない単語を言われ続けて、ハナンはたまらず叫ぶ。

「あたしはもう、17歳よ! 子供じゃない!」

 この言葉に魔族の2人は目を点にして顔を合わせた。

「17歳って獣人だと成人なのかい?」
「さぁ?」
「成人は18だけど、あと2ヶ月だから子供じゃない!」

 首を傾げる2人にハナンは歯噛みした。

「そういうものかい?」
「うーん、まぁ、ギリギリ子供とも言えるし、かろうじて大人とも言えるんじゃないか?」
「あー、もう! そう言うあんたらは何歳なのよ!」

 全くわかってもらえなかったハナンは、2人に向かって叫ぶ。

「423だよ」
「同じだ」
「年寄りかよ!」
「「年寄りじゃない!」」

 2人が口を揃えて反論したので、ハナンは半眼した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界転移したと思ったら、実は乙女ゲームの住人でした

冬野月子
恋愛
自分によく似た攻略対象がいるからと、親友に勧められて始めた乙女ゲームの世界に転移してしまった雫。 けれど実は、自分はそのゲームの世界の住人で攻略対象の妹「ロゼ」だったことを思い出した。 その世界でロゼは他の攻略対象、そしてヒロインと出会うが、そのヒロインは……。 ※小説家になろうにも投稿しています

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...