69 / 78
68
しおりを挟むどっ、とリスティアナが居る後方にまで響いて来た歓声に、どきりと心臓が跳ねる。
「──スノーケア卿、は……!」
リスティアナは前方へと目を凝らしてリオルドの姿を必死に確認しようとするが、このような離れた場所からは当然確認など出来る筈も無い。
怪我は無いだろうか。
無事だろうか、とリスティアナが前方へ視線を送っていると、ウルム国の軍師がリスティアナの方へと歩いて来た。
「メイブルム嬢。我らの勝ちです。帝国軍は退却しましたよ」
「──ほっ、本当ですか……!?」
リスティアナがぱぁっと顔を輝かせ、前線へと向かおうと体の向きを変えた所で軍師が慌てて声を掛けた。
「──お待ちを……っ! 帝国軍の大半が退却したと言っても、まだ敗残兵は居ます。敗残兵を全て対処するまで、この場でお待ち下さい」
「……っ、た、確かに……っ。失礼致しました……。その間、移動のお手伝いを致しますわ」
「ありがとうございます。スノーケア卿も、ご無事ですよ。ご安心下さい」
「──っ! ありがとうございます」
軍師の言葉に、リスティアナは笑顔でお礼を告げると後方の陣へと向かい駆けて行った。
「スノーケア卿、ご無事でしたか!」
「──軍隊長殿……!」
リオルドと、ルカスヴェタは別の隊で戦闘を行っていた為、お互いの無事を確認するとほっと表情を綻ばせた。
「帝国軍はタナトス領から撤退したとは言え、残兵が居ますから掃討してから後方の部隊を呼びましょうか」
「──ありがとうございます、そう致しましょうか」
二人は少ない会話を交わした後、直ぐに残兵の処理へと移る。
ルカスヴェタはウルム国の兵士達に、リオルドは自領の兵士達に素早く指示を飛ばすと撤退して行く帝国軍にも追撃を行わせ、完全にタナトス領内から帝国軍を撤退させた。
リスティアナ達後方部隊がリオルドやルカスヴェタ達と合流する頃には、とっぷりと日が暮れ夜の闇が辺りを覆い隠すような時分になってからだった。
リスティアナは数名の護衛と共にリオルドを探しに前線に居た兵達の間を進み、前方に月の明かりを受けて輝く白銀の髪の毛を見付けて無意識の内に駆け出した。
「──スノーケア卿……っ、!」
リオルドも、リスティアナを探していたのだろうか。
きょろきょろと周囲を見回していたが、リスティアナの声が聞こえた途端、勢い良く振り向くとリスティアナの姿を見付けて表情をゆるゆると緩めた。
「リスティアナ嬢、ご無事でしたか……!」
「スノーケア卿も、ご無事で良かったです。お怪我はございませんか?」
お互い顔を見合わせて安心したように肩から力を抜くと、笑顔で言葉を交わし合う。
リオルドは、リスティアナの頬に付いた砂や土汚れを自分の指先で拭う。
躊躇いも無く触れてくるリオルドに、リスティアナは頬を染めるとうろ、と視線を彷徨わせる。
以前、リオルドとリスティアナはお互いに自分の気持ちを認め、互いにその想いをそれとなく吐露しているのだが、それ以降からリオルドはリスティアナに対する距離感が近くなっている。
学園で過ごしていた時は「学友」として適切な距離感をお互い保っていたと言うのに、気持ちを自覚し、言葉遊びのように相手に言葉を返してからリスティアナはリオルドから向けられる視線に、熱が伴うようになっているような気がしていた。
「あ、ありがとうございます……スノーケア卿……、大丈夫ですわ……」
「ですがお顔に汚れが……。早く邸に入り、汚れを落としましょう」
汚れを拭った後も、大切な物に触れるように何度も指先で頬をなぞられ、リスティアナは擽ったいような心地になりリオルドから視線をそっと外しながら唇を開いた。
「スノーケア卿の、辺境伯邸がご無事で良かったですわ……その、もう……邸内に入る事が可能なのですか?」
「──ええ」
リオルドはリスティアナの頬から手を離すと、すっとリスティアナの手を流れるような仕草で攫い、優しく歩き始める。
「兄上と連絡が取れまして、跳ね橋を下げて頂く事になりましたので、城塞内に入る準備をしましょうか。追軍の多くの兵達はこのまま帝国軍に備えたままこの場所で待機して貰うので、後は我々が中へと入るだけです」
「そうなのですね……、スノーケア卿のお兄様もご無事で良かったです」
「ええ、ありがとうございます」
リオルドが笑顔でリスティアナに言葉を返した後、今回の戦闘で得た情報をスノーケア辺境伯の邸──もはや城塞と呼べるその地へと向かいながらリスティアナへと説明してくれた。
「敵方は帝国軍のみならぬ、タナトス領と国土が隣接している隣国の兵も含まれておりました。……二国の連合軍だったのです。帝国軍の兵士の姿も多かったのですが、隣国の者の姿もあったので……二国は恐らく奪ったタナトス領を足掛かりに、本格的にアロースタリーズ王都まで侵攻を開始する予定だったのでしょう」
「タナトス領を孤立させる為に……帝国はあらゆる事件を王都内で発生させていたのですね。タナトス領での異変を少しでも察知するのが遅れるように、と」
「──ええ。国盗りのために様々な布石を打たれていたのでしょうね。実際、我々は王都に目を向けてしまっており、タナトス領の異変に気付いておりませんでしたから。……いち早く気付いたのはやはりメイブルム侯爵様で、兄上も心から感謝している、と言っています」
「父が、少しでもお役に立てて良かったですわ」
「ふふ、リスティアナ嬢のお父上はこの国の救世主ですよ」
リオルドはそう言葉にすると、リスティアナと共に跳ね橋を通過してスノーケア辺境伯家へと足を踏み入れた。
404
あなたにおすすめの小説
私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです
ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?
風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。
戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。
愛人はリミアリアの姉のフラワ。
フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。
「俺にはフラワがいる。お前などいらん」
フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。
捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる