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正直に話さないと、クォンツは本当に侯爵家の調査隊を派遣して来そうだ。
アイーシャはそう感じると、観念したように一度瞳を閉じてからクォンツに顔を向けてゆっくりと怪我をした経緯を話し始めた。
──アイーシャが怪我の経緯を全て話し終えると、それまで黙って聞いて居たクォンツが不快感を顕に表情を歪めている。
「……質問していいか?」
「も、勿論です……!」
クォンツは暫く難しい顔をして黙っていたが、ぱっとアイーシャと視線を合わせるとアイーシャを気遣うような感情を瞳に乗せて問い掛ける。
アイーシャが話をしている内に常勤医の手当も終わっていて、常勤医は黙って椅子に座り二人に視線を向けていた。
「先ずは……足の痛みは……、大丈夫なのか? 無理して学園に来ては……まぁ、アイーシャ嬢ならしてそうだが……帰宅するなら送るぞ」
「──ありがとうございます。今は、先生にしっかりと手当して頂けましたし朝のような痛みはありません。この後の授業はしっかりと受けさせて頂きます」
「そうか……。無理はせず、な……。──それで……アイーシャ嬢の両親は、かなりアイーシャ嬢に対して厳しいが……何故アイーシャ嬢の妹の話を鵜呑みにして疑いもしない……? あの婚約者もそう、だよな?」
「──っ、それ、は……」
アイーシャは一瞬だけ言葉に詰まったが、ルドラン子爵家の状況は隠していても調べれば直ぐに分かる。
下位貴族であるアイーシャの子爵家の事を知らなかったクォンツも、調べれば簡単に分かるだろう。
あの家で、自分だけが「家族」となれていない事は、異質な状態である事はきっとクォンツやリドルには隠し通せない。
だから、アイーシャは素直にクォンツに説明する事にした。
「──私の、お父様とお母様は……幼い頃に馬車の事故で亡くなっております。……今のお義父様とお義母様は、私のお父様の弟──叔父、です。叔父であるケネブ様が当時まだ六歳だった私を養子として迎えて下さり、ケネブ様が子爵家の爵位を継ぎました」
「なるほどな……。それで、叔父夫婦がそのままアイーシャ嬢の親になったが……自分の娘可愛さにアイーシャ嬢に酷く当たった、って訳か」
クォンツは納得がいったようにアイーシャに向かってそう答えると「なるほどな」と何度も頷いている。
「……暴力は、日常的に振るわれてんのか……? 先日も思ったが、体重が軽すぎる。飯を抜かれてんのか……?」
「そっ、そんな事はございません……! 今まで手を上げられてしまった事は無くて……っ、昨日が初めてです! それに、ご飯もきちんと頂いてます!」
ぎょっとして、アイーシャはぶんぶんと首を横に振り、クォンツの言葉を否定する。
嘘はついていない。
暴力を振るわれた事は無いし、ご飯だって滅多な事では抜かれない。
昔、子供の頃は何度か抜かれてしまった事はあるが成長したここ最近は本当に久しぶりだ。
アイーシャの様子をじぃっと見ていたクォンツは、特にアイーシャが嘘をついていたり、子爵家の面々を庇ったりしていない、と言う事を感じ取ると、「そうか」と言葉を続ける。
「──だが、アイーシャ嬢の子爵家が異常なのは俺でも分かる。自分の子供可愛さに贔屓したりするのは……まあ人間だからな、あるだろうがアイーシャ嬢に対するあの妹の態度と婚約者の態度を見ていると出会ってまだ日も経っていない俺でも変な家だ、と言う事が分かるぞ」
「えっ、ええ?」
「アイーシャ嬢は感覚が麻痺しちまってんじゃねーか? おら、まだあるだろ。洗いざらい全部吐け。幼い頃の事も、全部な」
喋っちまえ喋っちまえ、と軽い調子でぽんぽんと質問してくるクォンツにつられて、アイーシャもその質問にするする、と答えていってしまう。
その様子を二人から少し離れた場所で見ていた常勤医は、クォンツを見詰めながら末恐ろしい、と独り言ちる。
(──あんなに自然で違和感の無い誘導尋問のような質問は初めて見たな……)
常勤医は、クォンツの巧みな話術に楽しく会話をしながらぽろぽろとクォンツが欲しているだろう情報を口にするアイーシャに哀れむような視線を送ったのだった。
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