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第三十一話
逃げ出すティアーリアの後ろ姿にクライヴは叫ぶが、ティアーリアはそのままクライヴの自室から出ていってしまう。
──やってしまった
クライヴは、ティアーリアから向けられた恐怖に満ちた瞳を思い出し、立ち上がっていたその場にしゃがみこむ。
片手で自分の顔を覆い、項垂れるようにその場に蹲ると、先程まで怒りで染まっていた自分の感情に後悔が押し寄せてくる。
ティアーリアに、出会った事が過ちであった、と言われた瞬間にクライヴの頭の中は真っ白になってしまったのだ。
その前後に何と言っていたのか、ティアーリアの言葉が思い出せない。
今すぐティアーリアを追い掛けてティアーリアの自室に行った方がいい、と言うことは分かっている。
乱暴に口付けてしまった事を謝罪して、もう一度ちゃんと話し合う事が必要だ、と言うのは分かっているが、再度ティアーリアから拒絶されたら、恐怖に染まった瞳で自分を見られたら、と思うと自分の体が固まってしまい動く事が出来なくなってしまった。
もう二度と顔を見たくない、と言われたら······と言う恐怖心でクライヴはその場から動く事が出来ない。
いつもは夜になるとティアーリアの自室に向かい、二人でお茶の時間を楽しんでいたがこの状態でティアーリアの部屋に向かうと危険だ、とクライヴは考え、その日はティアーリアの部屋には伺わず明日以降、ゆっくりと時間を取ってティアーリアと話をしようと決めるとそのままクライヴは自室で朝まで過ごした。
「ティアーリア様!?」
自室へ駆ける中、廊下で驚いたようにこの邸のメイドや使用人に声を掛けられるが、ティアーリアはその声に足を止める事なくそのまま自室へと飛び込んだ。
「ぅ、······っ」
流れ出る涙はそのままに、ティアーリアはそのままずるずると扉に背中を付けたまましゃがみこむ。
自分の話をまったく聞いてくれず、激情のまま口付けられてクライヴが知らない男性のようで怖かった。
クライヴに呼び止められたが、ティアーリアは衝動のままに自室へと駆け戻ってしまった事を今になって後悔する。
あれだけ顔合わせの時期に色々と誤解し合っていたのだ。
今回もクライヴが何かを誤解してしまっているかもしれない、とティアーリアは考えたが、クライヴの瞳に現れた失望と落胆の感情に、恐れを抱いた。
これ以上クライヴから失望されてしまっては、この結婚の話が無くなってしまうかもしれない。
ティアーリアだって、クライヴ以外の男性と結婚する事などもう無理だ。
この後、いつものようにクライヴは自室に来てくれるだろうか。それとも、これからやはり自分からもう一度クライヴの自室に戻った方がいいか。
「でも······、もしクライヴ様の部屋に入れて貰えなかったら······」
きっと自分は耐えられなくなってこの邸を出ていってしまうだろう。
この後のいつもの夜のお茶の時間を待っていた方がいいのかもしれない。
ティアーリアはそう考えて、クライヴの訪れを待つ事にした。
だが、いくら自室で待ち続けてもクライヴがティアーリアの自室を訪れる事はなく、その日一晩中ティアーリアはただただ待ち続けた。
メイドに用意してもらったお茶が冷めてしまっても、夜が更けて深々と冷え込んで足先が冷たくなってしまっても。
夜が明け、空が白んで来るまでティアーリアはクライヴを待ち続けた。
「──やっぱり、クライヴ様はもう······」
ティアーリアはぽつりと呟くと、自分の頬を流れ落ちる涙はそのままに静かに泣き続けた。
そして、その日の朝。
朝食の時間になってもいつまでも姿を表さないティアーリアを呼びに来たメイドが自室でソファに倒れ込んでいるティアーリアを見つけて大騒動になった。
ティアーリアは、冷え込んだ夜中クライヴの訪問を待ち続けて体を冷やし、熱を出してしまったのだった。
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