気付くのが遅すぎた

高瀬船

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フレディが驚きに目を見開き、停止してしまった事に、青年が何か自分はおかしな事を言ってしまっただろうか、とおろおろとしているとフレディが震える唇をゆっくりと開いた。

「──魔、力……?自分で、治せる、と今君は言ったのか……?」
「──? え、ええ。はい……」

そんな不思議な事を言ってしまっただろうか、と青年がしゅん、と落ち込んだように俯きか細く声を出して答えると、青年から距離が離れていたフレディがカツカツと靴の踵を鳴らして近付く。

突然近付いて来たフレディに、青年は何か怒らせてしまっただろうか、と肩をビクつかせていると、青年の目の前までやってきたフレディは、青年の肩を自分の両手でガシリ、と掴むと顔を覗き込むようにして再度唇を開く。

「今、君は自分自身に対して、傷を治す事が出来ると言ったね……?治癒魔法を扱える、と言う事かな?」
「え、はい、そうです……?治癒魔法、と言うか魔力を消費する行為そのもの全てを使用出来ます……」

 何故そんな事を聞くのだろうか、と言うようにきょとんとした表情で青年はフレディを見上げる。



この国では、いや、この国以外でも、魔力を持ち、魔法を使用出来る者がいなくなって長い年月が経って居る。
だからこそ、魔獣が放つ魔素を浄化する事が出来る聖女がこの国でとても重要な役割を持ち、重宝されている。

昔は魔力を持つ人間が多く、魔力を使用して魔法を使う事が出来る人間がこの大陸には大勢居たらしいが、今はもう魔力を持つ人間も、魔法を使う事が出来る人間もほぼいない。
だから何処からともなく現れる聖女をこの国は逃がさぬよう、閉じ込め王族で囲うのだが、目の前に居る青年は聖女が使う「浄化の奇跡」のような魔法を使用する事が出来る、とあっさりと口にしたのだ。

その力が、どれ程貴重で、この大陸の人間達が喉から手が出る程欲している力なのか。
その事を全くと言っていい程理解していない青年に、フレディは危機感を覚える。

「この、事を他に知っている者は……?君は、他の人間にもその事を話した事があるのかい?」

 フレディが優しく言葉を紡ぎ、青年に話し掛けると青年はふるふると否定するように首を横に振って唇を開いた。

「──いえ、俺が生きて来た今までで、この事をお話したのは初めてです。そもそも、逃げ出す前は魔法を使う事が出来ないように、魔力を遮断する手枷を嵌められていましたから……」
「手枷……」

フレディは、青年から言われた言葉に思わずベッド横にあるサイドテーブルに視線を向ける。
フレディの視線を追って、青年もサイドテーブルに顔を向けると、そこには助けた時に青年の手首に嵌っていた手枷が無造作に置かれていた。

何と書かれているか分からない、今のこの国では使用されていない言語が刻まれた手枷。
これが、青年の魔力を封じていたものなのだと言う事が直ぐに分かる。

「これ、があって……ずっと魔法が使えなくって……逃げ出す事も、仲間を助ける事も出来なかったんです……あなたが壊して、外して下さった、んですよね……?」
「──いや、これは、ボロボロになった君を救出した時には殆ど壊れかけていたんだ。……治療の最中に自然と壊れ落ちたから、そこに置いてあるのだが……」
「そうだったんですね……。おかしいな……今まで壊れそうになった事は無かったのですが……」

フレディの言葉に、青年も不思議そうに首を傾げるが分からない事を考えても仕方がない。
フレディは、先程青年から願われた通り、魔法の使用を許可すると、ぱっと表情を明るくさせた青年はお礼を口にして、自分の手のひらを自分の体に向けて何事か呟いた。

古代語、なのだろうか。
今のこの国では聞きなれない発音で青年が呟くと、青年の手のひらから眩いけれど柔らかな清廉な光がぶわり、と膨れ上がり、青年の体全体を包み込んだ。

魔法、と言う物だろうか。

フレディは、聖女が力を使う時に見た時のような似た光を青年から見てとり、無意識に「本物だ」と心の中で呟いた。

フレディの目の前で、青年の体の傷は見る見る内に塞がり、肌に酷い傷痕が残ってしまうだろう、と思っていた大きな傷も綺麗さっぱりと塞がり、消えてまるで最初から怪我などなかった、と言う程綺麗に治った。

フレディが、青年の力に目を白黒させて様々な事や懸念を考えていると、青年は綺麗に治った自分の両手を握ったり、開いたりとしながら喜びが滲む声音でフレディに向かって願いを口にした。



「貴族様、これで体の傷は治ったので少しだけ体を動かしに外を歩いてもいいでしょうか?」
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