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それから、アイーシャは閉じ込められた備蓄庫で自分の魔法を使って比較的快適に過ごす。
途中、ルミアから貰った布の包みを開くと中には二切れのパウンドケーキと、五枚のクッキーが入っており、アイーシャはそれを有難く口にした。
喉が渇いた際には水魔法と火魔法を組み合わせて人間が飲めるよう煮沸した水を作り出し、そして風魔法で冷やしその水を両手に溜めると喉を潤す。
そうして、凡そ夜になったであろう時間帯になると火魔法で作り出した火の玉を何個か消して薄暗くして眠りに着いた。
そうして、アイーシャが眠りに着いて数時間後。朝が来たようで、アイーシャはぱちりと目を開けると固い木箱の上で体を起こした。
「──いたっ」
体を動かした瞬間、昨日捻挫をしてしまった足首と切ってしまった唇に痛みを感じて表情を歪める。
足首は冷えた水を布に浸し、巻き付けてはいたけれど医師に手当てをして貰った訳では無い。
腫れは昨日よりは少しばかり引いてはいるが、それでもまだズキズキ、と痛む。
「──どうしよう、今日学園に行けるかしら……。でも行かないと……放課後クォンツ様やアーキワンデ卿との約束が……」
エリシャに伝言など頼めない。
昨日、あの二人にはあれだけ迷惑を掛けてしまったし、礼儀知らずと言う事が知れてしまっている。
折角、アイーシャ自身の言葉を信じ、普通の会話をしてくれる人と出会えたのだ。
「──あの方達に、もうエリシャを近付けないようにしなくちゃ」
もしかしたら、時が経てばまた同じ事になってしまうかもしれない。
また、自分の周りには誰一人として残らないかもしれない。
けれど、やっと「普通」に話す事が出来て、エリシャの変な主張にも付き合わなかった人達だ。
「ゆ、友人……になれるかもしれないもの、ね……」
子爵家と、侯爵家。リドルに関しては公爵家だ。
普通に生活していては到底知り合う事が出来ないような高位貴族の人と接点を持つ事が出来て、話す事が出来た。
例え、学園の中だけでも。学園に通っている数年間の間だけでもエリシャの主張に異を唱えてくれる人が居る、と考えるだけで心がとても軽くなる。
アイーシャは無意識の内に、クォンツとリドルの事を考えて笑顔を浮かべていた。
そうしている内に、備蓄庫に早足で近付いて来る足音が聞こえて。
ルミアが大急ぎで鍵を外してくれて、アイーシャはやっと外へと出る事が出来た。
それから、アイーシャは大急ぎで湯を浴び、軽く怪我の処理を使用人にしてもらい、軽食を取って学園に行く準備をする。
わざと、なのだろうか。備蓄庫から出された時には既に日が登ってから大分時間が経っていたようで、全ての準備が終わるか、終わらないかそんな絶妙な時間帯で学園に向かう時間がやって来てしまった。
アイーシャが、痛む足を必死に庇いながら玄関ホールへと向かうと、待ちくたびれた、と言うような態度でエリシャがアイーシャを待っていたようで。
アイーシャの姿を見付けるなり、アイーシャに向かって責めるような言葉を紡ぐ。
「──遅いですわ、お姉様……っ! 早く来て下さらないと遅刻してしまいます!」
「エ、エリシャ。私を待たずに先に行ってくれていても良いのよ……」
「えぇー、何でそんなに悲しい事を言うんですかぁ? 折角ベルトルト様も迎えに来てくれるんですし、皆で行った方が楽しいですよ!」
「──っ、」
エリシャは、足を引き摺るアイーシャの腕を掴むと、ぐいぐいと引っ張って行く。
痛い、と叫びエリシャの手を振り払えば今大階段の上で物凄い形相でアイーシャを睨み付けているエリザベートに、また酷い事を言われたり、叩かれそうだ、と感じたアイーシャは足の痛みに耐えながら何とかエリシャに着いて行く。
すると、既に邸の門で待っていたのだろう。
ベルトルトがエリシャの姿を見た瞬間、ぱっと表情を明るく輝かせた後、足を引き摺りエリシャに引っ張られるアイーシャの姿を見て、ベルトルトは慌ててアイーシャとエリシャの元へとやって来た。
「──あっ! ベルトルト様おはようございます! 今日も宜しくお願いしますね」
「あ、ああ……エリシャ嬢おはよう……。アイーシャも……」
「……おはようございます」
エリシャが止まってくれたお陰で、アイーシャがほっと安堵の溜息を吐きつつベルトルトに挨拶を返すと、ベルトルトは気遣うような視線をアイーシャに向けてそっと手を差し出して来た。
「ア、アイーシャ……。怪我をしているんだろう……? 手を貸すから、掴まってくれ……」
ベルトルトの申し出に、アイーシャは驚きで瞳を見開いてしまう。
それはエリシャも同じだったようで、驚いた後、不貞腐れたように表情を歪ませると、アイーシャに向けて差し出されていたベルトルトの手をエリシャが取ってしまう。
「──エ、エリシャ嬢……っ」
「もうっ、ベルトルト様はお優し過ぎますっ! 昨日のお姉様は怒られてもしょうが無い事をしてしまったんですから、手を貸しちゃ駄目です」
エリシャは頬を膨らませながらそう言うと、ベルトルトの手をぐいぐいと引き、馬車へと向かって行ってしまう。
「そ、それはそうだが……っ、アイーシャが悪いのはそうだけれど、怪我をしている女性を歩かせてしまうなんて……っ」
「いいんですっ、お姉様は強いから大丈夫ですわ!」
アイーシャが何処か冷めた気持ちで二人の会話を聞き、馬車に乗り込んでしまった二人に続いて自分も御者に手伝って貰いながら馬車に乗り込む。
アイーシャが馬車に乗り込むと、学園へと動き出してその道中、ベルトルトは何故かアイーシャに向かって、昨日子爵家で起きた事はアイーシャにも責任があるんだから、とか。
アイーシャに対して厳しい態度を取る両親だってきっとアイーシャに真っ当な人間になって欲しいからだ、とか見当違いも甚だしい事を滾々と告げられる。
ベルトルトの話しを半ば聞き流しながら学園までの道のりを何とか耐えたアイーシャが、学園に到着した事を告げられ、馬車から降りようと扉を開けた時。
「──おっ、アイーシャ嬢おはよう」
まさかその場に居るとは思わなかったクォンツの声が聞こえて。
アイーシャは俯いていた顔を勢い良く上げた。
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