【完結】お前なんていらない。と言われましたので

高瀬船

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 学園へと向かう馬車の中。
 馬車に揺られながら、アイーシャは朝から何とも言えない疲労感に苛まれながら窓の外に視線を向け続けている。

 アイーシャのルドラン子爵邸にやって来たベルトルトはアイーシャに向けて軽く挨拶をした後、にこにこと笑顔を浮かべながらエリシャをエスコートし、アイーシャを残したままさっさと二人で馬車に乗り込んでしまった。
 アイーシャは御者の手を借りて馬車に乗り込む事になったのだが、アイーシャの婚約者の筈のベルトルトはエリシャとお喋りに夢中になっていて、アイーシャにはちっとも興味を抱かない。

(今更だわ、本当に……)

 まるで、アイーシャの存在など無いかのようにエリシャとベルトルトは楽しげに二人で会話をしている。

「エリシャ。学園内を僕が案内しよう。内部はとても広くて、最初の頃は迷ってしまう可能性があるからね」
「本当ですか……! 嬉しいですベルトルト様……! あっ、でも……お姉様は……」

 ちらり、とエリシャから気まずそうな視線を向けられてアイーシャは二人の方へと顔を向ける。

 ベルトルトはあからさまに残念そうな、エリシャと二人で学園内を歩きたいと言う感情が透けて見えて、アイーシャは小さく首を横に振る。

「私は、結構ですわ……。ベルトルト様はどうぞエリシャを案内してあげて下さい」
「──そ、そうかい? 悪いねアイーシャ。上の学年の人にお願いすればもしかしたら案内してくれるかもしれないから、声を掛けてみるといいよ」

 ベルトルトはほっと安心したように表情を綻ばせると、アイーシャに向けていた視線を直ぐにエリシャへと戻し、会話を再開する。

 アイーシャは、その様子にこそりと溜息を吐き出すと、まだ学園に着かないのかしら、と窓の外をじっと見詰めた。



 学園に到着し、ルドラン子爵邸を出る時と同様ベルトルトはエリシャが馬車から降りるのを手伝うと、アイーシャが馬車を降りるのを待つ事無く学園の門の方向へと向かい歩き出してしまう。
 学園の方向を指差し、既に学園の説明を始めているのだろう。
 ベルトルトと、エリシャの楽しげな声が薄らと聞こえて来て、アイーシャはその声が耳に入らないよう、学園の門を仰ぎ見た。

 貴族学園は国内にいくつかあるが、アイーシャ達が通うこの学園は、王都にあり国内で一番規模が大きい。
 王都近郊や、王都に居を構える貴族達の殆どがこの学園に入学し、約四年間しっかりと魔法やマナー、学問を学ぶ。

「──凄い、大きい……」

 国で一番の規模を誇る為、まるで高位貴族の居城のような華やかで豪奢な造りに、アイーシャがついつい感嘆の声を漏らしていると、背後から声を掛けられる。

「──ご令嬢、そんな所でつっ立ってどうしたんだ……? 新しい生徒か? それならば早く中に入った方が良い。新しい生徒を迎える催しがあるだろう」
「へっ、……あっ、! も、申し訳ございません……っ! ありがとうございますっ!」

 この学園に勤める先生だろうか。
 低く、落ち着いた声音にアイーシャはびくりと体を震わせると声を掛けてくれた人物に素早く振り返り、深く頭を下げる。

 頭を下げる際にちらり、と見えた男性の服装は、アイーシャと同じ学園の制服を身に付けていた為、先生ではなかったのね、とアイーシャは勘違いしてしまった自分に少しだけ恥ずかしくなりながら、下げていた頭を上げると直ぐに前方に向かって駆けて行く。

 貴族令嬢である自分が走る、などとはしたないと思ってしまうが、生徒の姿がまばらになった門付近であれば、誰かに見られて咎められる事は無いだろう。

 学園の方向へ振り向く際に、一瞬だけちらり、と視界に入った学園生の夜明け前のような美しいネイビーブルーの髪の毛がふわりと風に靡いていて一瞬その美しさに目を奪われたが、アイーシャはそのまま振り返る事無く、門の奥、建物内に向かい駆けて行った。

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