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しおりを挟む「アイーシャ……? 何故、アイーシャがユルドラーク卿と……?」
ベルトルトも、戸惑ったようにアイーシャとクォンツが出て行く姿を見詰め混乱したようにぽつり、と呟く。
隣に居たエリシャはぎりっ、と自分の唇を噛むとベルトルトの興味が自分から逸れた事に苛立ちも感じて、きゅうっ、とベルトルトの制服の裾を握る。
「ベ、ベルトルト様ぁ……。お姉様が、クォンツ様に迷惑を掛けていたらどうしたら……。もしかしたら、お姉様が無理矢理クォンツ様に自分を運ばせてしまっているかもしれません……ルドラン子爵家の悪評が広まってしまったら、私はどうすれば……」
ぐすぐすと鼻を鳴らすエリシャに、ベルトルトははっと表情を変えるとエリシャに向き直り、励ますようにエリシャの背中にそっと自身の手を乗せる。
「大丈夫だ、大丈夫だよ、エリシャ。もしアイーシャがそのような事を企てていたとしても、僕のケティング侯爵家がアイーシャの悪巧みを阻止してみせるよ。……あまり、ユルドラーク卿とは面識が無いけれども、彼にも話をしてアイーシャに気を付けるように伝えておくから」
ベルトルトの言葉に、エリシャは俯いていた顔を上げると「嬉しいです、ありがとうございます!」と小さく声を上げてベルトルトにそっと体を寄せる。
ベルトルトはエリシャから体を寄せられた事に頬を染めると、そっと周囲に分からないようにエリシャの腰に腕を回して引き寄せた。
エリシャはベルトルトの腕に抱かれながら、頭の中で様々な事を考える。
アイーシャと親しげに会話をしていたクォンツ。クォンツにどうにか接触して、話をしなければならない。
(それに……クォンツ様は公爵家のご嫡男とも、王子様とも面識がありそうだったわ……。公爵家のご嫡男とは仲が良さそうな感じだったから……クォンツ様をベルトルト様にしたようにすれば、きっとクォンツ様も私の言う事を信じて、あの人から離れて行くわ……学園で孤立してしまえばいいのよ、あんな人……っ! 子爵家に居候している分際で、学園にまで通おうとするなんて厚かましい人なんだから……っ)
実際、学園に通う費用も子爵家が裕福な暮らしを出来ている金銭も、アイーシャの今は亡き両親がアイーシャの為、と遺していた莫大な遺産から使われているのだが、エリシャはその金も今は全て自分達の物だと思っている。
エリシャの父親であるケネブの兄夫婦の娘だから仕方無く成人するまではルドラン子爵家で面倒を見ているが、成人したら直ぐに疫病神であるアイーシャはルドラン子爵家から追い出さなくてはならない。
(それに、元々お父様もお母様も、ベルトルト様は私と婚約させるつもりだったんだから……。あんな、少ししか血の繋がりの無いあの人の婿になっちゃったら、子爵家が乗っ取られてしまうわ)
エリシャは仄暗い光を瞳に映しながら、にんまりと気味の悪い笑みを口元に浮かべたのだった。
◇◆◇
「──ク、クォンツ様……クォンツ様……もう宜しいのではないでしょうか……?」
「……? いや、駄目に決まってるだろう?」
大講堂を出て来たアイーシャとクォンツは、常勤医を背後に連れたままボソボソと会話をする。
「だ、だって……っお医者様に診て頂いても私足を捻挫しておりません……っ嘘がバレてしまいます……っ」
「あの常勤医は昔からの知り合いだから大丈夫だ。初めからそこまで痛くはなかった、と言っておけば大丈夫だろう」
「で、ですが……っその……っ」
クォンツの言葉に、それでも納得がいかないような表情でアイーシャがしどろもどろになりながら言葉を返す。
何か言い淀んでいる雰囲気を感じて、クォンツが腕に抱いたアイーシャの顔を見詰めるとアイーシャは頬を染めて自分の顔を両手で覆った。
「──っ、重いから、下ろして頂きたいのです……っ」
蚊の鳴くようなか細い声でそう告げるアイーシャに、クォンツは「は?」と間抜けな声を出してしまう。
「そんな事を気にしてたのか……?」
「そ、そんな事では……っありません……っ」
恥ずかしそうに小さく声を上げるアイーシャの可愛らしさにクォンツはついつい声を上げて笑ってしまう。
「重い訳無いだろう? 寧ろ、アイーシャ嬢は軽すぎる。しっかり飯を食べてんのか?」
「た、食べております……っ」
重い、と言われず寧ろ軽すぎると言われアイーシャはほっと安心したように表情を緩めるが、いかんせんクォンツはまだアイーシャを下ろす事は無さそうだ。
本当に、医務室までこのまま抱き上げられたまま行くつもりなのだろうか、とアイーシャがチラリ、とクォンツに視線を向けるとクォンツはとっても良い笑顔をアイーシャに向けたのだった。
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