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魔王、襲撃する2
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(なんでこんなことに……)
ハナンは屈辱で歯を食いしばっていた。
馬で駆け続けてようやくそれらしき集団を発見したのが昨晩のことだ。聞いていた特徴通りの男もいた。
気づかれないよう、馬を置いて離れた場所から徒歩で向かい、夕方になってから暗殺のために隠れて様子を伺っていたのだ。
そしたら暗殺対象である勇者が普通に近寄って来た。
「君、何やっているんだい?」
怪訝そうに眉をひそめて、魔族の勇者はハナンに尋ねた。
ハナンは驚愕する。ハナンには魔法が使えず、魔力は感じないはずだ。もちろん気配も消していたため、よほど手練でなければ気づかれることもない。
なのに、この魔族の勇者はハナンの気配に気づいた。
咄嗟にハナンは持っていたナイフで切りかかる。
「うわっ!? 危ないなぁ」
魔族の勇者はナイフを避け、ハナンの腕を掴む。
そして軽く捻られて、あっという間にナイフを奪われてしまった。
「僕は君を傷つけるつもりはないよ。それに刃物を振り回すのはやめた方が……ん? このナイフ、何か塗って……」
魔族の勇者がナイフに顔を近づけて匂いを嗅いで、顔を引きつらせる。
「え!? これ、まさか、毒!?」
言い当てられてハナンは歯噛みする。飲ませるのではなくナイフに塗って刺すからといって、安い刺激臭がする毒を買うんじゃなかったと後悔した。
魔族の勇者はほんの数瞬だけ考えてから、ハナンの腕を掴んだ。
「君、ちょっと、こっちおいで」
――こうしてハナンは魔族の勇者から説教を受けている。
ハナンが納得のいかないのは、暗殺しようとして殺されるでも暴行されるのではなく、正座で説教ということである。
しかもその内容が明らかにおかしいのだ。
「こんなナイフなんて持って、うっかり怪我したら取り返しのつかないことになるよ! せめて毒を塗るのはやめるんだ!」
この魔族の勇者が怒っているのは「暗殺しようとしたこと」ではなく「ナイフに毒を塗って振り回したこと」のようなのだ。先ほどから、うっかり怪我した場合の危険性についてこんこんと述べている。
「だいたい、毒を塗ったナイフなんて何に……ん? そういえば、なんでわざわざナイフに毒を塗っていたんだい?」
今更それを追求されたハナンは突っ伏しそうになった。
「クゥ、たぶんだけど、この子はお前を殺しに来たんじゃないか?」
魔族の勇者の近くにいた魔族の男が眉をひそめながら言った。
魔族の勇者――クゥは目をぱちくりさせて唸る。
「確かにナイフに毒を塗る理由はそれくらいしか思いつかないけど、なんでこの子は僕を狙うんだい?」
「たまにだけど、魔族を暗殺するために人間の偉い奴らが獣人とかホビット族とかの暗殺者を送ってくることがあるんだよ。しかもこんな子供のな。この世界の魔族は人間以外の魔力の弱い種族には甘いから、よく油断してやられるんだ」
魔族の男は苦虫を噛み潰したような顔をする。
クゥも同じような顔をした。
「だからってなんでこんな子供にそんなことを頼むなんて……」
「こんな子供だからこそ、油断するからちょうどいいんだろ」
「……ちょっと、あんたたち!」
先ほどから聞き捨てならない単語を言われ続けて、ハナンはたまらず叫ぶ。
「あたしはもう、17歳よ! 子供じゃない!」
この言葉に魔族の2人は目を点にして顔を合わせた。
「17歳って獣人だと成人なのかい?」
「さぁ?」
「成人は18だけど、あと2ヶ月だから子供じゃない!」
首を傾げる2人にハナンは歯噛みした。
「そういうものかい?」
「うーん、まぁ、ギリギリ子供とも言えるし、かろうじて大人とも言えるんじゃないか?」
「あー、もう! そう言うあんたらは何歳なのよ!」
全くわかってもらえなかったハナンは、2人に向かって叫ぶ。
「423だよ」
「同じだ」
「年寄りかよ!」
「「年寄りじゃない!」」
2人が口を揃えて反論したので、ハナンは半眼した。
ハナンは屈辱で歯を食いしばっていた。
馬で駆け続けてようやくそれらしき集団を発見したのが昨晩のことだ。聞いていた特徴通りの男もいた。
気づかれないよう、馬を置いて離れた場所から徒歩で向かい、夕方になってから暗殺のために隠れて様子を伺っていたのだ。
そしたら暗殺対象である勇者が普通に近寄って来た。
「君、何やっているんだい?」
怪訝そうに眉をひそめて、魔族の勇者はハナンに尋ねた。
ハナンは驚愕する。ハナンには魔法が使えず、魔力は感じないはずだ。もちろん気配も消していたため、よほど手練でなければ気づかれることもない。
なのに、この魔族の勇者はハナンの気配に気づいた。
咄嗟にハナンは持っていたナイフで切りかかる。
「うわっ!? 危ないなぁ」
魔族の勇者はナイフを避け、ハナンの腕を掴む。
そして軽く捻られて、あっという間にナイフを奪われてしまった。
「僕は君を傷つけるつもりはないよ。それに刃物を振り回すのはやめた方が……ん? このナイフ、何か塗って……」
魔族の勇者がナイフに顔を近づけて匂いを嗅いで、顔を引きつらせる。
「え!? これ、まさか、毒!?」
言い当てられてハナンは歯噛みする。飲ませるのではなくナイフに塗って刺すからといって、安い刺激臭がする毒を買うんじゃなかったと後悔した。
魔族の勇者はほんの数瞬だけ考えてから、ハナンの腕を掴んだ。
「君、ちょっと、こっちおいで」
――こうしてハナンは魔族の勇者から説教を受けている。
ハナンが納得のいかないのは、暗殺しようとして殺されるでも暴行されるのではなく、正座で説教ということである。
しかもその内容が明らかにおかしいのだ。
「こんなナイフなんて持って、うっかり怪我したら取り返しのつかないことになるよ! せめて毒を塗るのはやめるんだ!」
この魔族の勇者が怒っているのは「暗殺しようとしたこと」ではなく「ナイフに毒を塗って振り回したこと」のようなのだ。先ほどから、うっかり怪我した場合の危険性についてこんこんと述べている。
「だいたい、毒を塗ったナイフなんて何に……ん? そういえば、なんでわざわざナイフに毒を塗っていたんだい?」
今更それを追求されたハナンは突っ伏しそうになった。
「クゥ、たぶんだけど、この子はお前を殺しに来たんじゃないか?」
魔族の勇者の近くにいた魔族の男が眉をひそめながら言った。
魔族の勇者――クゥは目をぱちくりさせて唸る。
「確かにナイフに毒を塗る理由はそれくらいしか思いつかないけど、なんでこの子は僕を狙うんだい?」
「たまにだけど、魔族を暗殺するために人間の偉い奴らが獣人とかホビット族とかの暗殺者を送ってくることがあるんだよ。しかもこんな子供のな。この世界の魔族は人間以外の魔力の弱い種族には甘いから、よく油断してやられるんだ」
魔族の男は苦虫を噛み潰したような顔をする。
クゥも同じような顔をした。
「だからってなんでこんな子供にそんなことを頼むなんて……」
「こんな子供だからこそ、油断するからちょうどいいんだろ」
「……ちょっと、あんたたち!」
先ほどから聞き捨てならない単語を言われ続けて、ハナンはたまらず叫ぶ。
「あたしはもう、17歳よ! 子供じゃない!」
この言葉に魔族の2人は目を点にして顔を合わせた。
「17歳って獣人だと成人なのかい?」
「さぁ?」
「成人は18だけど、あと2ヶ月だから子供じゃない!」
首を傾げる2人にハナンは歯噛みした。
「そういうものかい?」
「うーん、まぁ、ギリギリ子供とも言えるし、かろうじて大人とも言えるんじゃないか?」
「あー、もう! そう言うあんたらは何歳なのよ!」
全くわかってもらえなかったハナンは、2人に向かって叫ぶ。
「423だよ」
「同じだ」
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「「年寄りじゃない!」」
2人が口を揃えて反論したので、ハナンは半眼した。
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