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第三十三話
ティアーリアが熱を出し、医者が帰ってからクライヴはティアーリアの側を離れる事はなく、自室に戻らずに仕事の書類をティアーリアの自室に運んでもらうとそのままティアーリアの看病をしつつ、空いた時間にソファに場所を移動して仕事の書類を片付けていった。
ティアーリアが目覚めた時、自分が一番最初にティアーリアの側に居たい。
自分の顔なんてもう見たくない、と言われたとしても一番最初に気付きたい、側に居たい。
クライヴは眠るティアーリアに視線をやると、深い溜息を零した。
「クライヴ様······、一度休憩されてはどうですか?昨日の朝からずっとティアーリア様の自室で仕事とティアーリア様の看病に······お疲れでしょう」
「いや······、俺がティアーリアの側に居たいだけだから。それに、ちゃんと自分で小休憩は入れてるから大丈夫だ」
ティアーリアの侍女が心配そうにクライヴに声をかけるが、クライヴは微笑むと首を横に振る。
実際、クライヴは仕事の合間にティアーリアの様子を見たりしていて根詰めて仕事をしている訳ではない。
心配そうにしている侍女にもう一度大丈夫だ、と伝えると、クライヴは外で待機しているイラルドの元へ新しい書類を持ってこさせようとソファから腰を上げた。
ガチャリ、とティアーリアの自室の扉を開けるとクライヴはひょこりと扉から顔を出しイラルドに声を掛ける。
「イラルド、悪いが俺の書斎から机の上に乗っている書類の束を持ってきて貰ってもいいか?」
「分かりました、余り無理しないで下さいよ」
イラルドは、クライヴにそう返すとクライヴの書斎へと向かう為その場を離れる。
クライヴはイラルドの後ろ姿を眺めながら、また小言を言われそうだな、と自分の後頭部をかいた。
イラルドに持ってきて貰った書類をティアーリアの自室、ローテーブルでソファに座りながら処理していく。
既に陽は沈み、窓の外は闇に包まれている。
室内にはティアーリアの呼吸の音と、クライヴの書類に走らせるペンの音だけが響いている。
書類の処理が一段落すると、クライヴはティアーリアへと視線を向ける。
「ああ、少し呼吸が楽に出来るようになっているな······」
ティアーリアの熱が下がってきているのだろう。
クライヴはティアーリアに近付くと、そっと額に手を当てた。
額から伝わる熱が、平熱へと戻っている事にクライヴは安堵の吐息を零す。
「良かった······」
クライヴはティアーリアのベッド脇に置いていた椅子に腰を下ろすとティアーリアの顔を覗き込む。
正常に呼吸している姿に、頬に赤みが戻りクライヴは泣きそうな表情でティアーリアを見つめる。
自分のせいでティアーリアを傷付け、追い詰め体を壊させてしまった。
ティアーリアは、目が覚めた時に自分を攻めるだろうか。
ティアーリアから拒絶されるのがとても怖い。
クライヴと結婚するのはもう嫌だ、と言われてしまったら、と考え、クライヴは自分で想像してしまったその恐ろしすぎる内容にぞっとする。
クライヴは掛け布団から出ているティアーリアの手をそっと握り締めると、自分の口元へと持ってくる。
ティアーリアの手を握り締めると、クライヴは瞳を閉じて早く治るように、と強く祈る。
どれくらいそうしていただろうか、僅かに開けた部屋の窓から夜風が入り込み、カーテンがさわさわと揺れている。
風の音に紛れて、ティアーリアの唇から微かに言葉が発せられた。
「──ティアーリア?」
クライヴはティアーリアの小さな声に反応すると、閉じていた瞳を開けてティアーリアの顔を見つめる。
見つめた先でティアーリアの眉間に皺が寄ると、クライヴが握り締めたティアーリアの指先が僅かに動く。
「······ん、」
「ティアーリア!」
目覚めそうな雰囲気のティアーリアに、クライヴは自分の身を乗り出すとティアーリアに呼び掛ける。
ティアーリアの長い睫毛がふるふると震え、暫ししてそっと瞳をひらいた。
「──?」
まだぼんやりとしているのだろう。
ティアーリアはうろ、と戸惑ったように視線をさ迷わせている。
その内視界がクリアになって来たのだろう、自分の顔を覗き込むクライヴに気付くと、ティアーリアは驚きと共に、悲しみの色を濃く瞳に映して泣きそうな表情でクライヴと視線をあわせた。
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