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しおりを挟む「オースティン・メイブルム、リスティアナ・メイブルム。そしてリオルド・スノーケア。此度の其方らの働きでアロースタリーズは滅亡を免れた。オースティン・メイブルムは四大侯爵家の中で唯一国内で起きている異変にいち早く気付き、国の滅亡を阻止する為に報せをくれ、自らも戦地へ赴く行動を起こしてくれた事、感謝してもし切れぬな。……その過程で、足を失ってしまった事は謝罪してもし切れぬ……。我が国で抱えている腕の良い医師や御殿医、全ての者を呼び寄せ最善の医療を約束しよう。ウルム国から来て頂いたティシア殿も心配しておった。あちらの国の医師も呼んでくれるとの事だ。暫くゆっくりと休んでくれ」
「──有り難きお言葉でございます」
国王バルハルムドの言葉に、リスティアナの父オースティンは深く頭を下げる。
そして、バルハルムドはリスティアナとリオルドが通う学園の事についても説明してくれた。
国の諜報専門部隊が学園内の騒動を確認した所、やはり帝国の手の者達がナタリアを擁護する声を上げ、帝国と通じていたこの国の貴族の家の者達がそれに便乗するようにナタリアとヴィルジールの仲を肯定しナタリアを誉めそやして回り、リスティアナについての悪い噂を流していたと言う証拠が得られた。
学園内を荒らし、リスティアナの侯爵家を王家から遠ざけ、同時に他の三家の侯爵家にも大なり小なり小さな事件を起こす。
一つ一つの事柄は小さな事件でも、それが増えて重なり、王家へと報告が行けば処理しなければならない事柄が増える。
そうして、国の中心部がタナトス領から目が逸れた時を待ち、タナトス領を落としに掛かると言う筋書きだったようだった。
「──まあ、そこに居る兄上……いや、兄上とも最早呼ぶ事も出来まいな。……叛逆者バジュラドはタナトス領を落とした帝国軍と共に王都まで攻め上がり、私を亡き者としようとしていたらしいが……。帝国軍が撤退した際に切り捨てられたらしい」
玉座に座り、肘置きに手を置いた手で頬杖を付きつつバルハルムドは凍てつくような視線と声音でバジュラドを射抜く。
「……叛逆者には死を持って罪を償って貰わねばならん……」
「──バルハルムドっ、貴様っ」
バルハルムドの言葉に怒りや怨嗟の籠った表情で睨み付け、バジュラドは言葉を発するが近くに居た衛兵にすぐに床へと頭を押さえ付けられる。
その様子を見詰めていたバルハルムドは数秒、考えの読めぬ瞳でバジュラドを見詰めていたがふっ、と視線を外すとよく通る声で言葉を発した。
「──叛逆者、バジュラドの処刑は明日。国民の前で行う。それと同時に、此度の騒動の説明を国民達の前で行う」
バルハルムドの言葉を聞き、バジュラドは暴れ騒ぎ、逃げ出そうと藻掻いていたがバルハルムドの「連れて行け」と言う言葉に衛兵達がバジュラドを半ば引き摺るようにして謁見の間から連れ出し、退出して行った。
謁見の間は先程まで騒いで居たバジュラドが退出したからか、しん、と耳に痛いほどの静寂に包まれており、リスティアナとリオルドは処刑を言い渡された者の悲痛な叫びが耳にこびり付いているようで、顔色を若干悪くさせている。
リスティアナとリオルドとは違い、オースティンは表情を変える事無く冷静な表情のままバルハルムドに視線を向けている。
バルハルムドは、オースティンのその視線に気付くと片眉を上げて唇を開いた。
「……、? オースティン・メイブルム。何か言いたい事が……?」
「──はい。陛下にご相談が……」
オースティンの言葉に、バルハルムドは「聞こうか」と口元をゆったりと緩めると、オースティンはリスティアナとリオルドに視線を向けてバルハルムドに言葉を返した。
「これから先、ご相談したい内容はこの場では少し……。故に、まことに勝手ながら場所を移したく……」
「……なるほどな。ならば場所を移そうか。……ウルム国の追軍についての報告も得ているので、リスティアナ・メイブルムとリオルド・スノーケアは帰宅しても良いぞ。──この度の働き、感謝する」
「──はっ、ありがとうございます」
バルハルムドの言葉に、リスティアナとリオルドは声を揃えてバルハルムドに返事を返すと、リスティアナは父親オースティンをちらりと気遣うように見やるが、オースティンから笑みを向けられてリオルドと共に謁見の間から退出した。
「メイブルム侯爵のお話とは……何なのでしょう?」
謁見の間から退出し、王城の廊下を歩いているとリスティアナの隣を歩いていたリオルドがぽつりと呟いた。
「私にも……分かりませんが……。お父様が私達二人を帰して陛下とお話をしたいと言う事は、私やスノーケア卿が居ては話しにくい事柄なのかもしれません」
「──……学院に通っている身ではまだ一人前の大人とは見られませんしね……」
「ええ……。私も、今回の一件で痛感致しましたわ……。恐らく、これからお父様と陛下は此度の騒動について詳しくお話をするのでしょうから……」
リスティアナの言葉にリオルドも同意するように小さく頷くと、前方からリスティアナの兄、オルファがゆったりと二人に向かって歩いて来るのが見えて、二人はその場に立ち止まった。
「お兄様──?」
「メイブルム卿……?」
リスティアナとリオルドに軽く片手を上げてオルファは応えると、二人の目の前までやって来る。
「リスティアナも、スノーケア卿も陛下との謁見が終わったんだな?」
「はい。今はお父様が陛下とお話を……」
「あー……そっか、もう始めたか……直ぐに行かないと……」
「お兄様も、お父様と陛下とお話を?」
「ああ。少し報告しなければならない事があってな……。そうだ、王城の門前にリスティアナの友人達が来ているぞ。あまり話せていなかっただろう? 話して来たらどうだ?」
「──っ! コリーナ達でしょうか!」
リスティアナがぱあっ、と表情を明るくさせるとそわそわと廊下の先を気にするように視線を向ける。
その様子を見たオルファとリオルドが苦笑していると、オルファがリオルドに向かって唇を開いた。
「スノーケア卿。まだ国内がごたついているから、リスティアナの護衛を頼んでもいいか? 邸まで送って貰えると助かる」
「わ、私で宜しければ……!」
「スノーケア卿ならば安心だからな。……さて、俺はご破談になった婚約について話して来るよ。また後で、リスティアナ」
けろっととんでもない事を口にして、ひらひらと後ろ手に手を振りながら去って行くオルファの背中を見ながら、リスティアナとリオルドはぎょっと瞳を見開いて驚きの声を上げた。
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