19 / 78
19
しおりを挟むその場には、ざわざわと隣の学園生と何やら囁きあっている者や、高位貴族である侯爵家のリスティアナと、王太子であるヴィルジールの婚約が白紙になりそうな事に楽しんでいる者、野次馬感覚でやはり楽しんでいる者。
そうして、国の内部がこれから揺れ出しそうな事を察知し、報告の為に家に帰る者達でざわめいた。
(──私も、今日は学園に出ずに戻った方がいいでしょうね……お父様に報告をしなくてはいけないわ……)
リスティアナが自分の顎に手を当てそう考えていると、ざわめく学園生達の間を縫って聞き慣れた声がその場に響いた。
「──? 何故、このような騒ぎに……? あら、リスティアナ。おはよう、どうかしたのかしら?」
「──コリーナ!」
心強いコリーナの登場に、リスティアナはぱっと視線を上げるとコリーナに向かって近付き、そっと囁く。
「コリーナ。殿下と、ナタリア嬢がこの場で騒ぎを起こしてしまったの……ナタリア嬢の発言で、恐らく全てを察した者も中には居ると思うわ」
「……っ、何ですって……? もうっ、何故私がたまたま遅く登園してしまった時にこのような事が起こるのかしらね……っ」
「でも、助かったわコリーナ。私は、急ぎ邸に戻りお父様に報告するわ。アイリーン嬢と、ティファ嬢をよろしくね、何かあれば力になって差し上げて」
リスティアナの声に、コリーナは「分かったわ」と小さく頷くと周囲の学園生達に聞こえるように言い放つ。
「学生の本分は、学ぶ事では無くて? いつまでジロジロと女性を不躾な視線で見つめ続けるのかしら? 貴族として恥ずべき行動は控えて欲しいわね」
侯爵令嬢であるコリーナの言葉に、周囲に居た学園生達は気まずそうに視線を逸らし、一人また一人とぽつぽつと学園の建物へと足を向けて歩き出す。
その様子を見ながら、リスティアナはコリーナに向かって微笑むと唇を開く。
「……コリーナ、ありがとう。ふふ、貴女には昔から助けられてばかりね?」
「そんなのお互い様よ。リスティアナ、貴女だって昔から私を助けてくれていたわ」
ぱちり、とコリーナがウィンクをしてリスティアナにそう言うと、「また休日明けに会いましょう」とリスティアナの肩をぽん、と叩いてから学園の建物の方へと歩いて行った。
馬車に乗り、急ぎ侯爵邸に帰宅したリスティアナは馬車から降りるなり父親の執務室へと真っ直ぐ向かう。
学園に向かった筈のリスティアナが直ぐに戻って来た事に使用人達は何か問題でも起きたのか、と察して直ぐにリスティアナが学園に持参していた荷物達を預かると、リスティアナは使用人にお礼を告げて執務室の前までやって来る。
(──午前中のお忙しい時間帯に……このような報告を上げてはお父様の仕事を増やしてしまうかもしれないわね……。けれど、このまま見過ごしておくわけにはいかないわ……)
リスティアナはぐっ、と小さく拳を握ると目の前の扉をノックした。
「──お父様、私ですリスティアナでございます」
「……リスティアナ? 入りなさい」
「失礼致しますわ」
父親の返答があった事を確認すると、リスティアナはそっと扉を開けて中へと入る。
父親は机に向かい何枚かの書類を確認していたが、リスティアナが入室してくるとその書類を机の上に置き、椅子から立ち上がる。
「ソファに座りなさい。今、お茶を用意させよう」
「お仕事中に申し訳ございません」
「なに、気にするな。今日は午後に領地の視察が入っている程度だからな」
父親はリスティアナが腰を下ろした向かいのソファに自らも腰を下ろすと、チリンとベルを鳴らして使用人を呼び、お茶の用意をするよう告げる。
「──何か、あったな?」
「……はい」
お茶の用意が終わり、使用人が部屋から下がると父親はリスティアナに視線を向けて瞳を細める。
リスティアナは、学園で起きた事を全て父親に話す事に決めると、ゆっくりと唇を開いた──。
「──なるほどな……」
リスティアナが全てを話し終えると、考え込むようにして父親が自分の顎に手を当てる。
「殿下から婚約解消の申し出が行われてから数日……。不自然な程事態が急速に悪くなって行くな」
「──そうなのです、私もその事が引っ掛かっております」
「ああ。初めは恋にのぼせ上がり判断力を無くしているのかと思っていたのだが……それにしては強引過ぎるやり口だ」
「ええ、学園生が大勢あの場にいるにも関わらず、自国の王族の醜聞となり得る事柄を……あのように声を大きくして話して聞かせるでしょうか」
「今のリスティアナの話では、殿下が上手くマロー子爵家の令嬢を制していないだけのようにも聞こえるが……」
「ええ、それもあるとは思います。お子を第一に優先するあまり、ご令嬢に対して強く静止する事が出来ておりませんわ」
「王族の血筋を大事にするのは分かるが……」
父親がちらり、と気にするようにリスティアナに視線を向けてくるが、リスティアナは気にするでもなく父親に続いてキッパリと口にする。
「殿下は、どうにも情けない程にあの令嬢に強く出れないようです。身篭った経緯を、詳しく調べた方が良いかと思います、お父様」
「──そうだな。詳しく調べさせよう。他国に行っているオルファを呼び戻そう」
「お兄様を……! かしこまりましたわ、お父様」
「ああ、これから国の内部が荒れるかもしれんからな……手伝わせよう」
573
あなたにおすすめの小説
私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?
風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。
戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。
愛人はリミアリアの姉のフラワ。
フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。
「俺にはフラワがいる。お前などいらん」
フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。
捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。
邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです
ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります
恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」
「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」
十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。
再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、
その瞬間に決意した。
「ええ、喜んで差し上げますわ」
将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。
跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、
王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。
「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」
聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる