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しおりを挟むくすくす、と可憐に笑うエリシャの隣で、エリシャの母エリザベートもふん、と鼻を鳴らす。
「ええ、そうねエリシャ。アイーシャが持っている物は全部全部、可愛い私達の子供であるエリシャの物ですからね。養子にして、ここまで育ててあげただけ、感謝して欲しいわ」
「ふふっ、ありがとうございますお母様。ああ、早くベルトルト様も私の物にしたいわ……」
ベルトルトは、流石侯爵家の人間だからか所作が美しく、洗練されている。
見目も麗しく、品行方正で学園内でも人気の男性らしい。ただ、侯爵家を継ぐ立場では無く、侯爵家の次男と言う事、そして侯爵家が財政難に陥っている事から彼に手を伸ばす令嬢はあまり居ないらしいが、容姿は極上。頭も良く、正義感も強い。
可憐な見た目であるエリシャがアイーシャを怖がり、暴力を振るわれている、と印象付ける事が出来た。
「ベルトルト様は、今後はこの邸に来る回数を増やしてくれると言ってましたわ。ふふ、お会いするのが楽しみです」
「ええ、そうね。ベルトルト様が来られたら先ずは貴女を呼びましょう。──あんな子、ベルトルト様と会う時間は少しだけで良いわ」
くすくす、と母と娘は笑い合いながら、眼下に居るアイーシャを嘲笑い続けた。
夕食の時間。
アイーシャが食堂に入るなり、義母であるエリザベートからギッと鋭い視線を向けられ、義父であるケネブから冷めた視線を向けられる。
アイーシャは小さく「遅れて申し訳ございません」と小さく呟くと、自分の席──エリシャの外側の椅子へと腰を下ろす。
エリシャは入って来たアイーシャになど目もくれず、まるで食堂内にはアイーシャ等初めから居ない物として食事が始まる。
"家族三人"の和やかな会話が聞こえて来るが、アイーシャはその会話に入る事は無く、ただただ静かに食事を自分の口元に運ぶ。
幼い頃は、自分を見て欲しくて何とか家族三人の会話に入ろうと必死に話し掛けたり、関心を持って欲しいから、と行動をしていたがそれは無意味な行動だと気付いてからアイーシャはただ静かに、邸内で息を殺すように生きていた。
暴力を振るわれる事も無い。
食事を抜かれる事も無い。
ただ、生きるだけに必要な最低限な援助だけはしてくれている。
みすぼらしい、と噂にならぬ様にお茶会に呼ばれれば新しいドレスや宝飾類を与えられる。
「外」では仲が良い、とは言い難いが最低限「家族」としての交流──会話は行われる。
だから、誰も知らないのだ。
アイーシャが邸の中で孤独に苛まれているのも。
ある意味、この状況が子供に対する「虐待」だと言う事も誰もが気付かない。
だからこそ、アイーシャはもう直ぐ通う事になる学園に、思いを馳せる毎日だ。
早く、この子爵家から解放されたい。
しっかりと自分自身を見てくれる人と交流をしたい。
(──ベルトルト様は……エリシャの姿に、言葉に……騙されてしまっているわね……それを私が否定したとしても、きっともう無理……)
幼い頃から似たような事が沢山起きた。
してもいない事をまるで「本当」のように信じ込み、エリシャの事を皆が信じる。
エリシャが庇護欲を誘う、可愛らしい見た目をしているからだろうか。
エリシャが泣き、アイーシャに怯えたような視線を向けると、周囲は勝手に「勘違い」をするのだ。
アイーシャがありもしない事を否定しようとすればするだけ周囲は「必死になる程怪しい」と益々アイーシャに厳しい目を向けるようになる。
(結局、私の言葉なんて誰も信じないんだから……)
お茶会で出会った友人達も、いつの間にかアイーシャから離れて行ってしまい、今ではエリシャと仲の良い友人関係を築いている。
訂正するのも、新しい友人関係を築くのもアイーシャはもう疲れていた。
(どうせ、友人が出来たとしても……最後はエリシャの友人になっちゃうんだから……)
だからこそ、早く学園に通うようになって。
少しだけでもこの家から離れたい。
学園を卒業したら、ベルトルトと結婚してこの家に再び戻らなければいけないのだ。
再びこの家に戻るまで、少しの間だけでも学園生活を楽しみたい、と考えていたアイーシャは、まさか学園にエリシャが一緒に通おうと準備している事に全く気付かなかった。
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